「たいがいにせい!利益は1円もいらない!」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(7)

孫正義氏(右)と堀義人氏(左)

 ソフトバンクの孫正義社長とグロービス代表の堀義人氏が2011年8月5日の夜、公開討論会を行った。堀氏を含め孫氏を「政商」だと批判する人が多いことについて、孫氏は「たいがいにせい!利益は1円もいらない!」怒りをあらわにした。これに対して、堀氏は「政商」発言を撤回し、両者が肩を組み、握手をした。

 その後、逆に堀氏が孫氏に「原発関係者が目先の利益を考えているという発言を撤回いただきたい」と詰め寄る場面もあったが、孫氏は「僕は原発に今まで関わってきた全ての人が、目先の利益論者でけしからん輩だなんて言った覚えは1度もない」と反論していた。

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 以下、孫氏と堀氏のやりとりを全文、書き起こして紹介する。

「素人だけど私は私で信じることを一生懸命言う」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(6)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97484

■「固定買い取りは世界中の共通のやりかた」

堀義人氏(以下、堀): 僕は最初の冒頭に申し上げたとおり、基本的に自然エネルギーに関しては賛成です。私は実は住友商事で実は電力事業を行っていたんですね。従ってその自由化された買い取り制度というものに関しても、そういうこと理解があって基本的にそれがなければ始まらないだろうということも理解しています。で、途中で市場が立ち上がった段階で価格を下げていけばいいとおっしゃっていますね。それならば僕は・・・

孫正義氏(以下、孫): 欧米だってそれが常識でやっているわけですから。

: 20年間固定になるとこれは・・・

: いや、一回契約したらそこからその年につくった設備は20年間固定買い取りですよ。これが欧米で、世界中でやっている共通のやりかたですから。だけどその年につくったら1回設備投資して回収するのに10年、20年かかるわけですから。それをつくった後に、後だしジャンケンで急にまだ回収が終わっていないのに値段を下げられるなんていったら誰も設備投資する人なんていないですよ。そういう状況では銀行からの借り入れは絶対できないですよ。

: スペインはそういう形でやっていますよね。

: いやいや、スペインもどこの国でも僕の理解では、1回契約したらその年に作ったその設備が20年間、むしろヨーロッパでは25年が多いですよ。日本では15年とか20年で、むこうは20年から25年でその年に契約してその年につくった設備が固定なんです。そして、その上で翌年新たにつくったやつは、翌年なりの相場でそのときにコストダウンできてる設備をすればいい。電力事業に関わっていた割にはそのポイントについては、ぜひ正しい理解をして頂きたい。ヨーロッパではそれが常識のルールだ。

: 僕はなぜそれを申し上げたかというと、孫さんが出ていた週刊ダイヤモンドを見ると、その商社の方が言っているのは、2割、3割減ってしまったというんですよ。買ってくれる電力料金に関して。売り上げ自体が。

: 新たに作ったやつについてはということです。

: それはちょっと外国の話ですけれども・・・

: それは新たに作るものに対する料金が、その年に前の年につくった設備よりは減ったという意味ですよ。正しく理解して頂きたい。僕は確認しています。

: 僕も確認して間違っていたら訂正しましょう。お互いね、訂正しましょう。それがフェアだと思いますね。そう書いてありますから。

: 少なくとも全量買い取り制度という基本はその年につくったやつは、固定買い取り制度なんです。これが基本的な常識です。ぜひ確認してください。

: わかりました。

■「我が社だけ特別な利権をくださいなんて思ったことすらない」

熱弁する孫氏

: 僕が少なくともこの業界でね、モデルケースをつくらなくてはいけないと言っているわけですから、真剣にそこ確認してやっている。私が日本だけ、しかも我が社だけ何か特別な利権をくださいとか、特別な何か融通ください。条件ください。なんて1回も言ったことがない。思ったことすらない。これは欧米、特にヨーロッパでやってる、自然エネルギー先進国でやってる常識的なモデルを、ヨーロッパでは、欧米ではIRR、プロジェクトのIRR、投資に対するリターンが6%から8%です。で、6%だとほとんどやらないというのが彼らの常識で、基本的には投資に対する利回りが年率8%というのがそこにつくるかつくらないかの彼らの目線のものさしです。僕はいろんな人に聞きました。

 今日本で議論しているのはそれよりはるかに少ないところで、今回経産相は決めようとしている。それ自体がもう法の事実上、無効力化をしようとしていることに、僕はなっているということを逆に心配している。少なくとも世界には世界相場というものがあって、世界の技術の相場というものがあって、世界の利回りの相場というものがあって、その世界の基本的な相場の枠組みの中の、相場の枠組みの下限くらいならまだいい。下限を下回って日本だけは、ただでさえ遅れているのに、世界の投資利回りの下限を下回るところで、やりたいやつだけやれっていうのはほとんど手を挙げる人はいないですよ。

 まずさっきから言っているような、専門家の海外で既にやっている日本の商社は、ほとんどやらないですよ。僕は彼らにはっきり聞いたんです。そしたら彼らは6%未満では絶対やりませんと。はっきり社長レベルの方が僕に言いました。それを下回る数字でいま議論しているから僕は問題ですと言っているんです。

: 下げろと言っているわけではないですよ、契約したものに関して。ただ聞いただけであって、スペインの状況というのを。僕の理解と違ったんで。それはフェアじゃないなと思って読んでいた記憶があるんで。見なければならないと・・・

: 確認下さい。

: はい。確認しましょう。ということですので、僕は大体・・・

: 僕は日本でこの産業に参入する人がボロ儲けするようなルールをつくっちゃいけない。

:  そこは価格設定ですよね。

: そういうことは非常に思っています。価格設定のプロセスは透明性を持って、投資利回りが少なくとも一般的、世界的常識に見合う範囲のものでやらなきゃいけないという風に思っています。

■「たいがいにせい!利益は1円もいらない!」

「40年間、ソフトバンクへの利益配当無し」と孫氏が宣言

: ちょっとあと2つぐらい質問して・・・

: これについてもう1個だけ。ついでですから、ちょっと僕のなんか、付録のページを。

: じゃあ僕の付録のページもちょっと用意して貰って。(会場から笑い)

: 僕は、堀さんも含めていろんな人から、「政商」だと言われている。政治家におべっかを使って、ソフトバンクの利権をむさぼるために、ソフトバンクの私事の利益をむさぼる為に、この自然エネルギーに血眼になっていると。そういう風に非難されている。

 で、風力発電についても、最初の1日目から僕は言っているにもかかわらず、黙って後でこっそりやってと批判する輩もいる。僕らから言わせれば。「たいがいにせい」と言いたい。「たいがいにせい」という意味で、今日はっきり申し上げておくと、僕が本音で何を検討しているかというと、自然エネルギーはソフトバンクの本業ではありません。ソフトバンクの本業はあくまで情報革命だと創業以来変わらない。今後も変わらない。

 たまたま今国難において、よせばいいのに首つっこんでいる。非難されながら。これは新会社を作る方向で今検討している。ソフトバンクが過半数の株を取ろうとも思ってないと、いうぐらいの状況で、ジョイントベンチャーという形で出資者を募ってやるつもりでいます。で、その出資者を募る、その出資者のほかの出資者は先ほどの商社の話じゃないけれど、平均的な一般常識の利回りがないと、これは出資に参加を応じてくれません。堀さんも少しはお金があると思うんで、その堀さんですら、出資に対する利回りゼロだったら、「うーん」と考ると思うんですよ。自分の本業があるから。僕は、出資に同意してくださる方には常識的な出資に対する配当なり何なりは必要だと思います。

 だけど、僕は、別に本業があるから、このことに頼らなくていいから、このことのためにつくる会社に対して、リードインベスターとして、主要株主の一社として、出資するつもりはあります。口から泡をだしてこれをやるべきだと、唱えるつもりもあります、きっかけづくりもやります。だけど、このことによって得られる利益は、その利益の配当は少なくとも40年間1円もいらない。欲しくない。1円でも貰ったが故に批判されることの方が嫌だ。僕はそんなことの為に、口から泡を飛ばして夜も寝ずに考えとるとちゃうわいと、言っておきたい。「政商」と言ったことは撤回して欲しいと。

: はい。孫さんその前に僕はあの・・・

: いやいや。聞いているんです。その前にじゃなくて、この事に対してあなたが「政商」だとはっきりツイッターで言ったじゃないか。

: これは、撤回します。

(孫氏、堀氏が肩を組み、握手。会場から拍手)

■「原発関係者が目先の利益を考えているという発言を撤回いただきたい」

「目先の利益」発言の撤回を孫氏に求める堀氏

: ただしね、理解して頂きたいことがあるんであの申し上げると、2つ理解して頂きたいんですが、1つは僕が1番心配したのは今日申し上げた通り、エネルギー政策です。将来に渡るエネルギー政策に関して、孫さんがあまりにも脱原発に動いてそれによって多くの人が影響をおよぼされると、困ってしまうというのがひとつあったんですね。今日聞いて、それはミニマムであってもそれはやるという方向でおっしゃったので、安心しました。したがって、「政商」という言葉は撤回します。

 一方では孫さん、ひとつ撤回して欲しい言葉があるんですね。それは何かって言うと、原発の関係者は目先の利益だけを考えているという発言があったですが、僕はそれに憤慨しました。僕は東海村育ちで、親父も兄貴も原子力の関係者で、僕も京大の原子学を受けたくらいです。将来に対して夢を持っていたんですよ。彼らは研究員ですから、目先の利益なんて考えていないわけなんですよ。世界のこれからのそのエネルギー政策を考えて、どういう風に自分達が貢献できるかを考えて、国際会議にも参加して、原発の安全性に関しても貢献しているわけですよね。彼らを含めて全てが目先の利益に、それは考えている人ばっかりではない。

 そういった人達のことも是非とも理解して頂きたいと思っていますし、その人たちと同時に、本当に日本を良くしていこうと思って、彼らはみんな悲しんでいるわけですよ。今回のそのことに関して言うと。ただし、それは一方では本当は良くないならば、それはやめるべきですが、一方では他の何かオプション含めて考えなければならないと思っているので、その部分は撤回いただきたいと思っております。

: あのね、僕は原発に今まで関わってきた全ての人が、目先の利益論者でけしからん輩だなんて言った覚えは1度もない。そこに立派に社会貢献しようと思っていままで関わって人たちは立派な人々だと思ってますよ。1度もそういう人々を批判したつもりはない。過去に今まで、そこが社会に貢献すると、信じて、それを自分の使命感をもってやってた人を1度も批判した覚えはない。

 だけど、その原発がこれだけ多くの事故を起こしちゃって、この原発の事故の後処理もまだ終わっていない。これからのリスクもいっぱいあるにも関わらず原発は安いんだ、安いんだ、といっている人がいる。

 あなたかどうかは知らないけれども、僕はあなたに1度も批判したつもりはなくて、「原発が安いからこれが無いと、どんどん再稼働をバンバンやらないと成り立たない。国の外に国外脱出します」と言っている人に対して、あなたは本当にトータルの原発コストを計算して言っているんですか、と。あなたは自分の会社の製造原価の全体の中の1%か2%問題のことで、これほど国民が苦しんでいるのに、慌てて「再稼働だ」というふうに言うことに対して、目先のあなたの自分の会社の利益、コストだなんだということに目が眩んで、国民の苦しみということに対して暴言を吐く、ということが僕は許せない。そう言っただけです。その気持ちは今も一切かわらない。すべての原発に関わった人、研究者まで含めて、あるいは今、吉田所長だなんだと一生懸命命がけで頑張っている人を非難したつもりは一瞬たりともない。

: そういうふうに受け取られていますし・・・

: そう勘違いされたとしたら、勘違いさせてしまったことに対して僕は申しわけないと思う。だけど僕はそういうつもりで言った覚えは一度もないし、そういう発言、僕は過去に自分のツイッターの履歴も残っていますけど、再確認しますが、そんなこと言ったつもりは一度もない。

: 今回の「トコトン議論」というのはその言葉がきっかけで始まったんです。孫さんがそういう目先の利益だということを言ったから、僕はそれは言っていいことと悪いことがあるということを申し上げて、この「トコトン議論」が実現した。それは数多くの人は将来のエネルギーのことを考えて、地球全体のことを考えて、それをもとにやっているのであって、彼らをもって「目先の利益だ」と、「原子力村だ」と、「御用学者だ」と、レッテルを貼ることがいいことかどうかと私は疑問を感じます。

: そこに関わっている全員を僕は非難したつもりは一度もない。でも、一部そういう輩がいるということに対しての非難は今も変わらない。全員を非難したつもりは一度もない。一生懸命命がけで頑張っている人がいる。今まで高い志で研究されている方もいる。その方々に対しては、心からの感謝を申し上げたい。

「あと1発の事故は絶対に起こしてはいけない」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(8)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97585

(亀松太郎、土井大輔、丹羽一臣、西川真帆)

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