子世帯が育ったマンションに戻ってくる“巣戻りマンション”とは
“育ったマンションに戻って親と近居する” まさに二世帯近居という新しい暮らし方がマンション内で生まれている。板橋区にある築35年のマンションを訪ねて、実際に戻ってきた家族とその両親に楽しい暮らしぶりを聞いた。
「都心にふるさとをつくる」というコンセプトで建てられた緑多き大規模マンション
今回取材したのは板橋区の高台に建つ「サンシティ」に住むYさんファミリー。サンシティは1棟目の竣工から数えて35年が経過し、低層棟からタワー棟を含み合計14棟で構成され約1900世帯が暮らす。大規模タワーマンションの草分けといってよいだろう。
マンションのなかには、水が流れる滝の広場、テニスコート、子ども用屋外プールなどがあるが、圧倒的な面積を占めているのは敷地の真ん中にある「緑の森」である。「都心にふるさとをつくる」というコンセプトのもと設計されており、自然の起伏を活かし分譲当初に植栽されたというが、今や緑陰のごとし。大きく広げた枝葉が青空を覆い隠すほど成長し、都会のオアシスとなっている。
【画像1】サンシティの真ん中にある森の入り口にある滝の広場。夏には子どもたちが水遊びで楽しむ様子も見られる。森の中に入るとBBQ広場、タケノコ堀りができる竹林、木登りができるトトロの木、シイタケ栽培コーナーなど自然に親しめる仕掛けがいっぱいある(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)
この緑の並木に導かれるように、Yさん(39歳)の住むタワー棟に到着した。
玄関から居室に1歩入って驚いたのは、築35年を感じさせないオシャレな空間だ。対面型のキッチンでリビングにつながっており、リビングの壁はしっくい。また一部は大判の石貼りだ。Yさんの趣味で砂岩とのこと。床はカリンのむく。「石はタイル屋に頼みましたが、しっくいは自分で塗りました」と笑う。購入した58m2の部屋は、居心地のいい2LDKにリフォームされていた。自分が育ってきた、思い出のある場所で自分の家族と暮らしたい
「なぜここに戻ってきたの?」という最も気になる質問をぶつけてみた。
Yさん夫婦は、実は最初からサンシティに住むつもりではなかったという。当時住んでいた板橋区の賃貸物件での暮らしが3年を過ぎ、そろそろ購入ということになって都内のあちこちの新築マンションや中古マンションを10件近く見に行ったそうだ。
「でもマンションを出て、すぐ道路というのに違和感がありました。設備はいいのだけど、暮らすイメージがわかなかった」とYさん。
というのも、サンシティは14棟の他、前述のテニスコートやプールも全てマンションの敷地内なのだ。子ども時代はサンシティのなかに同世代が大勢いて、隣接の小学校から帰ると、道路に出ることなく敷地内で友達と遊んでいた。
「集まる家はだいたい決まっていて、毎日毎日10人以上がその家に。玄関に靴が入りきらないくらいで、当時ブームだったファミコンや野球、ドロケイなんかしていました」。同級生の兄弟もまきこんで、階段をドタバタ上り下りして、時に怒られながらもこわいモンなしで遊んでいた思い出があるという。「それがスタンダードでした。いい思い出のある場所。これから妻と二人で生活するのに、楽しく過ごせるのはどこだと考えたとき、ここがいい!と思ったんです」
【画像2】大きく成長した森の木々の合間から住棟が垣間見える。敷地内の緑は「サンシティ・グリーン・ボランティア」と呼ばれる住人たちによって、月1~2回手入れされている(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)
【画像3】Yさん夫妻。Yさんは幼児のころからこのサンシティで暮らし、大学院卒業まで過ごした。その後仕事の関係で東京を4年間離れた後、結婚して帰京。板橋区の賃貸に3年間住み、両親が住むサンシティに戻った後、お子さんも二人生まれ現在は家族4人で暮らしている(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)サンシティの暮らしが気に入って、住み替えたりリフォームしたり
関西から転勤で上京。昭和54年から住んでいるYさんの両親。最初に購入したのは73m2の3LDKだったが、子どもの成長にあわせて9年後に同じサンシティのなかで98m2に住み替えた。
このマンションの魅力は何なのだろう? 「サークルが楽しいんですよ」と笑って答えてくれたのはYさんの父(66歳)。入居した年からテニスサークルに参加、今も現役でプレイを楽しんでいる。最盛時は大人部員が110名もいたそうで、練習だけでなく夫婦単位でパーティーや飲み会を開き、交流を深めてきた。「途中、単身赴任でぬけたときもありましたが、このサークルのおかげで、戻ってきたくなるし、戻ってもすぐなじめるんです」。完全リタイアした今は、今まで以上に満喫中とのこと。聞けば、大規模なサンシティには30を超えるサークルや団体があり活動しているという。
一方、Yさんの母(63歳)は「緑が多い環境と、お友達が多いことかな。住み始めたときから同年代の奥さんが多かった。そのときは子どもの親としてつきあっていましたが、今は自分自身の友達としてつきあっています」。いろいろあるサークルのなかで染色クラブに参加。自身も自宅で週1回、絵の教室を開いている。気さくな友人たちと、サンダル履きで行き来できる距離感も気に入っているようだ。
Yさんの母は絵の教室の先生だが、このサンシティにはいろいろな先生が得意な分野で自宅教室を開いている。Yさんが子どものころは勉強を習っていたそうだが、ピアノや英語、習字などサンシティのなかで習い事ができる。移動に時間がかからないし、親も送り迎えの必要がないといいことづくめ。
習い事やサークルも暮らしの潤滑油になっている、といえそうだ。
「これからリフォーム工事なんです」(母)。98m2に住み替えたときにリフォームをしているから2度目のリフォームとのこと。子どもたちが同じサンシティにいるので、子ども部屋が必要なくなり、広い部屋にするという。ライフスタイルの変化にあわせて、住まい方を変えているのだ。
【画像4】敷地内にあるテニスコート。Yさんの父はテニスサークルの部員として活躍している。なかには隣接する小学校のグランドや体育館を利用するスポーツサークルもある(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)
【画像5】こちらのカルチャーセンターでは染色クラブや木工工芸クラブ、陶芸クラブが活動している。コーラスなどは会議室や集会室が利用されている(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)二世帯近居は100組も。ここは子育てしやすい「ふるさと」
子育てを機に巣戻りする人が多く、すでに100組近くが2世代近居というサンシティ。Yさん家族に近居のメリットを聞いてみた。「実家が近いので、何かのときに子どもを預けられるのはとても助かる」とYさんの妻。子どもたちも実家に行くというと、飛び上がって喜ぶそう。預かる側の両親は、スケジュールを押さえられているんですよ、と言いながらも、「かわいい時期を一緒に過ごさせてもらっています! お嫁さんから若い人の話を聞かせてもらうのも楽しい」(母)とのこと。「リタイアして時間に余裕ができたら、孫もりで忙しい」と、こちらも育ジイぶり全開の様子。家族が近くにいることは心強いし楽しい。
昔に比べて子どもは減っているので、外に出たら誰かがいるという状態ではないという。でも夏休みや正月になると、同級生は実家に戻ってきて連絡を取り合うなど絆は強い。「おばさん、ひさしぶり!」と、子どもの同級生から声を掛けられることもあり、「ここが、ふるさとなんだろうなと思いました」と、Yさんの母。
都会のマンションに「ふるさと」がある。サンシティでYさんファミリーを取材して感じたのは、長い年月をかけて住み継がれる「サスティナブル」という言葉だ。これから家を探す場合、長く住み続けられる、結婚しても戻って住みたくなる、そんなマンションを選択肢のひとつに加えてみてもいいのではと思えた。
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/10/15/98994/
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