ファン待望の近未来SF『ゼロの未来』テリー・ギリアムインタビュー「日本人は上手に“変態さ”を隠しているよね」
『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』の鬼才テリー・ギリアム監督最新作! 『ゼロの未来』が5月16日より公開となりました。本作はコンピューターに支配された近未来を舞台に、謎めいた数式を解くため教会にこもって生きる孤独な天才技師の人生が、ある女性との出会いから変化していく様を描いたSFドラマ。
『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がれざる者』のクリストフ・ワルツを主演に迎え、日本の秋葉原をイメージしたという街並のデザインはまさにギリアム節全開。ファンにとっては待ち望んでいた作品と言えるでしょう。ガジェット通信では先日来日していたギリアム監督にインタビューを敢行。映画のこと、監督自身について、色々とお話を伺ってきました。そして実は「ガジェット通信」とギリアム監督には意外なつながりが! どうぞ最後までお読みください。
―本作『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』という監督の作品の中でも特に人気の近未来作品という事で、多くのファンが待ち望んでいたと思います。
テリー・ギリアム:『未来世紀ブラジル』があったからこそ今回の物語で“ユートピア”を描こうと思った。かつて『未来世紀ブラジル』を作ったとき、当時我々が生きていた世界を描こうとした。『ゼロの未来』は私が思うに、我々が今住んでいる世界の一端だ。
この作品には、我々が生きる現代世界に対する懸念をつめこもうと思った。世界は非常に繋がっているけど、同時に完全に離れている。顔を合わせて直接コミュニケーションを取る以上に、パソコンやインターネットのコミュニケーションで多くの時間を過ごすことでね。ここに付け加えたかった問題は、人は自分自身の世界を創り上げて孤立することができるけど、そのことで本物の人間関係が持つ、面白いものや困難なものや素晴らしいものに対処できなくなるということだ。
『未来世紀ブラジル』を作った時と一番違うのは、今僕は昔ほどの夢想家でも無く、偏屈なオヤジになったという事だけどね(笑)。30年前に比べると、今はとても疲れてしまっている。昔は「世界を変える」という事は今より簡単に思えた。現代は自分一人が生きていくのに必死で様々な“活動”が生まれづらくなっている。そういう事を考えていると僕はますます老けてしまうんだ(笑)。
―それでもなお映画を作り続ける理由、モチベーションとは?
テリー・ギリアム:他にやりたい仕事無いんだもん(笑)。映画に囚われていて逃げられないだけ、「辞めたい」と思う瞬間は毎日あるよ。でも僕はやっぱり監督という仕事が好きなんだ。役者、ミュージシャン、デザイナー、ダンサー様々な才能あふれる人と仕事が出来て、その指揮者になる事が出来るんだからね。僕は映画作りについては何も知らないよ、毎回映画を作りながら学んでいるんだ。
―監督と言えば独自の映像美、世界観ですが、本作は特に街のデザインが印象的ですよね。
テリー・ギリアム:僕はとにかく“遊ぶ”のが好きなんだ。毎回色々な新しい事を取り入れて、チャレンジしたいと思っている。東京の渋谷のガチャガチャ忙しい街並はこの映画に影響を与えているよ。秋葉原もね。「ディストピア」というとほとんどのクリエイターが灰色で寂しい街並を作るのだけど、そうでは無くとにかくカラフルな街並にデザインしたかったんだ。
―それはとても嬉しいお言葉です。今も作務衣を着てらっしゃいますよね。
テリー・ギリアム:作務衣は4着持っているよ。浮世絵も集めているんだけど、日本は伝統と最新の技術のバランス、融合が素晴らしいよね。社会は保守的で、大人しい国というイメージを持たれがちだけど、個々の空想の“ビザール”(奇怪、特異な)たるや本当にすごいよね。こうして話していても、見た目はまともなのに頭の中ではとんでも無い事を考えている。つまりみんな「変態」という事だよね(笑)。上手に隠しているなと思うよ。
―監督の映画というと毎回色々なトラブルが起き、『ドンキホーテを殺した男』の撮影打ち切りの顛末を描いた『ロスト・イン・ラマンチャ』というドキュメンタリーまで作られていますが、今回特にトラブルは無かったのでしょうか?
テリー・ギリアム:「ギリアムの呪い」と言われているやつだね(笑)。今回はプロデューサーが途中で亡くなっていて、作品を彼に捧げている形になっているんだ。この作品の多くのシーンをブダペストで撮影しているけど、そこには多くの犯罪者が投獄されている。そんなのろわれた場所で撮影が無事に終わった事がミラクルかもしれないね。
―本作は「本当の幸せとは?」というテーマでも描かれていますが、監督にとって「幸せ」とは何ですか?
テリー・ギリアム:幸せっていうのは瞬間なんです。「幸せ」という明確な物が存在しているわけでは無くて、太陽が照っている瞬間、友達と良い時間を過ごしている瞬間、そういった瞬間の積み重ねが、僕のほとんど惨めな人生の中に彩りを与えてくれる。この年になると多くの事を求めなくなるのだけど、幸せの瞬間があるから後数年は生きられると思うね。
―最後に、実はこのインタビュー記事が載る「ガジェット通信」というサイトは「未来検索ブラジル」という会社が運営しています。そう『未来世紀ブラジル』から勝手に名前を拝借しているんです。
テリー・ギリアム:(サイトを見ながら)いいね! どんどん使っていいよ。でも、この名前(『未来世紀ブラジル』)を使うのならば面白い事をどんどんしていかなくてはいけないよ!
―監督の様にずっと遊び続けていきたい、そう思います。今日はどうもありがとうございました!
『ゼロの未来』
http://www.zeronomirai.com/
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