福島県郡山市の避難所-広がる原発の影響

福島県郡山市の避難所-広がる原発の影響

原稿と動画は伊藤ニコラさんからご寄稿いただきました。

●福島県郡山市の避難所-広がる原発の影響

3月20日の日曜日、フランス人ジャーナリストのフィクサーとして、福島県郡山市のビッグ・パレットと呼ばれる展示場へ取材に行った。

展示場は現在、地震と津波によって破損してしまった二つの原子力発電所から漏れ出した放射性物質から避難してきた人を受け入れている。現在は2000人以上の人が床に毛布を敷いて、ダンボールでできる限りの敷居を作って生活している。

原発のある東のほうから来る人は避難所に入る前に必ず放射性物質が付着しているかの検査(スクリーニング)を受けなくてはならない。生活空間の隣には大きな倉庫があり、そこで医師による検査を受ける。放射性物質が多く付着していると、服を脱ぐか、あまりにも多いときはシャワーを浴びせられる。

さらに、ズボンの裾などをめくり上げ、地面に引きずらないよう注意される。地面には空から落ちてきた物質が多く落ちており、それが衣類につくのを防ぐのである。

スクリーニング場でひとつの家族に出会った。

東北電力に勤務する夫は、毎日停電している区間を復旧させるために屋内待避区域と指定されている(25日より自主避難区域)、原発から30キロ圏内へ頻繁に行き来している。戻るたびに避難所にきてはスクリーニングを受けている。

その日の昼食は大きな鍋で作った豚汁であった。はっぴを着た地元の消防団らしき男たちが、表のかまどに木をくべ、火をおこし、大きな柄杓で力強くかき混ぜていた。12時ごろになると避難者たちはダンボールなどで作った皿受けを持って表に出てきた。家族、親族、友人の分の昼食を得ようと言うのだが、すぐに豚汁はなくなっていった。

避難所に来ていた人の中には、全てを失った者もいる。

豚汁配給場で出会ったマラソンが好きな67歳の男性は、富岡村という、原発からわずか2キロしかはなれていないところに住んでいた。11日の地震のとき、慌てて家を飛び出し、車の中で一晩を過ごした。

次の日、荷物をまとめようと家に戻ったら余震が襲い、家をまた飛び出し、再び戻ろうとしたら防護服を着た警官に道を阻まれたという。そのとき、男性は全財産を家に残し、避難所にやってきたので、話を聞いたときに身につけていた衣類は全てもらったものだと言っていた。

失ったのは家だけではなかった。農業を営んでいた男性はもう家に帰れるとは思っていなかった。原発から漏れ出した放射性物質の影響で土地も汚染され、再び耕せる畑は彼には残っていなかった。

「俺らは犠牲になったんだ。東京に電気を送るために」と強く主張したこの男性は、家を失い、職を失った。今後、原発の危険がなくなったとしても、どのように生きていけばよいのか。

放射線汚染、そしてそこにつながる風評被害は深く福島県の土に根を張ってしまい、もともと農業を生活の糧にしていた人々は、二度と元の生活には戻れないかもしれない。量が少ないとか多いの問題ではなく、ただ、福島から来たものだというだけで、人々はそれを避けるだろう。福島の産業は、長期的にはどのような影響を受けてしまうのか。

プライバシーの欠片もない避難所暮らしとは、自分では想像できないほどストレスの高いものだろうと思われる。政府の対応に不信感が募り、自分の身は自分で守ると決めた村人もビッグ・パレットに来ていた。

屋内待避の30キロ圏内には川内村という2000人ほどの村がある。「屋内退避とは言ってもいつまで?」と思った村長は村民に呼びかけ、全員をバスに乗せて退避した。ビッグ・パレットには現在500人くらいの村民が避難している。

正しい決断だったと言う村長だが、長引く避難所暮らしには不安を抱いている。「長続きすると負担になるかもしれない」と、彼は床に腰を下ろしている村人を見ながらこぼした。

取材に行ってからすでに1週間が過ぎようとしている。あれからビッグ・パレットの避難所はどうなったのだろうか。

Koriyama Big Palette March 20, 2011 『YouTube』

※ガジェット通信では今回の大型地震に関する情報・動画・写真・原稿などの提供をお待ちしております。

執筆:今回の原稿と動画は伊藤ニコラさんからご寄稿いただきました。

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