3.11後の原子力・エネルギー政策の方向性~二度と悲劇を繰り返さないための6戦略~
今回は環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さんからご寄稿いただきました。
3.11後の原子力・エネルギー政策の方向性~二度と悲劇を繰り返さないための6戦略~
2011年3月11日に、東北・関東地方を襲った巨大地震とそれに続く大津波の影響は、計り知れない被害をもたらした。なかでも東京電力福島第一原子力発電所は、巨大地震と大津波の影響で、全電源が失われた後に、冷却水の喪失から炉心溶融、そして大量の放射性物資の環境中への放出など、史上最悪の事態に陥り、今なお収束していない。
本記事は、事故の収束を見据えつつも、同時に新しい原子力・エネルギー政策の方向性を提起し、今後検討が必要な論点を提示することで、世論を喚起することにある。
【要旨】
1 原発震災の出口戦略
冷却・閉じ込めまでに数年単位、その後の管理に100年単位の長期化が予測されるため、それを前提として、安全最優先の対策を取る。
(1) “原発震災管理官(仮称)”の任命による統合体制の構築
(2) 石棺封じ込め方式への早期転換
(3) 放射能モニタリング(空気、水、土壌、食品)の広域・網羅的展開
(4) 実測および予測データに基づく避難区域・避難対策の全面な見直し
(5) 被ばく被害者の長期追跡・ケア体制の構築
(6) 恒久的な事故処理機関の設立
(7) 産業への影響把握と対応
(8) 東京電力の全賠償責任と原発埋蔵金(約3兆円)の活用
2 原発震災の教訓化戦略
国内のみならず国際社会において、二度と原発震災を引き起こさないために、技術から政策決定の面に至るまでの総合的な“事故調査委員会”を設け、事故の構造的な要因を徹底的に洗い出す。
(1) 当事者・利害関係者を排除した独立的な“事故調査委員会”の設置
(2) 国の政策にも踏み込む聖域なき調査対象
(3) 情報・知見の全面開示
3 原子力安全行政の刷新戦略
事前の指摘や数々の原発事故隠しの発覚にもかかわらず、原発震災を防げなかった既存の原子力安全行政を抜本的に見直し、人心一新して独立性の高い安全規制機関を新設する。
(1) 地震リスクに脆弱(ぜいじゃく)な運転中の原発(浜岡原発等)の緊急停止命令
(2) 既存の安全規制機関(原子力安全・保安院、原子力安全委員会)の廃止と、独立性の高い安全規制機関の新設
(3) 全リスクをカバーする無限責任の原子力損害賠償法の見直し
4 原子力・エネルギー政策の転換戦略
原発の大規模新設を前提とする既存の原子力・エネルギー政策路線は完全に非現実的であり、原子力・エネルギー政策を抜本的に見直す。
(1) 原発新増設(建設中含む)と核燃料サイクル事業の即時凍結
(2) 既存の閉鎖的なエネルギー政策機関(原子力委員会・資源エネルギー庁・総合資源エネルギー調査会)の廃止と、環境視点で開かれたエネルギー政策機関の設置
(3) 全国一体の送電会社の創設と電力市場の抜本的改革
(4) 自然エネルギーとエネルギー効率化(総量削減)を新しいエネルギー政策の柱に
(5) 気候変動政策・低炭素社会構築とエネルギー政策との相乗的な統合
(6) 原発国民投票による国民的な議論と原子力政策の見直し
5 緊急エネルギー投資戦略
短期的な対応として、電力需給、東電の一時国有化、自然エネルギーへの加速的投資を行う。
(1) 無計画停電に代わる戦略的な需要側対策の活用
(2) 自然エネルギーと送電設備への緊急集中投資と債務保証制度を用いた地域資金の活用
(3) 第一段階としての東京・東北電力の送電網公有化
6 段階的な原発縮小と整合する気候変動・低炭素社会戦略
気候変動政策・低炭素社会構築にエネルギー政策の転換を反映させる。そして、段階的な原発縮小と整合する気候変動政策を確立する。
(1) 2020年30%、2050年100%の自然エネルギー普及目標と実効的な支援政策導入
(2) 需要プル手法の省エネルギー・総量削減政策による2050年に現状比5割削減
(3) 段階的な原発縮小と実効的な気候変動政策策と低炭素経済社会構築戦略の立案・公表
1. 原発震災の出口戦略
福島第一原発への対応は、地震発生直後の初動から3週間を経過した今日まで、“新しい事態発生→その場しのぎの対応→より深刻な新しい事態の発生”という状況が繰り返し進行してきた。
もはや、この史上最悪の原発事故となった事態の収拾には、年単位の期間を要することは確実であり、事態収拾後も百年単位での管理を要することも避けられない。
そうした前提に立って、以下のとおり、具体的な対処方針を提案する。
1)全権委任した“原発震災管理官”を任命し、統合的な危機管理・事故処理体制を構築
東電原発震災の事故処理は長期化が必至であることから、現状のような官邸主導の体制では、戦略的な対応を迅速に取ることが困難であると考える。これまでの後手後手でドロ縄的に混乱した対応も、当事者である東京電力の対応のまずさや原子力安全・保安院の当事者意識や当事者能力の欠落に加えて、専門的な知見や経験を持たない政治家が前に出るかたちでの“政治家主導”が一因と思料される。規制官庁であるはずの原子力安全・保安院がモニタリングの体制をもたず、事故当事者の東京電力の発表データに全面的に依存し、分析も後手
後手にまわっていることは、OECD諸国から見れば信じ難い事態であろう。
そこで、迅速かつ戦略的な危機管理と事故処理に即応するために、危機管理と戦略的な思考、現場への想像力を持った人物を“原発震災管理官(仮称)”に指名し、これに全権委任した上で、国(原子力安全・保安院、原子力安全委員会、日本原子力研究開発機構、自衛隊など)や民間機関(東京電力、東芝、日立、東京大学、東工大など)、国際機関や各国研究機関などの全面的な協力を得て、これを統括できる体制を構築する必要がある。
また、国内外で広がっている不十分な情報開示への不満や不信は、そもそもガバナンスの混乱が主な原因と思われるため、情報発信・管理についても“原発震災管理官”に一元化することで、そうした不満へも徐々に対処できると考える。
2)異常事態終結に向けた石棺化への早期転換
現時点(4月4日)では、1~3号機の炉心や3/4号機の使用済み燃料プールの冷却のためにポンプ車で水を注入しているが、溶融した炉心の熱で蒸発するほか、高濃度の放射能で汚染した水がタービン建屋や海洋に漏れ出ていることが発見された。
その高濃度汚染水を取り除かないと全体の修復作業は不可能であるため、作業員が被ばく限度いっぱいに被ばくしながら、その高濃度汚染水を取り除く方向で検討されている。その汚染水の除去が成功してはじめて、通電による再循環ポンプ等の稼働試験ができるが、あれだけの大地震・大津波、そして相次いだ水素爆発や炉心溶融のあと、動作する見込みは乏しい。
しかも汚染した冷却水が圧力容器と格納容器から漏えいしているおり、高い放射線量下での補修作業も見通しが立たない。
このような中で、現状の施策を継続するままでは、いたずらに作業員の被ばくを増大させ、放射能の汚染を拡大するだけであることから、当面の水注入はやむを得ないものの、早急に石棺方式へと出口戦略を転換する必要がある。ただし、未だに膨大な崩壊熱を持つ福島第一原発は、チェルノブイリ原発と同じコンクリートによる石棺処理は取れないため、除熱も可能な石棺化(金属閉じ込め、スラリー化など)を早期に研究開発する必要がある。これは、かつてどこにも知見のない措置であり、国際級の研究開発実証チームを必要とする。
3)集中的・網羅的な広域放射能汚染モニタリングと予測シミュレーションの強化、広報
周辺のモニタリング(空気、水、土壌、食品)を早期に拡充し、これをリアルタイムで情報提供するとともに、継続的に予測シミュレーションを行って、集団被ばく線量を予防的に縮小してゆく努力を行う。
福島第一原発を中心とする100km内の広域に、オンラインのモニタリングポストを集中的に設置して、網羅的なモニタリングを実施するとともに、周辺土壌へのフォールアウトや海水や地下水のサンプリング、上空大気の一定頻度でのサンプル採取、流通食品の検査など、網羅的・体系的に実施し、その予測値や影響可能性を含めて、広く国民に情報提供する。
そのための人員や資材には、縦割り行政のために遊休化している文部科学省所管の原子力研究機関のものを充てる。
4)実測データと予測に基づく科学的な根拠で避難地域と対策を再設定し、被災者のケア徹底
現状の同心円で定めた避難地域や屋内退避地域は、もはや意味をなしておらず、これを継続することは、地域住民の健康と安全を脅かすだけでなく、不安をいっそうあおることにもなる。
今後は、実測データと予測に基づく科学的な根拠に基づき、現在の避難地域と対策を再設定し、これの実施を徹底するとともに、原発震災による被災者へのケアとフォローアップを徹底して行う。
5)被ばくの懸念される作業員および周辺公衆の長期的な追跡・ケア体制の構築
大量の被ばくを強いられている作業員や晩発性の放射線影響も懸念される周辺公衆については、長期的な追跡調査体制を構築した上で、全数の長期フォローアップとケアを実施する。
そのため、作業員や周辺公衆に対して、“福島原発被ばく手帳(仮称)”を配布することを提案する。また、手帳所持者の被ばく治療については、当事者負担をゼロとする。
6)恒久的な事故処理機関の設立
福島第一原発の事故は、収束に複数年単位の期間を要し、その後の管理は100年単位に及ぶことは避けられない。したがって、これに対処するための恒久的な事故処理機関を設置する必要がある。
その資金は、東京電力からの拠出のみならず、『高速増殖炉もんじゅ』を所管し年間2000億円にものぼる予算で運営されている(独法)日本原子力研究開発機構の予算を振り替えることを前提として、原子力発電施設解体引当金や再処理等積立金など、既存の原発予算を転用する。
人員についても、日本原子力研究開発機構など既存機関の人員を活用することを基本とするが、“原発震災管理官”をトップとする責任所在の明確なガバナンスを確立し、トップクラスの国際研究機関の参加を得て、実効性ある体制を整える必要がある。
7)産業への影響把握と対応
福島第一原発事故は、近隣の農産物の国内での販売困難化だけでなく、海外への輸出について、農産物だけでなく、鉄鋼などの素材工業製品、機械製品その他が日本産であるということで禁止されたり個別検査を余儀なくされ、いったん放射線量などが先方の基準をこえれば船舶ごと返される事態も生じている。また海外からの観光客は激減し、航空便や船便自体が運行停止になったところもある。このように原発事故が日本の産業全体に危機をもたらし、日本の産業の国際競争力を破壊しつつある。雇用への影響も計り知れない。
海外が日本に向けている不安は、日本製品は「健康にただちに影響するレベルでない」などという説明で取り除くことはできないし、WTOの自由貿易原則をたてに輸入を迫っても受け入れられるわけがない。上記1~6の対処を行うことが不可欠である。
8)東京電力が全賠償責任を負った上で、不足分は原発埋蔵金(再処理等積立金約3兆円等)を活用
福島原発で被災した方々の健康や財産への補償とその後のフォローアップについて、事業者である東京電力による賠償責任を大前提としつつ、国は全面的に支援する。
国が補償するに当たっては、公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターにおよそ3兆円(2011年4月現在)積み立てられている再処理等積立金を優先して充当する。その他、原子力関連の独立行政法人や公益法人を徹底精査し、補助金を全面的に引き上げるとともに、積立金等がある場合、それを充当する。
2. 原発震災の教訓化戦略
国内のみならず国際社会において、二度と原発震災を引き起こさないために、技術から政策決定の面に至るまでの総合的な“事故調査委員会”を設け、事故の構造的な要因を徹底的に洗い出す。
また、得られた情報や知見は、国内外に全面開示する。
1)当事者・利害関係者を排除した独立的な“事故調査委員会”の設置
捜査を行う警察と検察による調査(事故の原因が特定個人の故意または過失によるものかを吟味し、必要により加害者を刑事訴追するための調査)ではなく、事故再発防止の観点から調査・分析・勧告を行うなどの機能を果たす事故調査機関を中立機関あるいは行政機関として、総合的な“事故調査委員会”を設立し、構造的な要因を洗い出す。
従来の原子力安全行政のあり方やエネルギー政策・原子力政策のあり方は、国と事業者がなれ合いで空洞化し、ほとんど機能不全に陥っていたことも、今回の事故の人災的な深因の一つである。
したがって、委員の選任に当たっては、従来の政策決定に携わった者及び利害関係者を排除することが不可欠である。
また、原子力安全委員会や経済産業省など、既存の原子力関係行政機関も調査対象となることから、委員会は首相直属とする。委員会事務局についても、それらの関係行政機関に所属する者を排除し、既存の原子力行政や業界としがらみのない人材を官民から集める。
権限についても、現場保全、報告徴収、質問、立入り、物品収取、資料提出要求、事故に関係する物品の保全や移動禁止要請、事故現場への立入制限、死体解剖等、強力な調査権限を持つ組織とする。また、必要に応じて捜査機関の協力を得られるようにする。
2)安全基準体制や原子力・エネルギー政策を射程に入れた構造的な事故原因の“聖域なき”分析
“事故調査委員会”では、事故の直接的原因分析に留まらず、そうした構造的な要因に遡って、事故の背後に潜む根本的原因について、聖域を設けず、徹底的に検証することが求められる。なお、事故の直接的原因分析はもとより、安全基準のあり方・原子力政策やエネルギー政策のあり方に踏み込んだ調査を行う。
3)調査で得られた情報・知見の全面開示
“事故調査委員会”で得られた情報や知見は、二度と同様の事故を起こさせないために、国内はもとより、国際社会とも共有する。そのために、調査で得られた情報・知見は、全面開示する。また、全情報・知見を少なくとも英語に翻訳し、国際社会で容易に利用できる国際公共財とする。
3. 原子力安全行政の刷新戦略
既存の原子力安全行政は、国会審議や裁判も含めて、原発震災に関する事前の指摘を様々に受けていた。また、数々の原発事故隠しも発覚していた。それにもかかわらず、既存の安全行政は、原発震災を防げなかったどころか、その早期収拾にも失敗した。こうした失敗行政機関を抜本的に見直し、人心一新して独立性の高い安全規制機関を新設する。
1)緊急措置として、中部電力浜岡原発を含む同型炉・地震リスク炉の緊急一時停止
原子力安全・保安院は、2009年7月に見直し後の新耐震基準に沿って福島第一原子力発電所・第二原子力発電所に対して安全性を確認していたが、今回の事故によって、新耐震基準や原子力安全行政のあり方が根本から問い直されている。
直ちに、福島原子力発電所と同型炉ならびに同程度の地震・津波リスクのある原子力発電所(浜岡原発など)は、緊急停止を行った上で、原子力安全行政の体制を抜本的に見直し、安全基準を見直した上で、安全性のバックチェックを実施する。
2)人心を一新した独立性の高い原子力安全規制機関を新設し、実質的な安全確保を目指す
原子力安全・保安院は原子力推進の資源エネルギー庁と同じ経済産業省に属し、中立性にはかねてから疑問が出されていた。しかし、機能する原子力規制組織、立案組織をつくるには原子力安全・保安院の組織を経済産業省から形式的に分離するだけでは不十分であり、形式的に独立している原子力委員会、原子力安全委員会についても改正が必要である。
なれ合いで空洞化していた旧来のエネルギー行政・原子力行政の体制を一新し、温暖化政策とエネルギーリスクへの対応、規律と実効性のある原子力安全行政を確立するため、人心を一新し、国家行政組織法第3条に基づく、公正取引委員会をモデルとする独立性の高い“原子力安全規制委員会(仮称)”を内閣府に新設する。
既存の原子力安全規制機関(原子力安全委員会、原子力安全・保安院、原子力安全基盤機構)は、完全に廃止する。
これによって、規律と実効性のある原子力安全行政を確立し、事業者に依存したなれ合いの安全行政から脱却し、実質的な安全性を担保できる新基準を確立し、完全に独立した評価機関による安全評価を実施する。
3)全リスクをカバーする無限責任保険を原則とする原子力損害賠償法の見直し
現状の原子力損害賠償法に基づく保険(原子炉で最大1200億円)は、今回の事故に照らして過小であったことがはっきりとした。最悪の事象では、当事者の電力会社が倒産して弁済してもなお、甚大なる国民負担の恐れがあることから、原則として、原子力損害賠償については「無限責任・天災免責なし」を保証する保険のあり方を適用する。
4. 原子力・エネルギー政策の転換戦略
エネルギー基本計画に定められたような、原発の大規模新設を前提とする既存の原子力・エネルギー政策路線は完全に非現実的であり、原子力・エネルギー政策を抜本的に見直す必要がある。
1)原発新増設と核燃料サイクル事業の即時凍結
原子力政策や原子力安全行政の抜本的な見直しとその方向性が定まるまで、現時点で進む原発の新増設や核燃料サイクル事業については、すべてこれを即時凍結する。投入される予定だった関係する公費は、すべて事故処理に充てる。
2)環境視点の開かれたエネルギー政策機関の新設
既存のエネルギー政策行政機関(原子力委員会、資源エネルギー庁、総合資源エネルギー調査会)は、原発事故リスクを直視せず、強力かつ閉鎖的に原子力政策を推進してきた責任を明確にするため、すべて廃止する。
これらに代えて、環境視点で開かれたエネルギー政策へ転換するため、内閣府の重要政策会議(総合科学技術会議など)として“総合エネルギー戦略会議”を設ける。その下に、執行機関として“環境エネルギー庁”を置く。それらに参画する有識者及び官僚は、従来のエネルギー政策を推進してきた者を排除し、人心を一新する。
3)全国ヨコ串の一体的な送電会社を創設し、電力市場を抜本的に改革する
今回、誰の目にも明らかになったのは、独占市場のもとで形成されてきた“鎖国的な地域独占体制”の脆弱(ぜいじゃく)さである。また、西日本の発電所が機能するのに、東日本の需給逼迫(ひっぱく)に対応できず、電力会社ごとのいびつな送電網が、従来から問題になっていた再生可能エネルギー普及の障害だけでなく、安定供給にも致命的であることが明確になった。
福島原発の被害補償と廃炉措置を抱える東京電力が、もはや自力では安定供給どころか経営再建も困難な見通しを踏まえ、発送電分離を視野に入れた新しい電力市場の創設とオープンで自由かつ環境保全的な電力政策を策定する。
4)自然エネルギーとエネルギー効率化(総量削減)を柱とする新しいエネルギー政策の確立
今後、日本の電力供給とエネルギー供給の根幹を、総量削減につながる省エネルギー・エネルギー効率化と地域分散型を軸とする自然エネルギーに据える。
その上で、折しも東日本大震災と同日に閣議決定された“再生可能エネルギーの全量買取制度”を活用して、自然エネルギーの全面的かつ加速度的な普及を目指すことで、中長期的なエネルギーリスクと温暖化リスクを回避するとともに、短期的な震災後の復興経済の活性化を狙う。
5)気候変動政策・低炭素社会構築としたエネルギー政策との相乗的な統合
大量エネルギー消費維持&原子力拡大が、気候変動政策(地球温暖化対策)の選択肢としては相容れないことがはっきりした。従来型経済・エネルギー政策を前提に気候変動政策を押さえ込む意味の「環境と経済の両立」ではなく、気候変動政策の目標をエネルギー政策としても追求し、発電所を対象に含めた総量削減型の排出量取引制度の導入など、温暖化対策の本流である省エネ・燃料転換・再生可能エネルギー普及をエネルギー政策においても柱にし、実質的で相乗的な統合を行う。
6)原発国民投票による国民的議論の活性化と原子力政策の見直し
このたびの福島第一原発事故は、1に述べたように日本の産業活動を広範囲に破壊し、かつ製造業などの輸出競争力や観光産業などに致命的な打撃を与えつつある。これまでこうしたリスクについては、地震や津波について科学者などの指摘を無視した低い想定、緊急炉心冷却装置への根拠のない信頼を前提に、事故がないとされてほとんど顧みられることがなかった。その破壊力が現実のものとなった今日、事故リスクを評価し、全面撤退も視野に入れた厳しい姿勢での検討を行うことが必要である。
基本的には原子力リスクを最小化するため、核燃料サイクルの見直しと今後の新増設の中止、段階的な縮小、原子力立地自治体への補償、高レベル廃棄物など廃棄物処分の取扱等について、国民のコンセンサスを得た上で、具体的な措置を定める。
具体的には、以下のような事項を検討する。
・原子力基本法を見直すとともに、原子力委員会を“総合エネルギー戦略会議”に統合する。とくに、原子力の研究、開発、利用の促進の再検討(第1条関係)についての見直しが必要である。
・エネルギー政策の観点から原子力政策のあり方について国民投票を実施し、今後の原子力政策の方向性について、国民の信任を得ることが必要である。
・原子力立地地域に対して、立地交付金や電源開発特別会計の使途の見直しを含めた原子力振興行政の抜本的に見直す。たとえば原発の廃炉を前倒しで選択した地方自治体が財政的に困窮しない支援策に配慮する必要がある。
5. 緊急エネルギー投資戦略
計画停電や電力供給不足など、電力供給政策の失敗による経済への悪影響を最小限に抑えるとともに、エネルギーシステム改革のための投資を需要喚起の柱とする。そのために必要な投資を、公的資金でスムーズに行えるよう、東京電力と東北電力の送電設備を公有化する。
1)計画停電に代わる短期的な電力需給調整
今年の夏までは首都圏において厳しい電力需給が続くため、以下の措置で対応する。
・供給側では、既存の休止火力発電や自家発電、他電力からの電力融通を最大限活用する。
・需要側では、電気事業法第27条(電気の使用制限等)を発動した上で、公共交通機関や医療機関などライフラインを優先した上で、自発的かつ広範な省エネ努力に加えて、需給調整契約を活用した市場メカニズムによる弾力的な対応(たとえば、電力ピーク時にカットオフする優先順位を契約し、報奨金を出し、国は報奨金を補てんする)。
・工場や業務ビルの省エネ診断と、オーバースペック設備停止などを計画的かつ広範に実施。
・ 計画停電は実施しない。
2)自然エネルギーと送電設備への集中的な緊急設備投資と債務保証制度を用いた地域資金の活用
自然エネルギーは、極めて短期間に需要を創出できるため、全面的かつ加速度的な普及を目指す。
・送電設備:
*東西の周波数変換容量を現在の100万kWから500万kW、そして1000万kWを目指して設備投資を行う。
*高圧直流送電線(HVDC)などを用いて北海道および東北からの送電線の増強(現状の60万kWを500万kWスケールに)。
*その他、風力発電や太陽光発電を大規模に導入する上で、ボトルネックになる地域を優先して、送電線や変電所の整備を行う。
・ 自然エネルギー:
*全量買取制度における買取価格を投資が活性化される程度に充分高い価格に設定し、その追加負担(回避可能原価を除く)は、広く国民負担とする。
*新設される“送電会社”はその自然エネルギーを優先して購入する義務を負うものとする。
*一定の基準を満たす自然エネルギー事業に対して、国は債務保証措置を行う。
*事業にあたっては、地域の金融機関や地域コミュニティの参加を前提とする。
3)公的投資を促進する東京電力・東北電力の送電設備公有化
東京電力・東北電力管内の送電網を公的資金により、短期・集中的に近代化する。特に東西周波数については、10か年計画で東日本の周波数を西日本に適合させる。それを推し進めるため、第一段階として東京電力と東北電力の送電網を公有化する。
6. 段階的な原発縮小と気候変動・低炭素社会戦略
気候変動政策・低炭素社会構築にエネルギー政策の転換を反映させる。そして、段階的な原発縮小と整合しうるエネルギー・気候変動政策を確立する。
1)自然エネルギーの飛躍的普及を目指した高い目標設定と実効的な政策への刷新
今後、日本の電力供給とエネルギー供給の根幹を、エネルギー効率化(省エネルギー)と自然エネルギーに据えることが必須である。そのため、政治的に自然エネルギー導入の高い目標を据えて、これを実現するためにエネルギー政策を実効的なものへと刷新する。
・2020年に電力供給の自然エネルギー20%増(既存の水力・地熱を含めて30%)
・ 2050年に電力供給の自然エネルギー100%へ
2)需要プル手法による省エネルギー政策・総量削減政策による2050年に現状比5割削減
欧州を中心に成功しつつある再生可能エネルギー普及政策にならい、省エネについても我慢による数%程度の削減ではなく、エネルギー量を中期的に半減する大幅削減目標と、その手段の一つとして“需要プル型”の手法を定めていく。
3)段階的な原発縮小と実効的な気候変動政策と低炭素経済社会構築戦略の立案・公表
気候変動政策を、省エネ・燃料転換・再生可能エネルギーの拡大で実現する。
・温室効果ガス排出量目標:2020年に1990年比25%以上の削減を国内削減により実現。2050年に1990年比80-95%削減を実現。
・原発に依存しない2020年一次エネルギー供給目標を、従来の“原子力ムラ”構成員中心ではなく、新しい体制によるステークホルダー全体参加で構築。
・従来の大量エネルギー消費と原子力拡大前提でない、気候変動(温暖化防止)政策、エネルギー政策の積極的戦略的統合。
・低炭素経済社会移行を戦略的に進め、再生可能エネルギー産業、省エネ産業を市場プル型で育てて行く。
以上
執筆:この記事は環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さんからご寄稿いただきました。
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