知っておきたい遺言書の基礎知識
最近テレビなどで、遺言書をめぐるトラブルを伝えるニュースが目につくようなった。しかし、そもそも遺言書には何をどう書けばいいのだろうか。自らの希望をどう書き残せば、遺された家族がもめることなく、幸せになれるのか。そんな遺言書の基礎知識を学んでおこう。
遺言書を書く際に注意したいポイント8
遺言書というと、主に自分で書く自筆証書遺言と、公証役場で作成する公正証書遺言の2つがある。
まず自筆証書遺言で注意すべき事から見ていこう。
【画像】自筆証書遺言書の例(「親と実家」を考える本 by SUUMO)■遺言書を自分で書く際に注意すべきこと
(1)タイトルを「遺言書」とする。
(2)全文自筆で書く。
(3)法定相続人には「相続させる」、法定相続人でないものへは「遺贈する」とする。
(4)財産の書き漏れがあると、その分の遺産分割を相続人が協議しなければならなくなるので、こういった一文を入れておくといい。
(5)遺言書がスムーズに実行されるように、遺言執行者を指定しておくといい。
(6)付言事項は「争続」にならないためにも、遺言者の遺志を伝える手段として書いたほうがいい。
(7)作成した年月日を正確に記す。「吉日」などは遺言書が無効になる。
(8)署名と捺印をする。
記載すべきことは「遺言書」という表題、作成した年月日、遺産とその相続人の名前、最後に署名と捺印が必要だ。遺言書は何度でも書く直すことができ、最新のものが遺言書として認められるのだが、認知症になってから書かれたものだと相続人から無効の主張をされるケースもある。
その際に自筆証書遺言の場合、パソコンやワープロ、代筆は不可。書いた後に無くしたり改ざんされたりしないように適切に保管しなければならない。逆に隠し場所にこだわりすぎると、発見されないという可能性もある。
また本人の死後、家庭裁判所での検認が必要で、抜けている遺産がある場合、その財産は別途相続人の話し合いで分け方を決めなければならない。また自筆証書遺言で要件の欠如があると、これも相続人から無効の主張をされる可能性もある。
こうやって細心の注意を払って書いたとしても、書かれた内容によっては家族関係を悪化させる危険もある。
例えば母親がすでに亡くなっていて、父親と長男、次男の3人家族で、父親が亡くなったケースで見てみよう。次男は実家から離れて、長男は実家で父親と暮らしていて、遺言書には「長男が自宅の建物と土地、次男が預貯金のすべて」と書かれていたとしよう。
同様に自宅と土地の評価額は1800万円、次男に遺された預貯金は600万円だとして説明する(話がわかりやすいよう、相続に関する諸経費の支払いなどは省く)。この場合、金額で比較すると次男は遺産の1/4であり、この場合の遺留分(相続人に対して認められた相続財産)である1/4は守られている。
しかし、次男としては長男と差がついていることに不満を感じるかもしれないし、直筆ゆえ「同居している長男が父親に上手いことを言って、有利に書かせたかも知れない」と次男が疑う可能性もある。「なぜこの遺産配分にしたのか」思いを付け加えると相続がスムーズに
そこで埼玉県相続コンサルティングセンターの代表である毛利氏はもし遺言書を残すなら、そこに「なぜこのように遺産分配をしたいのか」など、遺産を残す人の遺志を付言として付け加えることを勧めている。
上記のケースでは、「長男が父親と同居して介護もして、これからもこの家を守ってもらいたいため、このような分け方にした。その代わり次男には精一杯の金銭を渡すので、大切に使ってくれ」という旨が書かれているだけで「故人の最後の遺志を尊重しようと相続がスムーズになりますし、第三者が見ても父親の要望が明確なため、争ったとしても遺言書の方向で話し合いが進みやすい」と毛利氏は言う。
上記の例のように法的に問題がなければ、遺産分割は遺言書の通りに行われる。この際、相続人全員が合意すれば遺産分割の形を変えることもできるが「法的に問題がなく、付言も書かれた遺言書があると、相続人はみな故人の遺志を尊重しようとします」と毛利氏。
「そもそも遺産は、このケースで言えば父親の築き上げた財産です。その財産の“最後の使い方”を遺言書に残すわけですから、遺族としてはそれをとりやめてまで内容を変えるということは起こりにくく、むしろその気持ちを尊重しようとなりやすいのです」。
つまり、遺言書は相続をスムーズに行うためのリード役といえるだろう。専門家のアドバイスを受け、公正証書遺言にするのがオススメ
とはいえ自筆証書遺言は、先述のように要件の欠如があれば無効だし、偽造や紛失、あるいは意図的に隠されるという危険性がある。
さらに、上記の例でもし次男が遺留分を下回るような遺産分割だと最悪の場合、裁判になる。裁判にならなくても、遺産で家族ともめることは大きなストレスになるし、下手をすれば家族関係も壊れてしまう。
遺留分は相続人の人数で変わるし、そもそも自宅の評価額を調べるなど遺産がいくらあるのか把握しておかなくてはいけない。
また自筆証書遺言は、本人の死後に家庭裁判所で遺言書の内容の検認が必要になるので、例えば前妻との間の子どもとも裁判所で会い、それぞれの遺産額をお互いが知ることで気まずくなる、ということもある。
自分の死後にいらぬ災いを起こしたくないのであれば、公証役場で作成する公正証書遺言がオススメだと毛利氏。こちらは家庭裁判所での検認はない。また公証人から適切なアドバイスを受けられることもある。
【図1】自筆証書遺言と、公正証書遺言の比較(「親と実家」を考える本 by SUUMO)
もちろん必要な要件の書き漏れといった不安も無用だし、遺言書が改ざんされたり紛失したりという危険性もない。
「確かに自筆証書遺言と比べて手数料が必要になりますが、後々家庭裁判所で争う費用と比べたらはるかに安くすみます。私は『その10万、15万円の費用で悩むのは、残された家族のことを本気でお考えでしょうか?』と相談者に柔らかく指摘することもあります」。
さらに自筆証書遺言を書いて、毛利氏のような専門家に相談するという方法も有効だ。こちらも費用はかかるが「争続」にならないようアドバイスを受けやすい。専門家に見てもらった自筆証書遺言を、公証役場へもっていき公正証書遺言にすることもできる。
遺言書は相続をスムーズに行うためのリード役。だとすれば、遺された家族の仲を自分の遺言書で壊すことがないよう、専門家のアドバイスを受けるのは検討するに値するのではないだろうか。
ライター 籠島康弘
監修/埼玉県相続コンサルティングセンター 毛利 豪
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元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/12/03/101778/
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