日本ではベイマックスは生まれなかった? コヤマシゲト インタビュー

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日本ではベイマックスは生まれなかった? コヤマシゲト インタビュー

2014年12月から全国上映されているディズニー最新作『ベイマックス』(原題『BIG HERO 6』)。1月4日には、観客動員数は326万人、さらに興行収入は41億4533万9200円を突破。興行16日間での40億円突破は、『アナと雪の女王』に続く、ディズニー・アニメーション史上歴代2位となる。

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制作に際して日本各地でリサーチを重ねられ、日本愛にあふれるディズニー作品としても注目を集めている本作において、ケアロボットとして登場するベイマックスのコンセプトデザインを、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズや『キルラキル』、『ガンダム Gのレコンギスタ』で活躍している日本人デザイナーのコヤマシゲトさんが手がけている。

今回、編集部にコヤマさんインタビューが届いたため、コンセプト画の一部と共に掲載。『ベイマックス』参加の経緯から、共同制作を通じて感じたアメリカと日本のアニメーション制作の違いとは──?

「ベイマックスのデザインを考えてくれ」

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──『ベイマックス』に携わった経緯はどのようなものだったのでしょうか?

コヤマ 僕は、2011年に公開されたドン・ホール監督の『クマのプーさん』のアニメーションを観て、すごく面白い作品だなと思っていました。ちょうどその時に、ドン監督たちが『ベイマックス』のリサーチのために来日したんですよね。しかも、偶然、リサーチ・トリップのアテンドを手伝っていたのが僕の友人の翻訳家の方だったんです。

その方から「プーさんの監督が来日してるので、みんなでご飯食べましょう」というお話をいただいて、僕としては『クマのプーさん』に対する気持ちを伝えたいという一心もあり(笑)、ディズニー・スタジオの皆さんと食事をする機会をいただいたんです。

その日ドン監督は秋葉原で(資料の)フィギュアをたくさん買ってきたそうで、「なにか面白い物あった?」と聞いたら、「見たことない変なロボットがあった」と。「それは何?」と聞いたら、「『HEROMAN』っていうアニメのフィギュア」だということでぼくもビックリして(笑)。

「それはぼくがデザインしたんだよ」と話したら、向こうもビックリして「じゃあ何か手伝ってよ!」と言われて、「もちろん手伝うよ!」と即答しました。

何といってもディズニーは、世界的に歴史もある大きなスタジオなので、最初は社交辞令なのかな……と思っていたんですが、後日ちゃんと契約のお話をいただき、参加することになりました。

その翌月の2011年末から、コンセプトデザイン画を描き始め、打ち合わせなどは年が明けてからスカイプでやり始めていった、という感じですね。

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──デザインの段階でストーリーはおわかりでしたか?

コヤマ 僕が関わった段階では、(コンセプトアートを担当した)上杉(忠弘)さんが描かれていた「サンフランソウキョウ」という架空都市のイメージボード・イメージイラストだけがあったような段階で。

ドン監督からは、他のキャラクターは他の人で手分けしてやっているけれど、ベイマックスだけが出来ていないので「シゲはとにかくベイマックスのデザインを考えてくれ」と言われ、とにかくアイディアを出してほしいということでした。

その段階ではある程度のストーリーは決まっていて、実は今のストーリーとはちょっとだけ違うんですが、ヒロという主人公が医療用の介護ロボットにアーマーを着せて、ヒーローになる、という部分は同じでした。

なので僕は他のキャラクターにはまったく触れていなくて、完全にベイマックス担当という感じで、その期間はベイマックスの絵だけをひたすら描いていました。

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──ベイマックスをデザインされる際に、参考にした日本のアニメやロボットはありますか? その時にディズニーから何か指摘や要望はありましたか?

コヤマ 日本の作品で参考にしたものは、特にはないです。監督も「ベイマックスは、俺とシゲの間で話したことを元に描いてほしい」ということでした。おそらく監督たちも、日本のロボットのかっこよさはほしいけど、でもアメリカの良さも入れたい、と思っていたはずなので、具体的な作品やキャラクターをモチーフとして入れたということはないですね。

ただ、初めの段階からあったのは、医療用のプニプニした白い素体であること、鈴の穴の形がすごく気にいったので鈴のモチーフをどこかに入れたい、という話でした。あとはロケットパンチを出したい、というのもありましたね(笑)。

ジョー・マテオというストーリー・アーティストがいて、ジョーさんはかなり日本のアニメや特撮が大好きで、監督とスカイプしていると、監督に対して横から「羽根……羽根!」と彼の求める声が聞こえてくるんです(笑)。彼は『マジンガーZ』とかも好きだから、ずっと「ロボットに羽根を着けたらクールだから羽根のアイデアも考えてほしい」と言ってました。だから“羽根”と“ロケットパンチを出す”というのは最初からありました。

ディズニースタッフは日本のロボット文化に精通している?

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──ディズニーやピクサーの方たちは日本のロボット文化というものに対してどんな感想を持っているんですか?

コヤマ ジブリ作品や長編映画など世界にも広く流通している作品とは別に、日本のテレビでしか放映されてないようなコアな作品群やロボットアニメなんかもディズニーやピクサーのスタッフはちゃんとチェックしていて、それもけっこう詳しいんです(笑)。

ストーリーというよりは、アメリカでは生まれないような面白いデザインであるとか、外連味や派手さといった、そういった部分に関してすごく反応している気がしますね。

当然、全員が全員というわけではないですが、日本の作品が好きな人なんかは「このロボットのデザインはここがポイントだ!」「あの作品のあのシーンの作画をしているこの◯◯というアニメーターがうまい!」みたいな。もちろん、絵の部分だけでなくストーリーについても辛辣な意見をもらったこともあります(笑)。そういう意味では、同じフィルムをつくる者同士としてとてもわかる話でしたね。

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──その中で日本からやってきたデザイナーとして、コヤマさんは皆さんからどのような印象を持たれていたでしょうか?

コヤマ ドン監督たちは全くぼくのことを知らなかったので、純粋にデザインだけをみて声をかけてくれました。出会った時は、プーさん好きのただの自称日本人デザイナーでしかなかったですからね(笑)。

ただ、絵描き同士なので、今までやってきた作品やデザインを見せればわかってくれるところはありました。そういう意味で難しいことは何もなかったですね。

スタッフたちもすごくフレンドリーでした。ディズニー・スタジオに行った際も、「シゲのデザインにものすごくインスパイアを受けたよ!」とか、「ディズニーで一緒に働こうよ!」とか(笑)、みんなが声をかけてくれたのは素直に嬉しかったですね。

日本人は文化背景も違うからデザインが変わって見える、というのも当然あると思うんですが、こちらも向こうが発想しないデザインラインを投げようとしているので、向こうとしてはびっくりしたところもあった、と言ってくれました。

完全な分業制が確立されたディズニーのアニメーション制作

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──『ベイマックス』に携わられた中で感じられた、日本とアメリカでのアニメ制作における違いはありますか?

コヤマ 分業であることは日本もアメリカも変わらないんですが、かなりの分業性が確立していると感じました。当然ディズニーという大きなスタジオでつくられる作品は予算も含めて大きなタイトルなので、簡単に表に出せないものも多く、情報の管理については日本よりもはるかにしっかりしていました。

僕はベイマックスのことだけ考えろと言われたわけですけど、本音を言えば、他のキャラクターとの並びやバランスも考えてデザインしたいわけですよ。でも他のキャラクターはむしろ見せてくれない。

彼らは「君はベイマックスのためにいるんだから、他のキャラクターとの並びは考えずに、純粋にベイマックスのことだけ考えてくれ」という考え方ですね。

と同時に、この方法によって外部に対して情報が変に漏れることはなく、ベイマックスをやってる人はベイマックス、ヒロをやってる人はヒロのことだけを純粋に考えていけるのだと思います。

例えば別の人が描いたベイマックスを見てから僕が描いていたら、どうしてもその人の絵に影響を受けた絵になってしまったりするんです。絵描きって他人の絵に(無意識に)引っ張られる習性があるので…。

もちろん、ディズニー・スタジオの中ではそれらの情報が共有されているのでしょうけど、なるべく個々が監督のディレクションに対して純粋に形にしていく、という目的においては、この方法は良い意味で機能していると思いました。

対して、日本ではシナリオからコンテ、デザイン画まで全部スタッフにばら撒くというか、全員で共有してつくっていくという感じがあるので、ここは大きな違いではありますね。

とはいえ、これに関しては、(アメリカのほうが)スタッフが圧倒的に多いので仕方ないと思います。

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日本ではベイマックスは生まれなかった?

──そういうスタイルでの仕事を通して、仕事のやり方において、コヤマさんが感化された部分や次の制作で生かしていける部分はありますか?

コヤマ つくり方の部分については、作品ごとに違うと思いますし、特にはないですね。

ただピクサーにしてもディズニーにしても、準備にかける時間って実際にはみんなが想像している以上にシビアにスケジュールが設定されているんですが、短い期間を有効に使うための、アイディアを出す時の幅の広げ方が、すごく大きいんですよね。

ちゃんと段取って海外に行って取材をするし、色のことは色を考える人を雇うし、3Dであればモデラーやアニメーターだけでなく、プログラマーも雇う……というように、大量のスタッフを抱えて、効率的に進めていきつつ、いろんな可能性を模索するんです。

もちろん、これも予算があるからこそ出来る制作方法ではあるのですが、絵だけを例えにとっても、漫画っぽい絵を描く人、もっとリアルな絵を描く人、古典的な絵を描く人、新しい絵柄で描く人、というのを世界中から一通り集めて揃えてみて、どの画柄が今回の作品にとってベストか、というのをちゃんと選び抜いているので、やっぱり最終的に完成したフィルムを観ると豊かだな、と思いますね。

初めから結論を見据えて収束させていくのではなく、色々な可能性を探った結果、着地点を定めて、一気につくる、というところにいくのはすごく贅沢というか潤沢なつくり方をしているなと思いました。そこはもう、今の日本の作り方との大きな差があるなと思いましたね。

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──では最後に、完成した『ベイマックス』をご覧になった感想はいかがでしたか?

コヤマ 素直に泣きました。理由として3つあるんですが、まずはストーリーやテーマがシンプルかつストレートな活劇であり、ぼくの大好きなヒーロー性──少年の成長譚という部分も、丁寧に内包されていたところです。

2つめは、伝統性の継承です。最近のディズニー作品、『シュガー・ラッシュ』や『クマのプーさん』、『アナと雪の女王』、『塔の上のラプンツェル』なんかもそうですが、昔からディズニーがずっと積み上げてきたクラシックな要素をちゃんと踏まえた上で、”今”のフィルムに仕上げていました。伝統に対する敬意を持って継承しつつ、新しいものを生み出していくという意志に、いたく感動しました。

そして3つめ。3年前にドン監督達と出会いましたが、この数年間、彼らは本当に大変だったと思うんです。向こうにも友達がいるので状況などを聞いていると、スタッフ達は相当に苦労しながらつくっていたようです。それが様々な障壁を越えて、最後まで結実し、長い期間を経て無事に作品として完成するところまでいったのです。実は、ディズニーでは完成しないまま流れてしまう作品もあると聞いてます。

だから今回、『ベイマックス』が完成するところまで持っていった監督たちの気持ちを考えると、感情移入してしまって、エンドロールをみながら「よくやった!」とダーッと男泣きしました(笑)。関わることができて、本当に心から嬉しく思える作品になっています。

『ベイマックス』本予告編

引用元

日本ではベイマックスは生まれなかった? コヤマシゲト インタビュー

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