あの日から5年 タクシードライバーが遭遇した「震災幽霊」が伝える被災地のリアル
日本全体が未曾有の大震災に見舞われた2011年3月11日。”あの日”から、早くも5年が過ぎたわけですが、東北の被災地で、今なお後を絶たないのが「震災幽霊」の目撃談。ともすれば”不謹慎だ””夢でも見たのでは?”と切り捨てられてしまう怪奇現象ですが、その捉え方に一石を投じる書籍が話題になっているのをご存知でしょうか?
その書籍こそ、今回ご紹介する論文集『呼び覚まされる霊性の震災学 3.11生と死のはざまで』。同書は、フィールドワーク(社会調査)が専門の社会学者で、東北学院大学教授の金菱清(かねびし・きよし)さんが、ゼミの学生とともに実施した「震災の記録プロジェクト」の集大成。
出版前から注目を集めたのは、被災地のタクシードライバーが邂逅(かいこう)した震災幽霊をテーマに据えた第1章『死者たちが通う街 タクシードライバーの幽霊現象』。同大4年の工藤優花(くどう・ゆか)さんが卒業論文として執筆したもので、現場に何度も足を運び、市内の通行人やタクシードライバーに聞き取り調査を行った成果をまとめたものです。
津波被害が甚大だった宮城県石巻市沿岸部では、震災直後から幽霊の噂が囁かれていましたが、ドライバーが遭遇した幽霊の場合には、メーター記録や乗務日誌などによりリアルな証拠が存在することが大きな特徴。ドライバーが、車内に乗客を乗せた時点でメーターが切られるため、「無賃乗車」扱いで幽霊を乗せた証拠が残っているのです。
工藤さんが聞き取りをしたドライバー約100人のうち、幽霊の証言をしたのは4人。工藤さんはこれらの証言から、いずれの幽霊も”季節外れの真冬の格好で、若年層に見えた”という共通項を見出します。
震災で娘を亡くしたというドライバーは”最初は怖かったが、震災で亡くなった人の中にはこの世に未練を残した人がいて当然。また同じような季節外れの冬服の人がタクシーを待っていたら、普通のお客さんと同じように乗せる”と証言。聞き取りを重ねた工藤さんが感じたのは、震災で亡くなった人に対する畏敬(いけい)の念。幽霊発生の背景には、死者への畏敬の念と、震災を体験した石巻市の地域性があるのではないかという考察をしています。
復興が進む一方で、震災死に直面した人々の心のケアが置き去りにされている現状。工藤さんはじめ、同大の学生たちが丹念にフィールドワークを重ね、被災地の声を掬い取った成果である同書は、メディアが伝えない被災地のリアルを伝える1冊となっています。
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