築50年以上の古家がリノベーションで新築同様に
国が発表した統計では、8軒に1軒は空き家だ。こうした背景から、住まいの選択肢に、中古住宅を買ってリノベーションして住むという選択肢も徐々に広がってきている。ただし、昔に建てられた住宅と新築住宅では、耐震性能や省エネ性能の差は歴然としてある。ところが最近では、古い住宅でも、新築同様の性能とするリノベーション住宅が誕生してきている。
築50年以上の一戸建てが、新築同様によみがえった
「リノベーションといえども基本性能は新築と同等レベルを目指しました」と話すのは、(株)リビタ・戸建事業部チーフディレクターの宇都宮惇さんだ。
小田急線で新宿から約20分の千歳船橋駅が最寄り。世田谷区桜丘の閑静な住宅地のなかに、一戸建て住宅をリノベーションした「世田谷桜丘の家」はある。外観は、白い箱を二段重ね、庇や連窓のサッシ枠の黒がクッキリと印象的なたたずまいだ。
もともとの建物については、はっきりとは分からないが、登記簿では昭和30年代と確認できるものの実際はそれよりも古く、軽く50年はたつ古家だったという。
改修前の建物の写真を見ると、かなり古ぼけて傷んでおり、建物の形や大きさも現在とは異なっている。これが、リノベーションによって新築同様によみがえった。 【画像1】2015年12月、リノベーションを行った「世田谷桜丘の家」。白い箱を重ねたような外観が印象的だ(写真:リビタ) 【画像2】「世田谷桜丘の家」夜景。1階は周辺からの視線に配慮して高い位置に、2階は大きめの開口部が連窓とされ、モダンな雰囲気だ(写真:リビタ)【画像3】改修前の「世田谷桜丘の家」。推定築50年以上の古く傷みの激しい住宅だった。形も改修後と大きく異なる(写真:リビタ)
中古の一戸建ては壁・床・天井を剥いではじめて傷みの度合が分かる
リビタが、古い一戸建て住宅を買い取り、リノベーションを施して再販する、いわゆる「買取リノベーション再販」を手掛けはじめたのは2013年。この「世田谷桜丘の家」は、その15棟目に当たる。
同じ中古でも中古マンションに比べて、中古一戸建て住宅のリノベーションは、改修の程度やかかるコストなど不透明なところが多く、一般の人が自身で行うにはハードルが高い。中古マンションは躯体や水まわりなど設備面について、築年や簡単な調査である程度予測・確認できる。それに比べて中古の一戸建て住宅は、基礎や柱・梁といった構造体や設備配管などが壁の内側に隠れているので、腐朽や劣化がどれくらい進んでいるかなど、住宅の基本性能を確認するのが困難なのだ。つまり、満足いく性能に改修するのに幾らくらいかかるのか事前に予測するのが難しい。
リビタでは、この物件については、購入後、内側の壁、床、天井を剥いで、柱・梁・基礎の傷みが確認できるスケルトン状態にした上で、外部の建物検査機関に調査を依頼したという。
報告書では、外壁・屋根は劣化が進んで使えないこと、1階奥で雨漏りが生じていることや、旧耐震時代の建物であることから根本的な耐震計画に基づいた工事を行う必要性が指摘されている。報告書の内容は、古い建物であるため意外なことではなかった。 【画像4】建物検査機関の調査に当たって、内壁と床を剥いでしまい、柱・梁・基礎など全てを露わにした(写真:リビタ)【画像5】床下の構造材(大引き)の一部は劣化していた(写真:リビタ)
築古でも最新の性能をもつ住宅に生まれ変わることを実証
宇都宮さんは「一部、構造躯体を残しながら、その他もできる限り再利用できるよう、大工さんにて再選定・きざみ直しをしました。柱・梁などの木は劣化したところを除いたり補修すれば、まだまだ丈夫で将来にわたって使うことが可能です。新築と違って、材料費は抑制できますが、その代わり手間と時間はかかっています」と打ち明ける。
「よその現場では、メーカー住宅が2~3カ月で完成してるのに、こちらの現場は遅々として進まない。しかし、あえてリノベーションに挑戦することで、住宅ストックの再生の可能性を探ることに意義を見いだしています」と語る。
そしてリノベーションに当たってコンセプトに据えたのは、最新の住宅性能を満たすことだ。「国が進める長期優良住宅化リフォーム推進事業のS基準を満たすとともに、2020年から新築では義務化される予定の省エネ基準(等級4)を満たすことを目指しました」(宇都宮さん)と話す。リノベーションでも、新築並みの住宅性能を得られることを実証するのが目的だという。また、かけられるコストは決まっているため、必要に応じて施工業者と工程や作業の見直しをしつつ改修に取り組んだ。
長期優良住宅化リフォームは、2009年から新築住宅で進められてきたおおむね100年の寿命を実現できる住宅性能を求める「長期優良住宅制度」を、既存住宅の改修においても枠を広げたものだ。
A基準とS基準とあり、S基準はより難易度の高い新築住宅の認定基準と同等。住宅性能の評価項目は、劣化対策、耐震性、維持管理・更新の容易性、省エネルギー対策などがある。現在は、住宅事業者の取り組みについて国が補助事業を行っており、「世田谷桜丘の家」では、このS基準を満たすことで、200万円の補助金を得て改修費用に充てた。
また、建築の省エネ対策は、これまでの「省エネ法」(2017年3月末で廃止)に代わり、2016年4月からは「建築物省エネ法」(2015年7月制定)が適用される移行期に当たる(図1参照)。これは”家の燃費性能”に着目し、2020年をめどに基準を厳しく課していく、2016年度はその過渡期に当たる。そして、2020年4月からは、その新しい省エネ基準が一定規模以上の建物において義務化されることになっている。【図1】各省エネ基準の施行・廃止等のスケジュール(出典:国土交通省)
宇都宮さんは「『世田谷桜丘の家』では、この新しい省エネ基準を先取りしています。窓は複層ガラスのアルミ樹脂複合サッシとし、基礎・外壁・屋根の断熱工事を行い、求められる省エネルギー性能を確保しました」と話す。シミュレーションによる住宅の光熱費等も分かるしくみだ。既存住宅を解体・調査・再構築することで、こうした新築並みの高い住宅性能が可能になったという。
既存住宅の恵まれた立地、内装”すっぴん”仕上げも好評
ここまで、リノベーションされた住宅の基本性能についての、比較的難しい話になってしまった。
その一方で、そもそもこの「世田谷桜丘の家」の魅力は、既存住宅であるからこその、その立地や環境を含めた優位性にあるだろう。西側を都営住宅の公園に、南側を区立中学校の庭に隣接する敷地だ。2階のリビングからは新設されたウッドデッキの先、中学校の敷地の桜の木が間近に眺められ、春は家にいながらにして花見が楽しめそうだ。開口部が大きく取られたことで、光や風のあふれる住宅となっているのが大きな魅力だ。人気のある落ち着いた住宅地において、これだけ恵まれた環境条件は希少だと言ってよいだろう。 【画像6】1階の玄関土間を介して。部屋は区切らず一室空間としている。住まい手が、希望によって2部屋、3部屋をつくるコストを含むプランも用意している(写真:リビタ) 【画像7】2階は元の住宅の屋根の形状を記憶として再現した。最大約3.6mの天井高と西側の連窓、南側の掃き出しの開口部で明るく開放感がある。屋根・外壁に断熱材はしっかりと施工されている(写真:リビタ) 【画像8】中学校の裏庭に面したウッドデッキ。中学校敷地の桜の木が間近に迫っている(写真:リビタ) 【画像9】南側の明るいキッチン(写真:リビタ)【画像10】2階にはロフトをつくり、空間のバリエーションにおいて変化をつけた(写真:リビタ)
2016年1月中旬、内覧会が行われた。関心をもって訪れた来場者は多く、住宅の2階からの眺望や日照のよさについて評価が高かったという。柱や梁、内壁の合板など、すっぴんと表現するのが適当な、あえて仕上げをしない内装についても、好感がもたれたという。
1階は間仕切り壁を設置することが可能だがあえて1室空間とし、収納を設けないなど、新しい住まい手が自ら手を入れられる設えとしている。「これまでのプロジェクトでも、ある意味そっけない仕上げでお客様に引き渡してきました。ただ、数カ月後に不具合の確認など定期点検で訪れると、みなさん自分らしい家具や、インテリアを施されていて、こちらが驚かされることも多いです」と宇都宮さんは話す。
このような、建物をスケルトン状態まで戻して耐震性・断熱性能を新築と遜色ないレベルにするリノベーションは、北海道などで先行して取り組まれてきた。現在、国が行っている「長期優良住宅化リフォーム推進事業」により、全国の事業者が新築並みの性能向上リノベーションに取り組んでいるという。各事業者がこうした経験を積むことで、リノベーション技術やコストを抑えるノウハウの蓄積が期待される。
元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/02/106336_main.jpg
住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
関連記事リンク(外部サイト)
~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。
ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/
TwitterID: suumo_journal
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。