高速炉『もんじゅ』に出た“生殺し”死亡宣告

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Blog vs. Media 時評

今回は団藤保晴さんのブログ『Blog vs. Media 時評』からご寄稿いただきました。

高速炉『もんじゅ』に出た“生殺し”死亡宣告
福井県にある高速増殖原型炉『もんじゅ』(以下、『もんじゅ』)で原子炉内に落下してしまった炉内中継装置(直径46cm、長さ12m、重さ3.3トン)を引き抜く作業が13日、失敗に終わりました。毎日新聞が「『もんじゅ』:誤落下、中継装置抜けず 運転休止長期化も」*1 と伝えましたが、技術的常識に従えば本格運転も廃炉措置もできない袋小路に追い込まれたと言えます。“生殺し”死亡宣告がだされたのです。

*1:「『もんじゅ』:誤落下、中継装置抜けず 運転休止長期化も」 2010年10月14日 毎日新聞(毎日.jp)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20101014ddm041040103000c.html

炉内中継装置は「2本の筒を8本のピンで上下に接合した構造で、下から約5メートルの部分に接合部がある。この接合部あたりで抜けなくなっている」「引き上げ作業では、設計上の限界4.8トンまで引く力を段階的にかけて24回試したが、抜けなかった。『もんじゅ』は構造上、装置を引き抜かなければ原子炉の運転ができない。現状では接合部が原子炉容器内部にあり、アルゴンガスやナトリウムで覆われているため、目視で調べることができない」

10月1日に日本原子力研究開発機構から出された中間報告で「落下による影響はない」としたばかりでした。15日に開かれた県原子力環境安全管理協議会で、「委員の“炉内の傷の有無はどう確認するのか”との質問に、『もんじゅ』の向和夫所長は“物理的に装置は真っすぐ落ちており、炉内や燃料にぶつからない”と強調した」 *2 のですが、落下した装置側に変形がある以上、ぶつかった先の炉内が無傷と考えるのは工学的に非常識です。

*2:「『もんじゅ』、国の管理不備指摘 県安管協、炉内装置落下で」 2010年10月16日 福井新聞
http://www.fukuishimbun.co.jp/modules/news0/24241_34.html

読売新聞が「『もんじゅ』炉内装置落下 長期化恐れ/原因究明を 福井大・竹田所長に聞く」で今後の対処法を聞いています。「最終的には原子炉容器の上ぶたをはずさないと、装置を取り出せないかも。しかし、冷却材用のナトリウムが空気と反応して燃えないよう、容器内にはアルゴンガスを満たしており、簡単にはふたをはずせない。装置を壊して取り出すなどの方法を考えた方がいい」

「装置を壊して取り出す」とまで言い出す点に、専門家がいかに困惑しているのかが現れています。原子炉容器の上ぶたをはずすにも、この炉内中継装置が健全である必要があります。なぜなら上ぶたをはずすとアルゴンガスが抜けて空気と触れた液体ナトリウムが激しく反応して燃え出しますから、まずナトリウムを抜いて置かねばなりません。冷却材のナトリウムを抜く前には、炉心から燃料棒を全て引き抜く必要があり、燃料棒を炉外に出す装置がこの炉内中継装置なのです。第215回「『もんじゅ』の炉心用装置落下、死んだも同然に」*3 に引用した図「原子炉内での燃料交換と移送」をご覧いただけば分かりますが、炉内中継装置は燃料移送の要の位置にあります。

*3: 「第215回「『もんじゅ』の炉心用装置落下、死んだも同然に」2010年08月28日 『団藤保晴のインターネットで読み解く!』
http://dandoweb.com/backno/20100828.htm

では原子炉容器の上ぶたを開けるのを避けて、装置を壊せるのかです。日本原子力研究開発機構が公表している図によると、厚さが3.695メートルもある上ぶたの穴に炉内中継装置がはまっています。

高速炉『もんじゅ』に出た“生殺し”死亡宣告

「高速増殖原型炉『もんじゅ』炉内中継装置の取りはずし作業中の落下について 第4回『もんじゅ』総合対策会議での説明資料 」5ページから引用。日本原子力研究開発機構 ※Adobe Acrobat Readerが必要です
http://www.jaea.go.jp/04/turuga/jturuga/press/2010/09/p100907.pdf

直径46cmのパイプ状ですから、内部に何らかの切断機械を押し込んで壊すだけなら可能でしょう。しかし、パイプの下は原子炉内ですから、大きな破片はもちろん小さな切削片すら落とすことは許されません。不透明なナトリウム液中で回収は不可能で、本格運転した際に物理的な損傷や炉心中性子分布の異常を引き起こします。滅茶苦茶に厳しい条件で、現状では壊して引き上げる方法を知りません。ロボット装置のようなものを研究開発すれば何年もかかるでしょうし、できない可能性が高いと思います。

運転も廃炉もできない“生殺し”を避けるわずかなチャンスが残っています。健全でないと判っている炉内中継装置、その下の炉内にも何かの異常があることに目をつぶって燃料棒を炉外搬出するのに使ってしまうのです。もし全て搬出できればナトリウムを抜いて作業ができます。しかし、燃料搬出の途中で止まりでもしたら、旧ソ連チェルノブイリ原発のような“永遠のお荷物”が出現します。

【参照】第187回「信頼性なし、『もんじゅ』運転再開は愚の骨頂」 『団藤保晴のインターネットで読み解く!』
http://dandoweb.com/backno/20091007.htm

執筆: この記事は団藤保晴さんのブログ『Blog vs. Media 時評』からご寄稿いただきました。


●関連議論
もんじゅは今、どうなっているか(河野太郎氏,2011年3月29日) – ガジェット通信
https://getnews.jp/archives/107555

文責: ガジェット通信

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