『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』モーガン・フリーマンインタビュー
ロサンゼルス・タイムズから「ほとんど完璧な小説」と評されたロングセラー小説『眺めのいい部屋売ります』が待望の映画化。モーガン・フリーマンとダイアン・キートン念願の初共演となった本作の公開を前に、モーガン・フリーマンのインタビューをお届けする。
ーー本作を製作、出演した経緯についてお話いただけますか。
モーガン「どうだったか、詳しくは覚えていないんだが、向こうから話が来たんだ。空から落ちてきたわけではないが、実際どうだったか詳しいことは覚えてない。どこかのエージェンシーが映画化を提案してくれたんだろうね。とにかくそれを見てすぐに、これは僕らにぴったりだと思ったよ。ぜひともうちの会社で手がけたい作品だとね。僕らはいつも作品を探しているから、その中で自分の好きなものに出会えたというわけだ。その後は出資者を探して、やりたいことを伝えればいいんだよ、空飛ぶヒーローではなく老夫婦の物語を作りたいんだとね。以前は若い観客が大半だったが今は必ずしもそうではない。団塊の世代が年を取ったからね。それはかなりの数だよ。年寄りが主役の小さな映画でも見る人はいる。ハリウッドも新しい観客の存在に注目し始めた。年寄りの映画を見に来る年配の観客たちだ」
ーーダイアン・キートンについて聞かせて下さい。
モーガン「実は僕は昔からダイアン・キートンのファンだったんだよ。尊敬する人で、昔から大好きだった人だ。僕の“やりたいことリスト”にも彼女との共演が入っていた。この映画の話が決まった時、リストを見て、この役にはダイアンがぴったりだと思った。それでお願いをしたら、彼女も“イエス”と言ってくれたんだよ。
彼女とは面識があったが、共演するのは実は今回が初めてなんだ。2008年に僕が ブロードウェイの舞台『カントリー・ガール』に出た時に彼女が見に来てくれて、楽屋にも顔を出してくれた。その後 僕から彼女に『一緒に仕事をしよう』と声かけたんだ。映画出演を依頼したのさ。この映画の原作の主人公はユダヤ人の夫婦なんだけど、僕自身が出るために異人種の夫婦にしたんだ。脚本の出所はCAAで、実を言うと当初僕らはユダヤ人の夫婦を演じるつもりだったんだ。僕がユダヤ人になれるようにちゃんと背景も考えてあった。母親がユダヤ人でない人も改宗すればユダヤ人になれる。彼が改宗して妻の姓を名乗ったとすれば、僕の役名も原作のとおりアレックス・コーエンだ。でも結局それはやめようということになった。
最初から ダイアンと僕、2人の相性はバッチリだった。そこから始まっていい関係はずっと続いたよ。僕自身も俳優だからずっと思っていた、“ダイアンと共演したい、彼女とダンスしたい”とね。今回やっとそれが叶ったわけなんだが、一緒に仕事してみたら実際思い描いていた通りだったよ。最高に楽しかった。それは最初から変わってないよ、2人が出会った頃からずっとね。彼女はこの映画にたくさんのものをもたらしてくれた」
ーー今回の役柄、画家のアレックスについてはどうですか?
モーガン「僕が演じたアレックスは、当時新進気鋭の若手画家だった。ダイアンが演じたルースはそこに絵のモデルとしてやってきたんだ。ルースは若いころから勇敢で芯の強い女性だった。結婚を反対する自分の家族に立ち向かったんだよ、アレックスと結婚するためにね。そして 本当に結婚し二度と過去を振り返らなかった。アレックスは、アーティストだから、すごく敏感なんだ。自分が評価されていないと感じたら“もうダメだ”となってしまう。それでも長年絵を描き続けられたのは妻の励ましがあったからだろう。
僕とアレックスはまったく畑違いの世界にいるからね。僕自身はショービズの世界にいるから観客を喜ばせるのが仕事だし、人の意見を無視して好き勝手にやるわけにはいかない。アーティストの中でも画家や音楽家もある程度はそうかもしれないが、とにかく 絵やビジュアルを扱うアーティストは客の要求に応えられないと思う。客だって要求のしようがないよ。ゴッホに『星月夜が売れる』なんて教えられる人はいない、誰にも予期できないからね。思いついたままを描くしかない。彼女が色の配置に口出しするシーンは とても良かったよ。彼女が正しいよ(笑)」
ーー映画ではどのシーンが印象深かったですか?
モーガン「今回はアパートの中でのシーンがほとんどだったが、特に難しいと思うことはなかったよ。実際には あのアパートの3階で撮影していたんだ、5階ではなくてね。アレックスが 犬のドロシーをルースに贈るシーンがあったね。彼女にとってはとても大事な犬なんだ、この夫婦は子供を持てなかったからね。動物病院でのシーンは面白かったよ、アレックスは 犬のための高額な手術に乗り気じゃない。それで“蘇生しない”という紙を手にするけれど、妻の反応を見て“何でもしてくれ”と一気に態度を変えるんだ。犬ではなく 彼女のためにね」
ーー今後の展望について教えて下さい。
モーガン「僕の“やりたいことリスト”にはまだ続きがあって、あと3本ほどプロデュースしたい作品があるんだ。それには僕自身は出演しないで若い人を使うことになると思うが、自分の会社があるから実現は可能だし、するつもりだ。西部劇に戦争映画に宇宙映画だ」
『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』
2016年1月30日、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川ほか全国順次公開
ブルックリンの街を一望できるアパートメントの最上階、画家のアレックスと愛妻ルースがこの理想的な我が家に住んで40年が経った。しかし、この建物には欠点がひとつだけあった。それは、エレベータ―が無いこと。アレックスが日課となった愛犬ドロシーとの散歩を終え、5階にある我が家への階段をようやく上り終えて帰宅すると、姪のリリーが明日の準備のためにきていた。夫の今後を心配したルースがエレベータ―のある住居へ引っ越そうとアレックスを説き伏せ、今の住まいを売ることにしたのだ。いよいよ明日が購入希望者のためのオープンハウスの日。やり手不動産エージェントのリリーは、手ぐすね引いて内覧希望者を待ち構えていた。
そんな時、ドロシーに異変が。夫妻は5番街の行きつけの動物病院へとタクシーを走らせる。ところが、車は一向に動かない。折から、マンハッタンへ渡る橋上でタンクローリーが道をふさいでいるらしい。ようやく獣医に見てもらったドロシーはヘルニアを患っており、手術が必要と言われてしまう。
翌朝、やる気満々のリリーがお客を連れてやって来た。オープンハウスは一風変わったニューヨーカーたちで大賑わい。早速いくつかのオファーが入ると同時に、獣医からドロシーの手術成功の連絡を受け取り、二人はほっと一安心。一方、いそいそと新居候補を探し始めるルースとアレックスをよそに、タンクローリー事故は一夜にしてテロ事件へと様相を変えていた。果たして、アレックスとルースの見晴らしの良い我が家は誰の手に渡るのか? 夫妻の新しい家はどうなるのだろうか? そして、アレックスとルースが最後に下した決断とは?
監督:リチャード・ロンクレイン 脚本:チャーリー・ピータース
キャスト:モーガン・フリーマン/ダイアン・キートン/シンシア・ニクソン/クレア・ヴァン・ダー・ブーム/コーリー・ジャクソンほか
2014年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/92分 原作本:ジル・シメント『眺めのいい部屋売ります』(小学館文庫)
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