Album Review: フリオ・イグレシアス 9年ぶりのオリジナル・アルバムで“世界の恋人”のロマンティシズム溢れる魅力を再考
スペイン語圏のポップス界を代表するアーティストといえば、フリオ・イグレシアスの名を欠かすわけにはいかない。1968年にデビュー以来、沈むことなく常に第一線で活躍してきた。日本でも1980年代に紹介され、「黒い瞳のナタリー」や「ビギン・ザ・ビギン」といった楽曲が大ヒットしたことを記憶している方も多いだろう。70歳を超えた今もなお“世界の恋人”などといわれて愛されているという事実は驚異的だ。
そんなフリオが、9年ぶりに発表するオリジナル・アルバムが『愛しのメキシコ』。タイトル通り、メキシコ作曲家による楽曲のみを取り上げている。選曲は、基本的にボレロやランチェーラといわれるメキシコ特有のメロディアスなナンバーを中心にセレクト。「フーラメ ~わたしに誓って」や「メヒコ・リンド~美しのメキシコ」といったスタンダードが中心で、どこかで聴いたことがあるなと感じるメロディも多い。彼にとってメキシコは、祖国のスペインと同じくらい重要な国らしく、これまでにも何度もこの国で生まれた歌を歌ってきた。そういう意味においても、本作は集大成といってもいい内容だ。
そして、これらの名曲を甘くせつない歌声で、丁寧に歌い込んでいく。その情感豊かなヴォーカルはベテランならではの深みが感じられ、聴く者をはるか中央アメリカの大地へと誘ってくれるのだ。少し80年代風のシンプルなアレンジも的確で、歌の良さを引き出している。これまでの彼の作品に比べるとかなり落ち着いた雰囲気かもしれないが、それだけに長く聴かれる作品といってもいいだろう。そして、あらためて彼のロマンティシズム溢れた魅力を再評価する傑作だ。
Text: 栗本 斉
◎リリース情報
『愛しのメキシコ』
フリオ・イグレシアス
2015/10/14 RELEASE
2,592円(tax incl.)
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