作家・山内マリコが綴る 女性にとって「長く使えるいいモノ」とは
作家・山内マリコさんは30代を迎え、安くてカワイイを合い言葉に大量消費する時代を卒業、多少値が張っても、長く使えるいいモノが欲しくなってきたといいます。
そんな山内さんが選ぶ品々が紹介されていく本書『買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて』は、週刊文春にて2014年4月10日号から2015年8月6日号まで連載されていた”お伊勢丹より愛をこめて”をまとめ、文庫本化した待望の一冊。
「年齢と懐具合と相談しながらちょっとずつ買い集めたものたちで、いまのわたしはできている。財布、傘、バッグ、手帳、靴、ジーパン、ヘアブラシ、机。自分が選んだもので、自分自身が形作られている。これは毎日の食事がその人を作っているのと同じこと。おろそかにしちゃいけない」(本書より)
本書では、プラダの長財布にはじまり、ロンシャンのナイロントート、シュット! インティメイツの下着、クレールフォンテーヌのノート、トラディショナル ウェザーウェアの傘、グッチのレザートート、アントン・ヒュニスのピアスとネックレス……といったように、山内さんを形作っているあらゆるモノと、それにまつわるエピソードが綴られていきますが、デビュー作『ここは退屈迎えに来て』のプロフィールで”バブル崩壊後の地方都市で、外国映画をレンタルしつづける十代を送る”と自己紹介しているほど、映画好きの山内さん。どのようなモノを選ぶのかの判断基準が、好きな映画にまつわるときも。
たとえば2013年に劇場公開されたドキュメンタリー『キューティー&ボクサー』。日本ではじめてモヒカン刈りにした男として知られる芸術家・篠原有司男と、その妻乃り子の、ニューヨークでの日常を追ったこの作品における、乃り子の朝の身支度シーンに影響を受け、メイソンピアソンのヘアブラシを購入したといいます。
「真剣な面持ちで髪を梳かし、ギュッと固くおさげを結う乃り子。寝起きのボサボサ髪が、丁寧なブラッシングでつやつやロングに変貌する様を見て、わたしは決めた。ずっと迷っていたメイソンピアソンの猪毛100%高級ヘアブラシ(イギリス製、約2万円)、買います! いまから30年ブラッシングをがんばって、ゆくゆくは乃り子のようなつやつやの白髪レディになりたい。この買い物はその夢への第一歩なのだ」(本書より)
山内さんは自身の買い物を通し「好きなものへの思い、暮らし方、買い方、処分の仕方、近ごろの消費傾向、ほのかなエコ意識、果ては現代社会のあり方」(本書より)に思いを巡らせたといいます。身の回りの買い物品を見渡してみると、自分自身について気付かされるところもあるかもしれません。
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