【モノ・マガジンのデジカメ報告 No.3】黒船襲来! 合衆国からやってきたマイクロフォーサーズ 『Kodak PIXPRO S-1』
モノ・マガジンのデジカメ報告No.3
本稿は1982年創刊モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス刊)好評デジカメ連載『写真家:織本知之のデジカメナウ』や『電子寫眞機戀愛(デンシシャシンキレンアイ)』を気まぐれに、順不同に、電脳スペース上に移植したものである。または、カメラ片手に世の森羅万象を記録せんと闊歩する電磁カメ戦士たちにおくるラブレターでもある。
写真家:織本知之のデジカメナウ『Kodak PIXPRO S-1』
「本当にいいデジカメってどれなんだ?」にご名算。「写真家:織本知之」が注目デジカメの“NOW度”を徹底診断します!
かつて、デジタル一眼の黎明期にコダック製のCCDを搭載したデジ一眼で撮影された深みのある空の青さをコダックブルーと言ってもてはやした時代がありました。
たしかに他社の記録素子がもたらす画像とは一味違う空の色であったのです。なんというか実際の記録すべき色よりも、より人間が記憶しイメージとして心に留めておく空の青さを上手に表現してくれていたのです。
コダック創業者ジョージ・イーストマン肖像画@NY州ロチェスターのコダック本社(2004年取材時撮影)
しかし、すぐに時代は高画素化へと向かい、その製品サイクルの速さか時代の流れか大人の事情かいつしかコダック製のCCDは姿を消し、その姿をみなくなっていったのです。多くのコダックファンは途方に暮れ、深い悲しみに包まれたものです。
ジョージ・イーストマンが1922年に設立したロチェスター交響楽団の本拠地「イーストマン・シアター」@NY州ロチェスター。ユージン・グーセンスやデヴィッド・ジンマンなどが音楽監督を務めたアメリカの名門楽団だ(2004年取材時撮影)
『Kodak PIXPRO S-1』
さて、時はめぐりやがて平和が訪れた世界に再び天使が舞い降りました。おまたせしました『Kodak PIXPRO S-1』でございます。
全体的にすっきりとしたデザインでペンタ部らしき場所のアクセサリーシュー付近はやや盛り上がっているが、ファインダーは搭載してはおりません。
びっくりするほど小さいわけではないものの質量約290gは十分に軽量。
液晶モニターは3型92万ドットのチルトモニターを採用。心臓部の有効1683万画素のマイクロフォーサーズセンサーはISO200から12800までの撮影感度をそなえ、連写速度は約5コマ/秒……きょうび地味目のスペックでございますな。
コダックもそのへんやや気になっていたようでWi-Fiを搭載したり、タイムラプスやHDRに対応したり、フルHD動画撮影機能も備えたりとサービスしてきているのだが、このカメラのポイントはそこではありませぬ。
先に話したようにコダックと聞いてひとびとの胸に浮かぶ空の青さともうひとつ、長年写真家の表現のよき相棒となっていたフィルムへの郷愁である。
そのフィルムライクな仕上がりを可能とする「Kodachrome」「Ektachrome」とコダックを代表するリバーサルフィルムの名前のついた撮影モードがなんといってもこのS-1の最大のセールスポイント。
妙にキレ味の良い描写『KODAK PIXPRO Aspheric ED Lens 12-45㎜/3.5-6.3』
さらにコダックカラーフィルムの色彩をいまに伝える創業当時から変わらぬ味わいの「Kodacolor」仕上がりなど趣味人をうならせるコダックカラーの再現、よみがえるあの色彩。
おや、久しく内に秘めていた龍が目を醒したような目つきじゃねえですか旦那方。龍のごとく荒ぶるその気持ちを抑え、まずはキットズームをご堪能ください。
KODAK PIXPRO Aspheric Lens 12-45㎜ F3.5-6.3であります。見た目こそキットレンズの王道をゆく質感量感、マウントもプラスチックだしまあそれなりの……やだ、なんかキレキレこのレンズ。
このクラスらしからぬ妙にキレ味の良い描写をするのです、特に換算24ミリワイド側。2段ばかり絞ればちょっとうっかりできないシャープな感じがなかなかやるね。
KODAK PIXPRO Aspheric ED Lens 12-45㎜/3.5-6.3
ボディに比べてもとりたてて小さくはないがそこそこ軽量という、ごく普通のキットレンズでありますが、よーく見ると、普通のズームに比べて換算24㎜と広角側にワンステップ広いし、望遠側も換算90㎜とアドバンテージあり。描写性能もきっちりシャープでさすが工業大国アメリカ。
撮影モードには「Kodacolor」使用。この撮影モードが使いたいという理由でS-1を選ぶというのも動機としては十分アリ。
LEICA DG NOCTICRON 42.5㎜/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.
さらに上の描写を求める貴方には珠玉のこの1本。数あるマイクロフォーサーズレンズの中でもとりわけ強力な描写能力と、ローライトな条件をモノともしないLEICA DG NOCTICRON 42.5㎜/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.。
このレンズの実力をデジ一眼を手にしたすべての善男善女に味わってもらいたく、今日ここに作例を用意したのであります。まずはじめにグッと感じるのが、まあなんというかグラマラスでみっちりと上質なガラスが詰まっているこの手ごたえ。
マイクロフォーサーズ的には大物レンズ
マイクロフォーサーズ用の中望遠AFレンズ最強のF1.2の明るさを誇る換算85㎜のポートレートレンズがこちら。
たしかにお値段もそれなりにいたしますが、絞り開放時の描写の立体感、9枚絞り羽のアウトフォーカスの柔らかさ、そして光学式手ブレ補正まで搭載して描写という作業に露ほども不安を抱かせない最強の1本でございます。
35ミリ判換算で85㎜のF1・2としては極めて軽量コンパクトだけども、マイクロフォーサーズ的には大物レンズ言えます。
それもそのはずマイクロフォーサーズのAF対応交換レンズとしては最も明るい中望遠。薄暗がりよどんとこい、日が落ちてからその本領発揮できる捕食者レンズでございます。ミッドナイトスナップ、舞台写真にもぜひどうぞ。
また、立体感のあるアウトフォーカスを活かして、早いシャッター速度での一眼レフらしい奥行のある作品撮影にも最適な価値ある1本です。
KOWA PROMINAR 8.5㎜F2.8「正直このレンズには惚れます」
さて、今回はもう一層ディープな、交換レンズの快楽といえる部分へといざなうことをおゆるしください。さあKOWA PROMINAR 8.5㎜F2.8です、ぎへへ。
ずしりとした重量感と超高精度で緻密な各部。ほぼ完ぺきな操作感の絞りダイヤルと特筆すべきピントリングのトルク感。急ぎ回す指をやわらかく押しとどめ、ゆっくり回せばクリームのように滑らかに転がるこのピントリングの絶妙さ。
あれなんつったかな、頭乗せるとにゅうってへっこんで妙な居心地良さを感じる新素材枕……あ、テンピュールに初めて触ったときみたいな感動を覚えました。42歳のワタクシが「おおっー!」ってピントリングぐりぐりまわしINGっつう光景は貴重でした。
正直このレンズには惚れます。
弱点はAFがついてないことだけですが、なに美人っていうのはいつの時代も気がきかないもんです。扱いにコツがいるのは名機の証。それにつけても描写の確かさ強さとやさしさ。
豊かなトーン、どこまでも結像してゆくようでしかし儚げで、去年の恋は忘れないけど一昨日の晩飯はまるで思い出せない的なレンズの描写に東洋の魔術を見る思いです。
エキスパート向けの大人レンズ
最高の光学パフォーマンスとMade in Japan。すべてを突き詰めた答えがここにございます。操作面においても通常の節度あるクリック感の絞りリング、さらに「DLアイリス」と呼ばれる無音絞り操作をボタンで切り替えることが可能。
つまりクリックしないので最良のピントと同時に極限の露出を自分自身で調節できるというエキスパート向けの大人レンズでございます。写真は「Ektachrome」モード使用。
うまく説明できないけど写真とレンズが好きなら買って間違いはないなという感想ですプロミナー。
久しく眠っていた巨竜が目覚めるきっかけへとなるのか『Kodak PIXPRO S-1』。このカメラの存在価値は時代に決めてもらおうじゃありませんか!
(モノ・マガジン2015年2月16日号掲載)
『Kodak PIXPRO S-1』
有効1683万画素マイクロフォーサーズセンサー。センサーシフト式手振れ補正。ISO200~12800。フルHD動画。本体サイズ115.7×67.4×35.6㎜、質量290g。別体ストロボ付属。
写真と文/織本知之
日本写真家協会会員。第16回アニマ賞受賞。1972年千葉富津生まれ。
facebook:https://www.facebook.com/tomoyuki.orimoto[リンク]なんどデジカメのバッテリーを買ってもその度にマークや番号で区別を忘れ、ダメになるまでさっぱりわからないロシアンローテーションが得意なカメラマンです、みなさんこんにちわ。
公式サイト
モノ・マガジン2015年11月2日特集号
http://www.monoshop.co.jp/products/detail.php?product_id=4741[リンク]
10月16日発売【特集】さらば、賃貸! モノマガ人の家モノ・マガジン
http://www.monomagazine.com/[リンク]モノ・マガジン編集部の執筆一覧
https://getnews.jp/archives/author/monomagazine[リンク]
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