「うるさい選挙カーがなくならない理由」候補が選挙カー不使用宣言しても票には結びつかない

access_time create folder政治・経済・社会
The Japan Timesウェブサイトより

「選挙カー使わない」ネットで賞賛されるが票には結びつかないという事実

「選挙カーを使いません」とブログで宣言し一躍話題になった山下たけおり元候補(千代田区議選)と選挙後お茶する機会があり、「選挙カー使わずに選挙戦やってみて、どうでした?
ときいてみました。

そしたら、山下さん
「選挙カーがないと、選挙に勝つのは難しい」
と感じたそうです。

実に率直な感想だと思いますが、「やっぱりそうなのか」とかなり衝撃を受けました。次の選挙では選挙カーを使うことも考えているとか。

統一地方選後半、ネットでは山下候補の選挙カー不使用の話題でもちきりといってもいい状態で、実際「選挙カーを使っている候補には投票しない」という声も多くみかけました。しかし選挙に勝ったのは選挙カーを使っていた候補たちであり、選挙カーを使わないと宣言し日本のみならず世界でも注目された候補は負けてしまいました。

僕も初めて区議選というものを経験しましたが、街頭演説や選挙カーの「現時点における」重要さというものを実感しました。選挙後お茶したその場に同じく千代田区議選に出ていた青木竜馬さんもいまして、自転車や徒歩で選挙を戦ったのですが、やはりすごく大変だったということです。(山下さん、青木さん、そして私は今回千代田区議選に出たのですが当選できませんでした)

ネットで有名な選挙カー使わない人というと、神田敏晶さんですが、今回練馬区で区議選に出ておられました。神田さんは昔から選挙カーを使わない選挙運動をやっているのですが、今回の区議選でも残念な結果に終わってしまいました。

「選挙カーを使わない」というとネットでは賞賛されますが、実際のところ票には結びつかないようです。

僕も選挙戦前半は、街頭演説などをおこなっていませんでした。
ウェブサイトに考え方をきちんと掲載し、ネットでそれらを伝える努力をすれば、それでよいだろうという考え方でした。今考えると非常に驕った考え方なのですが、告示後選挙戦に入ったものの、ネットだけではまったく手応えを感じませんでした。もちろんネット経由で多くの反応はいただくのですが、千代田区の人がいない。その後街頭演説などもさせてもらい、実際に駅頭などに立ち止まり、スピーカーや選挙カーを使って、みなさんに考え方の訴えかけをおこないました。

今回の訴えは1つで「働いている人でも仕事を持ったまま地方議会に参加できるよう、平日昼間に開催されている地方議会のシステムを変更し、土日など休日や、平日夜間に議会を開催できるようにしましょう」というものでした。(土日夜間議会 http://donichiyakan.jp/ )

実際に街でこの考え方を直接話しかけるように説明していくと、興味を持って話をきいてくれる、というのがよくわかりました。「応援してます」と声をかけてくれたり「その考え方、いいと思う」と握手しにきてくれる人がいました。「実際に自分の考えをきいてもらい、納得してもらって票を入れてもらう」という体験は非常に貴重です。ほんとにほんとの民主主義の基本といいますか、原点の部分が体感できたような気がします。

ウェブサイトやSNSは補助的な手段としてはもちろん有効なのですが、あくまで補助的なものであって、実際に票を入れてもらうには、ひとりひとり、積極的に声をかけて話をきいてもらい、納得してもらわなくちゃいけないということが実感できました。

そして、そのためには選挙カーやスピーカーを使った街頭演説などは、いまだ有効な手段だというのが再確認できました。

実際に立候補した者が、自分の考えを訴えるためにとれる手段って、実はそんなに多くないのです。あまりに方法が少ないので、驚いてしまいました。

有名な話で知っている方もいらっしゃると思いますが、選挙カーに関しては、公職選挙法で「(車上の選挙運動の禁止)」という項目があり、「選挙カーでは選挙運動できない」「でも走りながら連呼することは可」という、よくわからない条文があります。

公職選挙法141-3

これ、逆じゃないの?という気もしますが、法律によれば連呼はみとめるけど、訴えかけはやっちゃだめ、ということです。

(車上の選挙運動の禁止)
第百四十一条の三  何人も、第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること及び第百四十条の二第一項ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない。
 (公職選挙法より http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html )

これってすごく変なんですが、それでも法律ですので、皆さん選挙カーでは連呼するしかない、ということになってます。

そんな変な法律なら変えてしまえばいいじゃない、ということかと思いますが、公職選挙法を変えるとなると数名国会議員を動かさなくてはならず、事実上公職選挙法のこの部分を変えるのは非常に難しいといわざるを得ません。

選挙カーうるさいと思っている世代の議員がもっともっと増えていけば。もしくは選挙カーを使わないと宣言した議員に票を投じるために投票所へ向かう人がどんどん増えていくという現象がみられるのであれば、可能かもしれませんが、今はまだそういう動きはみられず、それがあるとしてもかなり未来の話のような気がします。

「選挙カーがうるさい候補には投票しない」という発言もネットでよく見ますが、ほとんどの候補が選挙カーを使っている中、単独でそうしても、結局票が分散するだけです。それをするなら、選挙カーを使わないと宣言した候補に集中して投票しなければ意味がありません。

例えば「スマホでワンクリック投票」などが可能な世の中になれば、もしかしたらコロッと変わってしまうのかもしれません。

「選挙カーは、選挙の時だけ名前を売りたい候補者の傲慢」という手厳しい意見もあります。しかし、選挙期間以外に選挙カーが走り回るとなると、それはそれで別の問題を生むのではないかと思います。選挙期間という限られた時間の中で考えを知ってもらう、というのが選挙運動のルールですから、これは傲慢でもなんでもなく、単なるルール、そういうものなんだということであって、候補者は何も悪くないような気がします。

ともあれ、現時点で選挙カーは立候補した人に認められた、数少ない手段のうちのひとつ、として理解してもらうしかないかもしれません。

結局「うるさい」と感じるのは、関心を持ってもらえていないから

うるさく感じてしまう、というのは、選挙に関心を持ってもらえてないから、というのもあると思います。

学校・病院などの近くで大きな音を出さない、というのは最低限のマナーだとしても、駅前などでまで、うるさいと思われてしまうのは、関心のなさのあらわれだということができます。

これは、議員に立候補した者の訴えのレベルの低さってのがひとつの理由かもしれません。

また、議員との距離感がありすぎる、というのもうるさく感じる理由のひとつじゃないかなと思います。極端な意見としては、選挙カーは候補者のエゴだというものもあります。「先生と呼ばれる職業にろくなものはない」とも言われますが、もし地方議会の議員というものが、先生と呼ばれる特別なものに見えているとしたら、そもそもそれが大間違いです。

もっと身近な人に地域のための代表となってもらい、議員には身近な存在となってもらう必要があります。そのためにもやはり「仕事をもったまま、誰でも地方議員になれる」そんな環境整備、地方議会システムの変更はやっていかなくちゃいけないなと思います。

というわけで、実際に選挙カーを使わなかった人の率直な「やはり選挙カーは使うべき」という感想をまじえつつ、選挙カーについて考えてみました。

「選挙カーつかいません」と言っても票には結びつかない、というのは明確になってしまいましたし、間違いなくこれからも選挙のたびに、選挙カーは走り回ります。候補者側は、時と場所を考えつつおこない、関心を持ってもらえるよう訴えの内容を工夫していかなければならないと思います。地域のみなさんには「この人達はなにか伝えたいことがあるんだ」ということを思いだしてもらって、選挙期間中は寛容の心を持ってきいてもらいたいと思います。

そうは言っても、あの連呼のみを認める公選法の条文は、やっぱりヘンですけども。

(執筆:深水英一郎)

参考

「山下たけおり」は、選挙カーの使用は致しません
http://takeori.net/post/116781529039 [リンク]
「選挙カーは騒音が迷惑だから使用しない」と表明する区議候補者、現る
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinoharashuji/20150419-00044956/ [リンク]

Chiyoda Ward candidate swears off campaign vans | The Japan Times
http://www.japantimes.co.jp/news/2015/04/20/national/politics-diplomacy/chiyoda-ward-candidate-swears-campaign-vans/
(トップ画像)

―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』

  1. HOME
  2. 政治・経済・社会
  3. 「うるさい選挙カーがなくならない理由」候補が選挙カー不使用宣言しても票には結びつかない
access_time create folder政治・経済・社会
local_offer
深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。