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日米の人気作家が語る「正しい本の読み方」

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 2008年にピューリッツァー賞を受賞した『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』などで知られる米作家のジュノ・ディアズさんと、芥川賞作家の円城塔さんによるトークイベント(新潮社/主催)が、3月3日、翻訳家の都甲幸治氏をモデレーターに東京・神楽坂の「la kagu」で行われた。

 日米文学界の先端を行く二人の共演とあって、前売り券は売り切れ(この種類のイベントではとても珍しい)、会場には多くの文学ファンが詰めかけた。

 冒頭の話題はディアズさんの最新短編「モンストロ」について。
 実は「モンストロ」は短編として発表されていながらも、次回長編の一部でもあるということで先の展開が注目されるが、ディアズさんは「まだそこまで書きすすめたわけではない」としながらも、「疫病などがそうだが“何かが蔓延していくこと”を表現するナレーティブ(語り)は、科学が物凄いスピードで発展しているのと対照的に17世紀からまったく進化していない。そこに興味を持った」と、長編小説で取り組んでいることを少しだけ明かした。
 
 しかし、この回答は少し唐突だ。都甲さんが「なぜ疫病に興味があるのか?」と掘り下げると、ディアズさんは「それは自分が移民だから」とドミニカ系アメリカ人である自身の出自を挙げ、「ドミニカ共和国もアメリカも日本も同じだが、“移民=侵攻してくる病気”という捉え方をされることがある。一つのメタファーではあるのだが、社会的にそういう見方がある」と話した。

 この日のテーマは「未来と文学」。
 ディアズさんはかねてから円城さんの作品から「未来へのつよいこだわり」を感じていたようだ。これは、円城さんの書く小説のジャンル(ディアズさんは「サイファイ」と表現)に「未来」はつきもの、ということなのか?それとも円城さんが個人的に「未来」に特別なこだわりを持っているのか?という質問を投げかけると、円城さんは「僕は未来への展望が比較的暗い」としたうえで、「もっと良くする方法があるんじゃないか、という気持ちが大きい。まだ書かれていないことがどこかにあって、それは新しい書き方を見つけないと書くことができない。それを見つけて書くことができれば、未来の何かがよくなるだろうと思っている」と、自身の創作の根底にある思いを明かした。

 ところで、ディアズさんといえば、作家として活動しながら、MIT(マサチューセッツ工科大学)の教授として、創作の講座を担当していることでも知られる。それもあってか、話題は自身が受け持っている学生の話にも及んだ。
 「ほとんど例外なく、どの学生も“自分の存在意義を見つけなさい”という、社会の側からのプレッシャーにさらされている」として、「最終的にはお金持ちで有名にならないといけない」というアメリカ社会の価値観が、学生にとっての重圧になってしまっていること、そしてその重圧が、学生を「本を読む楽しみ」から遠ざけてしまっていることを指摘すると、円城さんも同調。「僕は読者の方に“すいません、わかりませんでした”と謝られることが多いんですけど、本はそんな風に読むものじゃない。おもしろいかそうじゃないか、ということでいいはず」と述べ、「書いている方のこちらとしては、笑ってくれればいい、楽しんでくれればいいと思って書いているんですから」と、「本=理解しなければいけないもの」という固定観念に懸念を示した。

 この他にも、自作の新しい漢字(!)が使われているという円城さんの新作小説について、影響を受けた作家、小説家にとっての「知性」と「感情」のバランスについてなど、トークは盛りだくさん。その後のサイン会では、行列が当初予想していたスペースに入りきらなくなるなど、かつて見たことがないほど、終始盛況なイベントだった。
(新刊JP編集部)


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