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社内失業・社内ニートはなぜ急増したのか

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今回はますだ・ふみおさんのブログ『社内失業と呼ばれて』からご寄稿いただきました。

社内失業・社内ニートはなぜ急増したのか
“社内失業”という言葉を聞いて「会社員なのに失業者? 何のこっちゃ?」と疑問に思う方もいると思います。なのでまず、簡単に説明しましょう。

“社内失業”とは会社内にいながらにして仕事を失うこと。つまり“社内失業者”とは、企業に雇用され、出勤していながら職務に従事していないサラリーマンのことをいいます。

「聞いたことないな。少なくとも俺の部下にはそんな奴はいないな。ていうか、ごく一部のダメな社員がサボってるか、干されてるだけの話だろ?」
そう思われた方もいるでしょう。しかし待ってください。それは誤った認識です。

“社内失業”は、“希望・早期退職” “派遣切り” “雇い止め” “内定取消し”など長引く不況の中で語られてきた様々な労働問題に負けない、いやそれどころか最後に登場した非常に重要なキーワードであり、これらの問題とも深い関わりを持っています。

なぜでしょうか。

まず一つ目に、“社内失業”が20代〜30代前半の若手正社員を直撃している点です。彼らは入社後まともな人材教育を受けられずに社内失業者化したため、仕事がない→仕事ができない→仕事がないのスパイラルに陥っています。

仕事ができないため出世もできず、賃金も低いまま。仕事がないので社内外の人脈もつくれずに孤立し、業績もつくれないので転職もままならない。これまで見られたようなお気楽“窓際族”とは全く違う、未来も希望もない、八方塞がり正社員若年層が“社内失業者”なのです。

そして二つ目に、企業が手をつけていない最後の労働問題であるという点です。企業はいままで、“希望退職”で年収が高い中高年をリストラし、“派遣切り” “派遣切り”で非正規労働者を退場させてきました。そして“内定取り消し”及び“採用数の大幅減”によって、今後入社する正社員を制限しています。

それでも、まだまだ足りない。社内には人が余っている。そのあらわれが社内失業なのです。つまりこの問題がさらに深刻化すれば、多くの若者が職を失うことになる。つまり社内失業は、一部の若手正社員がどんどん追い詰められている現状を示しているのです。いままで、正社員といえば極めて安泰な地位であると考えられてきました。実際そうだったのかもしれません。

しかし社内失業が表しているのは、正社員になれても未来がない、将来が見えない若者の存在です。今の会社にいても出世できず、賃金も低空飛行。一念発起し転職しようにもまともな業務履歴がない。あきらめて会社に留まろうとも、待つのは企業の倒産か整理解雇……。そこに見えてくるのは、正社員になった若者がどんどん八方塞がりになっていく現実と言えるでしょう。

そうは言っても、あまり実感がわかないかもしれません。「ごく一部の問題ではないか? 少なくとも自分の部下にはいないな」と思われるでしょう。ですので、ここで面白いデータをご紹介します。近年社内失業者は爆発的な勢いで増えているのです。

・社内失業という現象
2009年度の経済財政白書によると、企業内で余剰人員となっている社内失業者の数は、1~3月期で、なんと607万人にのぼると記されています。「へ〜。そうなんだ〜」と軽い感想をもったあなた。これ、とんでもない数字ということにお気づきでしょうか。

日本の労働人口はおおよそ6000万人。その内自営業者が10数%公務員が7〜8%言われていますので、残りのおおよそ4500万人がサラリーマンです。だとすると、サラリーマンのなんと13%が社内失業に追いやられていることになります。つまり、10人程度の部署ならば1〜2人、1万人規模の会社ならば、なんと1300人前後の社内失業者を抱えているということになります。

しかも、これだけではありません。前年度の2008年度と比較してみましょう。2008年度の1〜3月期では、企業内の余剰人員は推計でなんと38万人しかいません。2009年度の607万人と比べて、たったの一年で569万人の社内失業者が生まれたことになります。実に約16倍に膨れ上がった計算です。

社内失業者がいかに急激に、しかも大量に生まれたかということが、お分かりいただけたでしょうか。社内失業者は決して特別な存在ではありません。あなたの周りにもごくあたりまえに存在する人たちなのです。たったの一年で569万人もの“社内失業者”が生まれ、その数は日本のサラリーマンの13%に及ぶ。この数値は公表されてはいるものの、メディア等で大きく取り上げられたり、表立って問題視されているとは言い難いのが現状です。

しかしこれだけ大勢いれば、通勤電車に石を投げれば社内失業者に当たると言っても過言ではありません。あなたの身近にだって確実に1人や2人は存在するでしょう。

それでもあなたは、「うちの部下に限ってそんな奴いないよ」と言い切れますか? 「そういえば、最近仕事の相談をされなくなったな」「ふらっと外に出てるけど、何をしてるのか把握してないな」ということがないでしょうか。「実は仕事する振りをしながら、ずっとネットばかり見ている」なんてことはないでしょうか?

・“窓際族”との違い
社内失業者と聞いて、「窓際族とどう違うの? ずっと昔から、同じような人はいたじゃないか」と連想される方もおられるでしょう。しかし従来の“窓際族”と“社内失業者”は似て非なるものです。

窓際族と聞くと、大抵はこのような人物を思い浮かべるのではないでしょうか。出社したら、まず新聞に目を通す(しかもスミからスミまでじっくりと)。お昼の休憩時間はしっかりとり、帰ってきたらのんびりお昼寝。まわりの女子社員と楽しく談笑して、定時になったら忙しい部下を尻目に「お先に〜」と帰宅してしまう。これまで、閑職に回された“窓際族”は、このような定年目前のお気楽サラリーマンというイメージで語られてきました。従来の“窓際族”は、年功序列に伴なうポストの不足により生まれました。

出世レースに敗れたサラリーマンの受け皿となる、実質的な仕事のない“名ばかり役職”であって、定年間近のサラリーマンがなるものでした。彼らは年功序列によりある程度の地位に付いている場合が多く、賃金は決して低くありません。しかも、あと数年したら定年で年金生活が待っている。

確かに社内の評価は低く、仕事のやりがいもやる気もありませんが、その代わり精神的にも、お金にも余裕がある中高年。それが従来の窓際族だったと言えるでしょう。未来もない、将来も見えない、現代の“社内失業者”とは全く異なる存在なのです。

・社内失業者急増の背景
2008年〜2009年で急増した社内失業者たち。そう、たった1年の間に。この間に、一体何が起きたのでしょうか。聡明(そうめい)なあなたであれば、「リーマン・ショックの影響だ」と答えるでしょうか。しかしそれは、きっかけの1つでしかありません。引き金は10年前に引かれていたのです。


「主な上場企業の希望・早期退職者募集実地企業数推移」動向リサーチ 『BK ビジネス香川』より引用
http://bn.bk-web.jp/2009/03/trend.php

日本が“失われた10年”と呼ばれる不況に突入したのは、バブル崩壊後の1991年。2002年1月に底を打ったとされますが、その頃企業が我先にと導入した制度がありました。“希望・早期退職制度”です。

これは人件費の高い40〜50代社員に対し、通常より高い退職金などの優遇措置を取る代わりとして早期退職してもらう、という制度です。“希望・早期退職制度”は2002年度に実施した企業が最も多く、上場企業だけで見ても200社、3万9732人が募集されました。おおよそ10年間で数十万人がこの制度を利用するなどして、早期退職したものと見られています。

この効果で不景気を脱した企業も数多くありました。しかし、一時的な人件費の削減にはなったものの、この制度が招いた弊害は大きかったのです。なぜなら、40〜50代社員は企業内でも経験、実績共に豊富な“脂ののった”世代。しかも募集に応募したのは、早期退職しても転職先に困らない、優秀な社員ばかりでした。

多くの企業は、最悪の状態は脱したものの業績維持に必死。徐々に後進の育成にまで力を回せなくなっていきました。そこを襲ったのが2008年のリーマン・ショックです。

「就職(内定)率の推移(大学)」『社会実情データ図録』より引用
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3160.html

厚生労働省と文部科学省が発表した“大学等卒業予定者の就職内定状況調査”の「就職(内定)率の推移(大学)」のグラフを見てみます。各新聞でも話題になりましたが、2009年から2010年にかけて、10月時点、12月時点は前年比7.4ポイントの下落、2月時点は前年比6.8ポイントの下落、下げ幅でいえば過去最高のポイントをたたき出してしまいました。

これはそれだけ景気後退が急速だったことを意味していますが、この大きな下げ幅こそが、社内失業者を大量に生んだ原因をよく表しているのです。

なぜなら、リーマン・ショックが起きたのは、2009年卒に内定を出した直後の2008年9月。つまり、翌年には景気が大幅後退するとも知らずに大量採用してしまったのです。彼らに割り振られるはずだった仕事が急速に失われ、再び社内は“人あまり”になってしまいました。

しかし“失われた10年”の人あまりとはワケが違います。40代、50代の経験豊富な社員を切ってしまいましたから、今度あまったのはトレーニングされていない若い世代ばかり。

こうして企業は、クビにできない若い正社員を大量に抱えることになりました。これが今の社内失業問題の要因となっていったのです。

・社内失業者の年代・属性
社内失業者に多く含まれるのは、前出のようにトレーニングされない状態で不景気を迎え、社内での仕事を失ってしまった20代から30代前半の正社員です。特に売り手市場だった2006年〜2008年に就職した若手が多く含まれています。

前項では新卒のみ見ていただきましたが、社内失業者にはもちろん第二新卒組・転職組も含まれます。

「転職組はトレーニングされる必要がないのでは?」と思われるかもしれませんが、それは勘違いです。実は転職の50%以上は、異業種への移動なのです。同業種・同業務ならばトレーニングの必要はないかもしれませんが、異業種への転職ならば当然、再トレーニングは不可欠でしょう。

特に中途採用は“即戦力”として考えられる傾向が強く、異業種からの転職であっても基礎的なトレーニングさえ受けられない場合があります。完全に放置されたり、自力でなんとかしなければいけない場合が多いのです。つまりそれだけ、社内失業者化してしまう可能性も高いと言えるでしょう。

・社内失業者の生きづらさ
これまで見てきたように、社内失業者たちは未来もない、将来も見えない状態で社内に留まっています。以下で問題点を挙げてみましょう。

(1)経験・ノウハウが身につかないことによる弊害
若年のころから業務が与えられない、もしくは与えられても誰にでもできるような雑務であるため、仕事経験やノウハウを積むことができません。このことで、出世やスキルアップなど将来への展望が描きにくくなります。

経験・ノウハウが身につかないことは、賃金の低どまりに強く影響します。当然残業代等も支給されないため、ほぼ基本給だけで生活することになり生活は苦しくなる傾向もあるようです。

「仕事がないなら転職すれば」と思われるかもしれませんが、実はそれも難しいのです。転職で問われるのは業務内容であり、業務が与えられない社内失業者は面接を突破できないためです。また30才を過ぎると転職そのものが難しくなります。

(2)孤立化
業務そのものがほとんどないので、取引先等との名刺交換さえ難しいのが現状です。それどころか社内でも同僚と接する機会をどんどん奪われ、社内人脈を作ることさえままならない状態に。社内で孤立し居場所を失い、さらに社内失業が深刻化するというスパイラルにはまってしまうこともあります。

(3)倒産、整理解雇リスクが高い
「現状維持しながら転機を待とう」と思ったとしても、その先行きは明るいものではありません。そもそも自らが所属している企業が売上に見合わない人件費を抱えているため、会社そのものが倒産してしまうことすらあります。スキルが低いため、整理解雇時に選別されやすい人たちでもあります。

確かに、待遇的には派遣社員や、実際に解雇された人よりもずっと良いかもしれません。明日にでも食べるものに困る状況ではないからです。

しかし考えていただきたいのです。中には自由にウェブサーフィンできないパソコンをあてがわれたり、自由に離席さえできない環境に置かれている社内失業者もいます。8時間、何もせずに座っていなければいけない人の辛さはどれほどでしょうか。「自分は会社に不要な存在なのだ」「どうせ転職などできるはずもない」「将来どうすればいいのだろう」とぐるぐる自問しながら……。

「若いヤツは自分に甘い。やる気の問題だ」
「仕事せずに給料だけもらってる低能力な社員」
「仕事は与えられるものじゃなく、自分で探すものだ。それが分かってない」

社内失業の問題は、彼らの自己責任と言えるでしょうか? もちろん現状に甘んじ「仕事が面倒だから今のままでいいや」と会社に寄生し時間を潰す社内失業者もいるでしょう。しかし大半は、希望を持って入社したやる気あるサラリーマンだったはずです。“社内失業”は甘えだとか、サボリだとかいう個人の資質によるものではありません。社内失業は日本社会が生み出した、社会問題なのです。

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著作『社内失業 企業に捨てられた正社員』 双葉新書
http://www.amazon.co.jp/dp/4575153613
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執筆: この記事はますだ・ふみおさんのブログ『社内失業と呼ばれて』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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