『チャッピー』ブロムカンプ監督インタビュー 「デザインは『アップルシード』の“士郎正宗”から影響を受けているよ」
『第9地区』(’10)、『エリジウム』(’13)と、近未来の世界を独自の視点で表現し続けるニール・ブロムカンプ監督。その待望の最新作であり、AI(人工知能)を搭載した人型ロボットの成長と苦悩を描いたアクションSF映画『チャッピー』が、5月23日(土)より日本公開となります。
ガジェット通信は、SF映画界の鬼才としてその地位を確立したブロムカンプ監督に電話インタビューを実施。本作で描かれるテーマに迫りつつ、日本との関わりについてもお話を聞くことができました。ちなみに、日本のウェブメディアとしては“独占インタビュー”となっているので、ほかでは見ることができない内容ですよ!
<ストーリー>
2016年、南アフリカのヨハネスブルグ。科学者のディオンは世界で初めて、自身で感じ、考え、成長することができるAI搭載ロボット“チャッピー”を開発する。そんな矢先、ディオンとチャッピーは、世界でも有数の危険地帯に巣食うストリートギャングによって誘拐されてしまう。起動したばかりで子どものように無垢で純粋なチャッピーは、ギャングのメンバーたちと接するうちに、彼らから生きるためのスキルを学んでいく。圧倒的スピードでさまざまな知識を吸収していくものの、自身のバッテリーがあと5日分しか残されていないと知ったチャッピーは……。
作品に込められた重厚なテーマの数々
――そもそもAI(人工知能)に興味を持ったきっかけを教えてください。
ブロムカンプ監督:興味はずっと持っていたよ。昔はAIの技術的な部分にだけに興味があったけど、次第に人工知能がより大きなテーマの一部、つまり“知能とは何か”、“意識とは何か”、“神は存在するのか”、“魂は存在するのか”、“魂とは何か”といった哲学的な側面で議論されるべきことだと分かってきたんだ。
――今作では中でも“成長するAI”というテーマに重きが置かれていますよね。
ブロムカンプ監督:どんなAIであっても“成長する”つまり“改善していく”必要はあって、変化しないAIというのは存在しないんだ。ちょうど人間が赤ん坊から大人になるまでに学習していかなければならないようにね。どんな知能にも学習は必要で、AIの学習速度は人間のそれよりもはるかに速いだろうけど、同じように学習は必要なんだ。
――『エリジウム』の時も“余命5日間”の男が自分の生きる道を模索する話でした。今作にも共通しますが、こちらも監督のお好きなテーマなのでしょうか?
ブロムカンプ監督:あぁ、そうだと思う。命が限られていること、つまり“我々が皆いつか死ぬこと”の意味、“我々はなぜ生まれてきたのか”といったことは、いつも考えているよ。人工知能というテーマについて考えるとき、限りある命というテーマについては考えざるを得ない。人工知能は我々人間が不死身になることを可能にするのか、それとも我々を絶滅させてしまうのかという部分にはとても興味があるね。
――ハードなアクションSFでありながら、小さな子どもを持つ親には絶対に観て欲しい作品とも感じました。
ブロムカンプ監督:“養育”というテーマにも興味があるんだ。人間は白紙の状態で生まれ、様々な環境の中で育まれる。どれだけの部分が環境によって変化して、どれだけの部分が生まれ持ったものなのか、そういったテーマにね。それらは全て子ども時代、親、そして家族のあり方に関係していると思うんだ。
―― 一方で、キリスト教的な“人類の創造”のモチーフも反映されているのでしょうか?
ブロムカンプ監督:いや、この作品にはどんな宗教観も取り入れていないよ。それよりも、どんな宗教の人も、たとえ無宗教の人でさえ“神はいるのか”、“いるとすればどんな存在か”と、皆が共通して考えるテーマを盛り込んだつもりだよ。
日本のアニメから影響を受けたデザイン
――チャッピーのデザインでこだわったポイントを教えてください。
ブロムカンプ監督:チャッピーには面白い経緯があるんだ。2004年頃に架空のロボット会社のCMを作ったんだけど、チャッピーのデザインはそこから盗んだものなんだ。そのロボットのデザインは『アップルシード』の“シロウ・マサムネ(士郎正宗)”から影響を受けているよ。その頃、日本のアニメや漫画が大好きだったんだ。
――確かに日本のアニメ的なデザインを思い浮かべました。監督の作品には、ヒュー・ジャックマンが操る“ムース”のように、脚が逆関節のロボットもよく登場しますよね。
ブロムカンプ監督:そう、チキン・ウォークだよ(笑)! 映画の歴史の中にはたくさんのデザインがあるけど、僕の中で最初に思いつくデザインが2つあって、1つが『スター・ウォーズ』に登場する“スノーウォーカー”たち。もう1つが、オリジナルの『ロボ・コップ』に登場する“ED-209”だ。同じデザイナーが作ったように見えるよね。
――そんなロボットたちが活躍する都市として、『第9地区』と同じく今回もヨハネスブルグを舞台とした理由は?
ブロムカンプ監督:ヨハネスブルクを選んだのは、僕がこの映画でどうしても起用したかったバンド、“Die Antwoord(ダイ・アントワード)”が南アフリカ出身で、彼らが最も活き活きと撮影できる場所だと思ったからなんだ。だから本音を言うと戻って来たかったわけではないけど、ヨハネスブルクに戻って来ざるを得なかったんだよ(笑)。でもこの映画のテーマは、かなりリアルな形でヨハネスブルグと結びついているけどね。
――ギャングがチャッピーを育てるという構想には欠かせないキャスティングと舞台だったわけですね。
ブロムカンプ監督:『チャッピー』はとても不思議な映画で、ある種カルト的に受け止められている。一般的なアメリカ人は残念ながら“Die Antwoord”をあまり好まないようで、一部の人にだけ受け入れられているみたいだ(笑)。一方で、ヨーロッパの人々はより彼らや作品に対してオープンなようだね。
――そういう意味では、ラストの展開も人によってメッセージの受け取り方が様々だと思いました。
ブロムカンプ監督:そうだね。でも僕がこの映画で描こうとしていることは、人類がある時を境に永遠に変わってしまう可能性があるということだよ。
――では最後に、現在取り掛かっている『エイリアン』の最新作も気になるところですが、日本のファンにちょっとだけ情報をいただけませんか?
ブロムカンプ監督:いや、残念ながらそれは機密事項だよ(笑)。たくさんやることがあるけど、今のところは話せないんだ。
――楽しみに待つしかないですね(笑)。本日は、ありがとうございました!
ガジェット通信『チャッピー』特集ページ:
https://getnews.jp/chappie
(C)Chappie – Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
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