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漫画『ちいさこべえ』望月ミネタロウ先生インタビュー「山本周五郎作品には時代を超えるメッセージがある」

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1985年に『週刊ヤングマガジン』にてデビュー後、『バタアシ金魚』『ドラゴンヘッド』『座敷女』等、センセーショナルな作品を次々生み出してきた漫画家・望月ミネタロウ。映画、ドラマなど映像化作品も多く、カルト的な人気を誇っています。

望月先生の最新作であり、先日『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて連載が終了した『ちいさこべえ』は山本周五郎の小説「ちいさこべ」を現代にアレンジし、コミカライズしたもの。火事で両親と家を無くしながら、「人情と意地」を大切にする主人公が、身寄りの無い人々や子供達と片寄せあっていきるという、あたたかな物語です。

今回は望月ミネタロウ先生にインタビュー。『ちいさこべえ』の企画から、連載が終了して思うこと、今後の目標など色々とお話をうかがってきました。


――『ちいさこべえ』の連載が無事に終了という事で、お疲れさまでした。本作は山本周五郎の小説をコミカライズした作品ですが、企画自体はどういった事からスタートしたのでしょうか?

望月ミネタロウ:元々原作付きの作品をやってみたかったんですね。

――原作物を描いてみたかった理由は?

望月ミネタロウ:これまで、僕は自分の仕事ってスタンド・アローンだと思ってやってきたんですが、例えば、新しい作品を描こうとした時に僕という人間がもう一人いても上手くいくワケでは無くて。能力は一緒だから、自分だけだと限界があるなと感じたんですね。そんな時、他の誰かの原作に取り組めば何か新しい世界が開けたり、刺激があるのでは無いかと。

――それで出会ったのが「ちいさこべ」だったと。

望月ミネタロウ:編集さんにいくつかリクエストをして、漫画の原作になる作品を探していただいたんです。そのリクエストというのは「和風・職人物・人情・家族」で、この「ちいさこべ」を持ってきてくださって。山本周五郎先生の作品って、映像化された「赤ひげ」とかいくつか代表的な作品に触れたことがある程度だったんですが、「ちいさこべ」は僕の求めている物にピッタリだった。

――原作の小説は時代物で、漫画は現代が舞台となっていますが、そうした意図はどんな所にありますか?

望月ミネタロウ:最初は原作のまま時代物で描いてみたんですが、理由は上手く言えないんですがしっくりきませんでした。それで色々パターンを描いた中で、現代を舞台にした物が一番しっくりきたんです。時代物ってどこかファンタジーで、この物語をリアルに感じてもらう為に現代が背景の方が合うと思ったんです。

漫画って生ものだから世の中の動きが強く影響すると思うんです。『ちいさこべえ』の連載は2012年からスタートしましたが、震災もあり、人と人とのつながりを心のどこかで僕自身感じていて、この作品を描くことに繋がったんだと思います。

――時代を変える事で苦労は無かったですか?

望月ミネタロウ:あまりありませんでしたね。山本周五郎先生の作品というのは普遍的で、時代が変わっても人々に響くメッセージを持っていると思います。

――確かに、どの時代、どの世代にもじーんとくるお話と言いましょうか。始める前に原作のファンが面倒とか、そういう思いは無かった?

望月ミネタロウ:そうですね。山本周五郎先生という偉大な文豪の原作ではありましたが、何とかなるだろうと思いました。その理由として、まず読んだ時に情景が頭にどんどん浮かんできたんです。

――すぐに絵が浮かんできたというか、物語を作る上でそれほど苦労はされなかったということですね。

望月ミネタロウ:そうですね。連載をスタートした時から決めていたのは、登場人物が実際に存在して、ちゃんと生活している様が伝わるような細かな描写を大切にしようという事でした。例えば、主人公がどんな靴を履いているだとか、朝は何時くらいに起きてどんな物を食べているのだとか。そうした物語の本筋とは直接関係無い部分の描写も丁寧にやろうと思っていて、結果、自分が納得する形まで描くことが出来たと思っています。そんな細かな部分を、この作品を読んでくれた方が気付いてくれて「あのシーンが良かった」と言ってくれる。それが一番面白かったし、嬉しかった。これからもそんな形で読んでいただけたら嬉しいです。

――例えば、登場人物のお弁当がとてもきちんと丁寧に作られていて、そこから暮らしぶりを想像するといった様な。

望月ミネタロウ:はい。どうしてお弁当がそんなにキレイに作られているのか、どんな気持ちで作ったのかとか、そういう所を想像しながら読んでいただけたら本当に嬉しいです。この漫画は淡々としていて、決して派手な作品ではありませんが、そうした細部にこだわりました。無事に連載を終えて、これから最終巻も出ますので、多くの人に読んでいただけたらと思います。

――そんな望月先生の原作へのリスペクトと、描写の力が評価されて、2013年には「第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」を受賞していますね。

望月ミネタロウ:賞をいただいた時に、鎌倉霊園にある周五郎先生のお墓に行ったんですよ。周五郎先生って、これまで色々な賞をほとんど辞退されてきた方なんですけど、「僕はもらっちゃいますよ」とご報告をしました。その日が、青空が美しくて、海からいい風が吹いてきて、とても気持ちの良い日だったんです。だから、なんとなく周五郎先生も受け入れてくれるんじゃないかなって思ったり……ちょっとスピリチュアルっぽいですかね、この話(笑)。先日連載が無事終了した時にもお墓に行って、そうしたらその日がたまたま命日だったんです。

――それは! 運命を感じざるを得ませんね。望月先生は連載が終わった時は「終わった!」と爽快な気持ちになるのか、解放された気持ちになるのか、どの様な感情を抱く事が多いですか?

望月ミネタロウ:『ちいさこべえ』に関しては寂しかったですね。キャラクターに対して思い入れがあったので、別れるのが寂しいというか。連載中もとても楽しかったし、新しいチャレンジも出来ました。職人物を描きたいという願いも叶ったわけですからね。

――そこまで、望月先生が“職人物”に惹かれた理由は何ですか?

望月ミネタロウ:ドキュメンタリーなどで、色々な職人の仕事風景や所作を観るのが元々好きだったというのはありますね。医者なら患者を救う、料理人なら美味しい料理を作るというハッキリとした目的がありますけど、漫画家ってそういうハッキリしたものが無いと僕は感じる時がある。極論を言うとあっても無くても良い職業じゃないかと。だからこそ、職人という生き方に惹かれるのかもしれません。

――私達からすると、読み手に作品を届ける漫画家さんもすごく職人的な職業だと思うんですが、ご本人は違うのですね。

望月ミネタロウ:そうですね、そう思えないんでしょうね。少なくとも漫画は小学校時代の僕にとっては一番必要な物でしたが、自分が漫画家として何を作るかという話になると何か違う物を感じるんですよね。今回の作品を作るにあたって、大工さんの現場を取材させていただきましたが、仕事をしている姿がめちゃめちゃかっこいいんですよ。普通のおじさんで、ジャージを着ているのに(笑)。それは、良い家を作る為に頑張るというハッキリとした意志と目的があるからかっこいいんじゃないかと思うんですが、ただ「この仕事しか出来ない」という事が職人気質であるとしたら、僕にもそういう所があるかもしれません。

――『ちいさこべえ』を描いた事によって、今後の作品作りに刺激を受けたという事もあるのでしょうか?

望月ミネタロウ:今回、自分にとって初の原作付きで大きなチャレンジだったけれど、挑戦出来たこと自体も、それによって出来た経験も、とても楽しかったです。何度も言いますが、本当に楽しかった。次回作も粛々と進めていうと思います。原作付きをやるかどうかは分かりませんが、この作品で得た物やこうしてお話をしていて感じた事だったり、人と出会っての化学反応を大切にしていきたいと思います。これまでほとんどこうしたインタビューや取材を受けた事は無かったのですが、いい勉強になりました。

――こうして取材を受ける事も創作活動の一種というか。

望月ミネタロウ:今まであまり人に会ってこなかった分、緊張しますが(笑)、新鮮ではあります。これまで作品を作るときに何か一つ苦手なものを入れてきました。インタビューも苦手なものの一つですが(笑)、自分一人じゃ思いつかない事にたどり着くきっかけになるといいなと思います。

――今度も先生の作品とても楽しみにしております。またぜひお話を伺わせてください。今日はありがとうございました!

撮影:wosa
撮影協力:la kagu
http://www.lakagu.com

望月ミネタロウプロフィール


1964年生まれ、神奈川県出身。『ちいさこべえ』(原作・山本周五郎『ちいさこべ』)で第17回文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞(2014年)。単行本、第4集(完結)が3月末に発売予定。『ドラゴンヘッド』で第21回講談社漫画賞(1997年)、第4回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞(2000年)を受賞。他の作品に『バタアシ金魚』『バイクメ~ン』『座敷女』『鮫肌男と桃尻女』『東京怪童』など。

書籍&イベント情報

ちいさこべえ | 小学館
http://www.shogakukan.co.jp/comics/detail/_isbn_9784091851093

文豪ナイト<第二夜:山本周五郎> 
望月ミネタロウ×松浦弥太郎「時代ってなんだ。何も変わってねぇ。ヤマシュウ先生、そうでしょう?」
漫画『ちいさこべえ』完結記念イベント

日時:2015年4月2日 (木) 19:00〜20:30
場所:la kagu(東京都新宿区矢来町67)
登壇者:望月ミネタロウ、松浦弥太郎

http://peatix.com/event/76836 [リンク]

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記者:

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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