金の力と開き直り!なWWEイズムを感じる、Like No Otherなカルト作『ムーンウォーカー』

 世にある数多の作品の中には、「これは映画なのか」と疑問を抱いてしまう作品があるかと思います。そんな疑問に対峙した時、筆者は”ある作品”を思い浮かべ、心を落ち着かせるのです。
 その作品こそ、世界のMJことマイケル・ジャクソンの『ムーンウォーカー』(1988)。”他に類を見ない映画(A Movie Like No Other)”という大胆なキャッチコピーも話題になりました。

 本作は3部構成。序盤がジャクソン5時代を含めたMJの足跡(1988年までの)を辿ったPV。MJを知らない人でもその魅力が分かるであろう素晴らしい内容です。

 17分からの中盤もPVパートで、ファンとの追いかけっこからの謎ドタバタ劇を描いたストップモーションによるクレイ・アニメーションと実写のMJがコラボします。ただ、これがもう並のカルト作品すら寄せ付けないとんでもない破壊力を持った映像なんですね。

 登場するのはMJが扮装するウサギのキャラを含め、可愛さの欠片もないバタ臭い造型のキャラクターばかり。しかもクレイ・アニメーションの仕上がりが無駄にハイレベルなせいか余計に気持ち悪いんですね。
 このパートを『カリフォルニアレーズン協会』のCM、TV番組や映画製作に携わったウィル・ヴィントン・プロダクション(※)が担当していると聞けば、オッサン世代なら「だろうね!こうなっちゃうだろうね!」と、苦笑いと共に膝を叩くことでしょう。

 37分以降はドラマパート本編。孤児っぽい少年少女とMJが謎の犯罪組織のアジトに潜り込んでしまい、世界征服の計画を知ってしまって……というお話。
 ジョー・ペシ率いる悪の軍団に追われるMJですが、踊ってポーズを決めれば敵は吹き飛び、窓は割れ、車に変身。観てるこちらが呆気にとられていると、本作の最大の見せ場「スムーズ・クリミナル」のダンスシーケンスへ!

 MJのPVにおけるお約束であるアクションや寸劇、大人数での一糸乱れぬダンスを絡めた、目を見張る出来栄え。これだけ観てしまえば「これが映画かどうかなんてどうでも良いか」と思えて来るほどシビれる内容です。

 ところが、悪の軍団に捕まってしまった少女を助けるため、MJが(超ダサい)謎戦闘ロボに変身するわ、飛行形態になるやハイトーンボイスで波動砲発射しちゃったりで、もう何が何だかわからないよ……。
 ただ、クライマックスのロボから飛行形態でのバトルシーンは、80年代の特撮技術とテイストが好きな人間には堪らない出来であるのは確かです。

 そんなワケでMJマネーパワーによって産み落とされ、”他には類を見ない映画”と開き直った本作。恐らくMJのPV(MV)として観るのが大人の対応ですが、カルト映画と捉えて「これも”映画”で良いじゃん」と受け入れてしまった方が問題作に出会った時の免疫になるというもの。

 そして本作における金の力と開き直りは、世界イチのプロレス団体WWEと重なる部分。
 所属レスラー主演の映画製作のためにマネーパワーで自社スタジオを設立。はたまた株主公開やスポーツ興行に対する条例の抜け穴として、脚本のある”他には類を見ない”スポーツエンターテイメントだと開き直ったWWE。こういう姿勢のMJとWWE、筆者は大好きです。

(文/シングウヤスアキ)

※ストップモーション・アニメーション制作会社。ちなみに当時本作に携わったスタッフの中に、WWEが2014年に製作した人形アニメ番組『WWE Slam City』のアニメーターがいることも面白い共通点です。

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