“吃音(きつおん)ドクター”が明かす、映画『英国王のスピーチ』から学べること

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“吃音(きつおん)ドクター”が明かす、映画『英国王のスピーチ』から学べること

 イギリス王室のウィリアム王子とキャサリン妃の長男の名前はジョージ。すでに、その愛くるしさでイギリス国民から愛されていますが、英王室では、過去に同じジョージという名前を持つ国王が6人もいたのをご存知でしょうか? 

 その1人が、エリザベス女王の父であり、ウィリアム王子の曽祖父にあたるジョージ6世。映画『英国王のスピーチ(原題:The King’s Speech)』の主人公の王様です。同作は、2011年のアカデミー賞で作品賞を受賞した作品なので、ご覧になった方も多いでしょう。

 映画の中でも描かれている通り、ジョージ6世は、人前で話すときに言葉を上手く出せなう「吃音(きつおん)」に悩んでいました。同作では、第二次世界大戦に直面し、国王としてのスピーチに迫られたジョージ6世が、言語療法士のライオネル・ローグと出会い、吃音が改善していく様子を丁寧に描いています。

 同作で描かれる療法には、まったく根拠がないことではなく、吃音の専門医・菊池良和さんも、本書『吃音のリスクマネジメント:備えあれば憂いなし』のなかで、「吃音者の誤解や悩み、不思議なメカニズムを非常によく記された名作です」と評価。菊池さんも診察の際には、同作に言及し「吃音は、『恥ずかしいこと、隠すべきもの』と思い込んできた親や本人にとって、『昔のイギリスの王様も吃音なんですよ』と説明すると、親御さん、本人の笑顔が少し出てきます」(本書より)と明かしています。

 吃音は世界中で同じ割合で発症し、実に100人に1人いるとも言われます。現代でも原因は特定されておらず、治療法も確立されていません。一般に、吃音の悩みと言えば、ジョージ6世のように、人前でスピーチをするときにうまく話せず、冷や汗をかいてしまう…という状況を思い浮かべる方がほとんどでしょう。

 そういった場面に遭遇すると、親や先生は、良かれと思って「もう一度言ってごらん」「ゆっくり話しなさい」「深呼吸して、落ち着いて」などと言ってしまいがちですが、これらの言葉は禁忌発言。効果がないだけでなく、本人の「今のあるがままの姿」を否定し、話す意欲まで低下させてしまうので、表面的なことに注目するよりも、本人が話す内容や意欲を伸ばすことが有効だと述べています。

 また、スピーチに限らず、日常生活でも困る場面はたくさんあります。たとえば、吃音に悩む31歳の女性は、本当はお店で「アイスコーヒー」を飲みたかったのに、「ア」という発音が難しいため、つい「ホットコーヒー」を注文してしまうと言います。吃音を隠すために、自分が食べたい料理ではなく、「言える」メニューを注文する状況、つまり、吃音に人生を左右され、生活の質が低下している状態にあるのです。

 菊池さんは、「吃音を隠す工夫も吃音なのだから、自分を変えたいのならば、ことばの言い換える癖からやめて、自分のことばでしゃべりましょう(発話意欲)。そして、自分の行きたい場所に行き(行動欲)、食べたいものを食べましょう(食欲)」(本書より)と説明しています。

 実は、菊池さん自身が吃音当事者で「吃音の悩みから解放されるには、医師になるしかない」と決意し、猛勉強の末に医師になった人物でもあります。その半生は『ボクは吃音ドクターです。』(毎日新聞社刊)として出版され、大きな感動を呼びました。当事者でもあり支援者でもある菊池さんが綴る本書は、吃音に悩む人の不安はもちろんですが、親や先生など支援者の悩みに応える一冊となっています。

【関連リンク】
NPO法人 全国言友会連絡協議会
http://zengenren.org/

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