予期せぬ失敗をしても頭が真っ白にならない心の持ち方
「逆境」に立たされたとき、あなたはどんな行動を取るだろうか。
自分の目の前に「壁」が立ちはだかり、それを乗り越えるためにすべきこととは何か。そんな問いに答えてくれる一冊が『逆境の教科書』(集英社/刊)である。
著者の山口伸廣さんは、人間国宝が作った品々を展示している「人間国宝美術館」をはじめ、さまざまな事業を展開している経営者。今年で67歳になるが、今も精力的にビジネスに取り組む。
そんな山口さんだが、50歳のとき年商100億円の建設会社から社長の座を追われ、経理部長に会社を乗っ取られてしまったことがある。“もう再起は不可能だろう”と思うような「逆境」を乗り越えたその意志はどのように育まれ、どのように行動に結び付けたのか。
壮絶なエピソードを3回にわたって語るインタビュー、その前編をお伝えする。
◇ ◇ ◇
――本書を読ませていただいて驚いたのが、山口さんの視点の鋭さです。また、たくさんのアイデアを生み出し、それをビジネスに結び付けて実際に行うという実行力も圧倒されましたが、行動力や視点の鋭さをどのように培ったのですか?
山口:様々な経験から培われていると思いますが、一番は、自分でマンションを販売しなくてはならなくなった経験ですね。
私は20代で建設会社を設立し、数年後にマンション建設をスタートさせたのですが、あるときひょんなことから、建設だけでなく販売もしなければならなくなりました。それまで一度も営業を経験したことがなかったのに、です(笑)。
マンションまるまる一棟を売りきるためにどうしたらいいのか? それをひたすら考え、行動し、様々な人から意見を聞きました。その経験が、今の行動力や様々な着眼点を培ったと思います。
それだけ必死になれたのは、自社で作ったマンションだったからです。すでに莫大な費用をかけてマンションは出来上がっているのです。売れなければ全て赤字になってしまいます。なんとしてでも売らなければならない。物は売れなければ、どんなにいい物を作って意味がない。でも、自分の代わりに売ってくれる優秀な営業マンはいない……だから自分でやらなくちゃいけない。まさに逆境のときでしたね。でも、そこが自分のビジネスキャリアのターニングポイントの一つだったと思います。
――山口さんが経験されてきた「逆境」は、一般の人たちの想像を絶するようなものだと思いますが、山口さんにとってどのようなときが「今が逆境だ」と思うのでしょうか。
山口:「時間」と「精神力」を奪われてしまう環境は、逆境だと感じます。その最たる例が、会社乗っ取りにあった後に押し寄せてきた裁判続きの日々です。
裁判中は、毎日、常に勝つか負けるかという緊張した状態が続きます。どう答弁したらいいのか? この一言が判決を左右すると思うと、たった一言を考えるだけでも、ものすごく精神力を使いました。さらに、私の場合は裁判の数が多く多忙を極めましたから、商売をする時間が持てませんでした。当然、収入がなくなってしまいます。お金を稼ぐ時間、生産的な行動をとる時間ができなくなってしまったのは辛かったですね。さすがにこの状態は「逆境だな」と感じました。
――本書の冒頭の会社を乗っ取られたくだりは、非常にスリリングでしたし、失意の中でも新たなビジネスの芽を見つける視点を持ち続けていたのは感動しました。その精神力はどのようにして養われたのでしょうか?
山口:精神力……というのは、実はないんですよね。精神力があるかどうかの問題ではなくて、もう、仕方がないというか。攻め込まれれば守るしかない。受けて立たなければ潰される。だから自分を守るために、自分が潰されないために必要なことをする。それだけなのです。
大切なのは、結果を考えすぎずに行動すること。その日その日でベストな行動をしていくことです。自分が「失意の中にいる」と感じる人は、おそらく「この先どうしたらいいんだ」、「もうダメかもしれない」という考えの中にいるのだと思います。ですが「失意の中にいる」と思うから、そこを抜け出すのに精神力がいるだけで、自分が失意の中にいると思わなければ、そんなに精神力はいりません。
結果や未来のことを考えすぎず、自分が日々できることを考える。自分は毎日少しでも前進しているんだ、という自覚を持てるような過ごし方をしていれば、失意のどん底に落とされることはありません。
――人は失敗をしたり、逆境にぶつかると頭が真っ白になると思います。そうしたことを防ぐために気をつけるべきことはなんですか?
山口:やはり、最悪の事態を予想して対応策を立てておくことでしょう。頭が真っ白になってしまうのは、全く予想しない状況に陥って、自分が何をどうしていいかわからなくなってしまうからです。常に「ダムは2つ」作っておくことが大切です。
この「ダムを2つ作る」について説明します。たとえばあなたが会社の社長だったとします。そして社員が3人しかいないとします。そこから考えられる最悪のシナリオはなんでしょう? 3人ともが辞めてしまうことですよね。じゃあ、全員が辞めてしまうという最悪の事態を避けるためにはどうしたらいいのか? 全員とはいかないまでも、一人でも辞めてしまったとしたら、どう対応しなくてはならないのか? このように2段階、または複数段階でリスクを想定しておけば、その時々で自分が何をしなければならないのか、冷静に判断することができます。すでに想定していることであれば、頭が真っ白になることもありません。
順調にいっているときでも、常にそれを考えておくべきです。
(中編に続く)
●(新刊JP)記事関連リンク
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ウェブサイト: http://www.sinkan.jp/
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