カリスマ経営者たちも実践した ビジネスや人生に取り入れたい「禅」の言葉
新しい年のスタート。皆さんはどんな気持ちで仕事始めを迎えたでしょうか。今回は、お正月ののんびり気分がまだ抜けていない人にも、今年の目標への決意を胸に意欲を燃やしている人にも、気分が引き締まる言葉の数々をご紹介しましょう。
テーマは「禅」。
まっさきに思い浮かぶイメージはお寺で僧侶が静かに坐禅を組んでいるシーンだと思いますが、実はビジネスパーソンにも禅に傾倒し、坐禅を組む習慣を持つ人は多いようです。
誰もが知る有名な経営者では、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏、京セラ創業者でありJALの再建も手がけた稲盛和夫氏、パナソニック(旧松下電器産業)創業者の松下幸之助氏など。その経営手法には禅の思想に通じるものも見られるようです。また、近頃ではグーグルやインテルといったグローバル企業をはじめ、研修プログラムに禅を取り入れている企業も増えてきました。
今回お話を伺ったのは、株式会社シマーズ代表取締役であり、「禅トレプレナー協会」の代表理事を務める島津清彦氏。島津氏は、スターツコーポレーションの専務取締役、スターツピタットハウス代表取締役を経て経営コンサルタントとして独立。その後、「禅」に出会って、曹洞宗高雲山観音寺にて得度、仏門に入るという異色の経歴を持つ人物です。禅を研究するうちに、「人生、ビジネスの成功法則は禅の中にすべてある」と気づいたといいます。
島津氏によると、ビジネスや「経営」に禅を取り入れるメリットや効果には次のようなものがあるとか。
リーダーの強いメンタリティー(決断のぶれない「軸」)を作る 社員一人一人の潜在能力を引き出し、全員経営による持続的成長を実現 集中力が高まることで業務の生産性が向上 思いやり・助け合いの精神が生まれ、チームとしての一体感が醸成される 顧客対応力・危機対応力=現場の「気づき」力が高まる 等々
そこで、数多くある「禅」の言葉の中から、「仕事」「ビジネス」に活かせるものを紹介、解説いただきます。あなたにとってピンと来るものがあれば、書き留めて、日ごろから意識してみてはいかがでしょうか。
ビジネスに活かせる「禅」の言葉
調身・調息・調心(ちょうしん・ちょうそく・ちょうしん)
<基本の意味>
坐禅の基本的な手順。身体を調え、呼吸を調え、心を調える。どれか一つが欠けても正しい坐禅はできない。
<ビジネス視点での捉え方>
身だしなみ、立ち居振る舞い、言葉使いが美しければお客様からも信頼されます。それが自信、プライドなどにつながります。
無常(むじょう)
<基本の意味>
この世のすべてのものは常に変化し続けていて、定まることがないということ。
<ビジネス視点での捉え方>
マーケット状況、顧客や消費者のニーズ、ビジネスの手法など、ビジネスを取り巻くものごとはすべて「無常」です。変化にすばやく対応していくためには、自分自身も変化し続けなければなりません。
信頼関係を築いている顧客やパートナーであっても、その関係は常に変化していくものと心得て、きめ細かなフォローを継続していくことが大切です。
真玉泥中異(しんぎょくでいちゅうにいなり)
<基本の意味>
宝石は泥の中にあっても輝きを失わない。
<ビジネス視点での捉え方>
どんな部署、境遇にあっても、自分を輝かせる方法は必ずあります。どんな仕事にも主体性を発揮し、面白さを見つけ出し、与えられたテーマに真摯に向き合っていれば、働きぶりは必ず評価され、「次」につながります。
不遇を嘆くよりも、今の仕事を天職と思って一所懸命に取り組んでいれば、やがて大きなチャンスが巡ってくるものです。
放下著(ほうげじゃく)
<基本の意味>
「放下」とは捨てること。「著」は強調語。「何もかも思いきって捨ててしまえ」という意味。
<ビジネス視点での捉え方>
不要な書類、メール、はっきりしないアポイントなど、ムダなものが溜まっていくと仕事の効率はどんどん落ちてしまいます。定期的に「捨てる日」をつくり、書類や仕事を「放下著」しましょう。それにより、新しい情報や案件を入れるスペースをつくるのです。
勢い使い尽くすべからず(いきおいつかいつくすべからず)
<基本の意味>
勢いのあるときほど細心の注意をはらい、無謀な行動を慎みなさいという教え。
<ビジネス視点での捉え方>
業績や体調が絶好調のときほど「力任せ」になりがち。日ごろの用心深さを忘れ、他人の助言も聴かなくなります。周囲への気配りもおろそかになったりします。周囲を傷つけたり大きな失敗を招いたりする前に、ブレーキをきかせましょう。
身心脱落(しんしんだつらく)
<基本の意味>
いっさいの束縛から離れて身も心も自由になること。
<ビジネス視点での捉え方>
字のとおり、身も心も脱落したからっぽの状態。聞こえは悪いのですが、つまりは雑念や執着から完全に解放された、さっぱりとした悟りの境地をさしています。
坐禅によって至る境地であると説かれますが、目の前の仕事に没頭することによっても、この状態はもたらされます。いま、ここに完全にのめり込み、集中している状態がそれにあたります。心理学でいう「フロー状態」です。
意識的に「身心脱落」状態をつくり出せるようになると、ビジネスのさまざまな場面で役立ちます。例えば、前例のないことにチャレンジするとき、結果が吉と出るか凶と出るかわからないときなど、「こんなことをやってもムダなんじゃないだろうか」といった雑念が生まれたりします。そうした余計な考えを頭から締め出し、今やるべき目の前のことに集中できれば、成功率も高まりますし、精神的にもさっぱりすることでしょう。
あるいは、悪質なクレームに対応しているときなども、「身心脱落」状態で行う。あえて思考を締め出し自分をロボットのようにして、ひたすらあやまることに徹することができれば、罵詈雑言を浴びせらせても精神的ダメージを最小限に抑えられるものです。
悟無好悪(さとればこうおなし)
<基本の意味>
悟りを得た人は好き嫌いなどなくなる。
<ビジネス視点での捉え方>
同僚、上司、取引先などを見る際、他人の評価や先入観はときとして誤った判断を招きます。まわりの評判に流されず、曇りのない目で相手を見つめることが、人に対する好き嫌いをなくし、適正な判断をするために必要です。
歩歩是道場(ほほこれどうじょう)
<基本の意味>
食べることも寝ることも、人生の一歩一歩すべてが修行である。
<ビジネス視点での捉え方>
日々の仕事、一つひとつすべてが「自分の人間性を磨くものである」という自覚を持ちましょう。謙虚な姿勢で、細かなこともおろそかにせず取り組めば、そこから大きな学びを得られます。
――以上、禅の言葉の一例をご紹介しました。「自分に必要だ」と思うものがあれば、手帳に書き留め、ときどき見返してみてはいかがでしょうか。
なお、各所で「坐禅会」も開催されています。お寺でも開かれているので、お休みの日に近くのお寺を訪ねて参加するのもいいでしょう。坐禅会とはどんな様子なのかを探るべく、今回は島津氏が開催している坐禅会にお邪魔してきました。
坐禅を組んでいる間、会場は水を打ったような静けさ。一人ひとりが精神を集中させている様子が伺えました(※気がゆるんだ人が、木の棒でビシッと肩を叩かれるようなことはありません)。
なお、参加した人からはこんな感想が寄せられていました。
「心が穏やかになり、肩の力が抜けた」
「坐禅をすると心が整います。本当に自分のやることが見えてくる気がします」
「自分の心を見つめる時間を、毎日の忙しさにより作ることをしていなかったと気づけました」
「『余裕』の重要性に気づいた。心の余裕のためにも時間を取るべきだと思った」
「クリアになっていく感じがした。『まだまだ足りない』と気づいた」
「頭が冴え、アイデアがわき出た」
まずは、自分の部屋で座って目を閉じ、「瞑想」をしてみるのもよさそうです。姿勢と呼吸を調え、自分の心を見つめてみることで、「今年やるべきこと」も見えてくるかもしれません。
島津清彦氏/(株)シマーズ代表取締役。禅トレプレナー協会代表理事
1965年東京都生まれ。1987年に千曲不動産(現スターツコーポレーション)株式会社に入社し、2001年に異例の早さで取締役人事部長に就任。その後、専務取締役を経て、スターツピタットハウス代表取締役を務めるなど、ビジネスの最前線で活躍する。自らも被災した東日本大震災を機に経営コンサルタントとして独立起業。「発熱組織プロデューサー」として、経営・人事・組織開発のコンサルティング、エグゼクティブコーチングを手がける。
まもなく出会った禅に運命的なものを感じ、2012年8月、曹洞宗 高雲山 十和田観音寺にて得度し、仏門に入る。現在は、「禅」を取り入れた企業研修・社員研修も提供。著書に『仕事に活きる禅の言葉』(サンマーク出版)。
EDIT&WRITING:青木典子 PHOTO:鈴木愛子
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