お得?納得?マクドナルドの退店後が争奪戦になる3つの理由
赤字に困窮するマクドナルドが130店の閉店を発表
マクドナルドの赤字が止まりません。木枯らしが吹く季節、この原稿もある店舗で書いていますが、心なしか季節以上に店内も寒く感じます。顧客を戻すのに時間がかかることを考慮すれば、すぐに赤字を止める方法として真っ先に浮かぶのが「店舗閉鎖」です。
事実、現在同社は年内130店を目処に閉店すると発表。その様子がニュースに取り上げられ、そして、なぜかすぐに次のお店が決まります。今回は、マクドナルド退店後の跡地に入居する際、どんなカラクリがあるのか考えてみましょう。
出店調査の費用と時間を大幅にカットできる
出店候補地を決める際、マクドナルドは業界のナンバーワンとして、時間とコストをしっかりかけてマーケティング調査を行っています。マクドナルドの近くには、特定のラーメンチェーン店や洋服チェーン店があることに気が付くでしょう。それは、偶然ではありません。二番手の彼らは費用を節約するため、まるでコバンザメのように「マクドナルドの近く」に出店し、出店調査の費用と時間を大幅にカットする戦略なのです。
今回のように、そうした場所に存在していたマクドナルドの店舗が大量に空くことになれば、他のチェーン店の出店担当者は椅子に座って待っているわけにはいきません。今まさに色めき立ち、争奪戦を繰り広げているはずです。
縁起の良さで売上アップ
「撤退した後にできた店は再び撤退する」という鉄則があります。お客も「またあそこは撤退するんじゃないか」と思っていた数カ月後、新店が案の定撤退していたということもあるでしょう。立地も優れているはずなのに、不思議と「撤退癖」がつくのです。商売の神様に見放された場所は、家賃をいくら安くしてもテナントからは敬遠されます。
しかし、今回のマクドナルドの苦境は個々の店舗の問題ではありません。本部主導の利益追求と業務効率化の結果といってもいいはずです。個店で頑張っている従業員にとっては、いい迷惑かもしれません。一方、今回閉店になるのは30年以上続いた駅前の一等地も多く含まれています。長く愛され、閉店の理由もはっきりした場所には「見えない笑売の神様」がいます。看板が変わってもきっと、うまくいくでしょう。
「居抜き物件」による出店費用節約
また、「居抜き物件」による出店費用が節約できる点も、跡地が争奪戦になる要素です。「居抜き」とは、店舗の状態のままで新しいテナントがその場所を借りることをいいます。本来の不動産賃貸では、「原状回復」といって借りた状態に戻してから返すのが基本的なルールです。店舗の場合、内装や什器備品を全部取り外し、コンクリートむき出しの状態で退店します。そして次のテナントは、また一から店舗をつくっていく…。それはあまりにも非効率なため、「居抜き物件」の場合は原状回復しない代わりに、残していく什器備品を「営業権」の名目で旧テナントから新テナントへそのまま売却するのです。
業務用の冷蔵庫、食洗機、ガス台、配管や配線、それに数の多い箸やナイフ・フォークなど、使えるものを選んで使えば、新しいテナントの開店までの時間と費用が大幅に節約できます。もちろん、退店する側も退去までの余計な家賃を節約でき、何より貴重な現金が手に入ります。新品で揃えれば1千万円以上する什器備品は、居抜きの場合とても割安な価格になるのです。
いかがでしょうか。現在、閉店が決まっている店舗では、マクドナルドのキャラクターであるドナルドの後ろ姿とともに、「See You」との文字が印字されたポスターが貼られているようです。閉店後、次の店舗が完成した際、周りを見回せばきっと昔の店舗の名残を見つけることができます。その背景には、このようなカラクリがあるということです。
(中山 聡/一級建築士・不動産鑑定士)
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