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地中海に浮かぶ島 サルデーニャ島のパン

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見渡すかぎりにとてつもなく広がる小麦畑、乾いた大地に羊の群れ

四国の1.3倍もの面積をもつサルデーニャ島は地中海の真ん中に浮かぶイタリアの別天地だ。日本と同じように四季の区別があり気候も似ているが、私が訪れた8月下旬はとても暑い。肌に突き刺す日差しはするどく、痛くて日なたには30分と立っていられない程だ。ところが「日陰」にはいるととても涼しく過ごしやすい。朝晩もカーディガンが必要なくらい寒暖の差が激しい。さわやかな地中海性気候の島である。イタリア本土、スペイン、フランス、北アフリカの影響を受け育まれた食文化は独特で魅力的、良く知るイタリア料理とはひと味違う。
今回、サルディーニャ島にはほんの3日間という短い滞在であったが、そこではサルデーニャのパン「パーネ カラザウ」の工房を訪れる機会に恵まれた。
島の北東部に位置するヌオーロ県オリエナ、この村はサルデーニャの職人的な伝統工芸を守ってきた村で「パーネ カラザウ」の発祥の地である。

          レポーター 尾見 典子     取材日 2014年 8月

サルデーニャ国民食のパーネ カラザウは羊飼いのパン

滞在中、どこを訪れてもこのパンを口にした。サルデーニャでは羊の数の方が人口よりも多いと言われるくらい酪農業が盛んで、放牧された山羊や羊、馬、牛等がのんびりしている光景がよく見られた。元々パーネ カラザウは羊飼いが放牧のため遠征する時に保存食として携帯するのにつくられたパンで、水分を飛ばして軽くするよう2度焼きして乾燥させ保存性を高めている。1年くらい保存が利くそうだ。パリパリっと軽やかな食感であとを引く。サルデーニャ滞在中何カ所かでパーネ カラザウを食したが、自家製であったりパン屋さんのものであったり、おのおの味や厚さに微妙な違いがあり個性豊かであった。訪問したアルビーノ・ルチアさん夫妻の工房のものはポテトチップスのように薄く繊細であった。

ルチアさんのパーネ カラザウが出来るまで

材料はセモリナ(粗挽き)粉、水、塩、前日の中種とビール酵母。それらをミキサーで捏ねて長時間休ませ、パイローラーで均一に薄ーく伸ばしていく。そして丸く型抜きの出来る別のローラーに通していく。

直径40㎝程に丸く型抜きした生地は、一枚ずつキャンバス地に重ね再び休ませる。作業は家族で分担し手際よく進められる。

工房で使用している粉は、イタリア本土のバーリ(プーリア州)から特別なセモリナ粉を取り寄せて、サルデーニャで栽培される希少な背の高い品種のセモリナ小麦とブレンドしているそうだ。いずれの粉も日本では手に入らない。

焼成。石窯に薪(オリーブの木など)を焼べ、600度の高温に熱していく。石窯でないとそこまでの温度にはならないそうだ。途中、薪を足しながら高温で完全に水分を飛ばし保存性を高める。ルチアさんの工房では今でも一枚一枚丁寧に焼き上げ、熟練された技でカラザウを極薄パリッパリに仕上げていく。

生地を先の丸い木の棒(ピザピールのような)に乗せて窯内に投入、すると生地はたちまち風船のように膨らんで、ふわふわのパンになる。

膨らんで二枚に分かれた熱々のところをすぐさま手で裂いて重ねていく。作業は割とおおざっぱな印象、端が少しくらい破れてしまっても気にする風でもない。箱詰めは工場で行っているそうなので、そこで分別するのかもしれない。
この状態のものを、口にするという貴重な経験をさせてもらったメンバーも居た。

剥がす作業を少しだけ体験させてもらったが、「言うは易く行なうは難し」で手早く行わないとすぐに二枚がくっついてしまう。錦糸卵をひっくり返す時に失敗してくっつくような感じだ。早々にマンマへバトンタッチしてしまった。
その後剥がした二枚をもう一度焼き、重しをして置き乾燥させる。
そこでひとやすみ、お待ちかねのランチタイムだ。

前述のとおり、サルデーニャといえば「羊」といわれるほど。島内には350万頭以上の羊が放牧されている。羊乳のミルクからは高タンパクのペコリーノ・サルドという良質なペコリーノ・チーズが作られ、それを使った伝統的なお料理も数多くある。ルチアさんの工房ではパーネ・カラザウやペコリーノを使ったランチとデザートのデモンストレーションが行われ、自家製のサラミやワインとともにサルデーニャの家庭の味を堪能した。ワインは作った日にちによって味わいが違うから、と3つのカラフェに分けて注いでくれた。その日のぶどうの状態や色目など違いはあるのだろう、が、申し訳ない。素人目には判別出来ず、すぐに区別がつかなくなった。

パーネ・フラッタウ

パーネ・カラザウを茹だったお湯にさっとくぐらせてお皿に広げ、トマトソースや摺りおろしたチーズ(パルジャミーノとペコリーノを半々に混ぜたもの)をのせ、それを何回か繰り返し最後にポーチドエッグを乗せた素朴なお料理。熱々のところを卵を崩しながらソースにしてくるくるっと巻きながらいただく。
ボリューム満点だがお湯にくぐらす事でさっぱりといただける。

自家製ワインのおつまみで出されたパーネ・グッティアウ(右上)
「グッティアウ」はサルド語で「微量」の意。一度焼きのカラザウに塩とオリーブオイルをたらして焼いたもので、オイルを少量たらすところから名付けられた。ローズマリーなどハーブを乗せても美味しい。
豚の内蔵とイノシシのお肉で作ったサラミ(右下)前述したワインも合わせて保存食は全てアルビーノさんの手づくりだ。
パーネフラッタウ(左)「熱いところを急いで巻いてー」と聞こえてくるガイドのTomokoさんの声にせかされ、あわてて巻いて切って口にほおりこむ。産みたて卵にサルデーニャの太陽をいっぱい浴びた真っ赤なトマト。この味は現地でないと!と思いながら、取りこぼし無いようきれいに巻くのは至難のわざ。

サルデーニャのマンマの味 セアダス

アルビーノさんやTomokoさん、お手伝いの方々がお料理を振る舞ってくれている間、階下の工房ではルチアさんがデザートのセアダスを仕込んでいた。セアダスはチーズ入りの揚げ菓子。熱々のところをたっぷりのはちみつやお砂糖をかけていただくサルデーニャの伝統的なお菓子で、5000年前からあるヨーロッパ最古のデザートだといわれているそうだ。生地にはラードを練り込み2mmほどの厚さにのばしたあと、ペコリーノとすりおろしたレモンの皮を等間隔に置いてもう一枚の生地を被せカッターで切り分ける。工房いっぱいにすりたての青々しい香りが立ち昇る。今回の旅で一番楽しみにしていたひと品だ。未知の味に期待をふくらませる。

風通しのよいキッチンでTomokoさんが次々とセアダスを揚げる。
戸外は灼熱の太陽が容赦なく照りつけ、しかも火を使っているというのに室内は冷房要らずなのが不思議だ。島内はどこへいってもそんな感じであった。吹き抜ける風はときおり強く、そういえば移動中も風車の立ち並ぶ風景をしばしば目にした。Tomokoさんの話によるとサルデーニャは風力発電の盛んな島なんだそうだ。海岸線沿岸には、エメラルドに輝いた魅力的な場所が数多くある。おそらくこの特徴的な強風はサーフィンをする人にはもってこいの風だろう。

セアダス

「あっついうちに早く食べて食べて〜subito~!(すぐに)」とガイドを務めるTomokoさんの声が幾度となく飛んだ。熱々がおいしい。蜂蜜をかけて揚げたてのセアダスにナイフを入れて切ると中からとろ〜りとペコリーノが溶け出てくる。サルデーニャ産のユーカリの花から摘み採られたものや「mille fiori」と手書きで書かれた瓶に詰められた自家製はちみつを掛けていただいた。色々な花のはちみつだそう。

仕上げは濃厚で甘みのあるミルト酒。イタリアではサルデーニャ島でしか作られていないデザート酒で「銀梅花」という地中海沿岸に生息している低木に付く黒紫色の実からつくられる。ユーカリに似た香りがして、まあ養命酒のようなもの、と説明された。消化を助ける働きがあるそうだ。葡萄の粒を蒸留酒に漬けたアクアビットのようなもの(写真左:アルコール度数は45度と言っていた。舌が燃えるような感覚で一粒食べるのがようやっと)ほかもろもろいただきながら、日本から20人程のイタリアンシェフの視察を受けた話だとかトラベル雑誌「るるぶ」の取材をうけた話など、アルビーノさんの武勇伝を聞いた。途中メンバーが赤ちゃんのおむつを取り替えたりあやしたり、少しはお役にたてたかも。楽しいひとときを過ごした。

最後に〜オリエナについて

オリエナは人口7500人ほどの小さな町、数多くの教会が点在する。パーネカラザウの他には希少なNella d´Oliena(ネラディオリエナ)といわれるオリーブオイルが有名で、その形状は丸びを帯びた黒で収穫数も少ないらしい。「オリエナ」の名も良質のオリーブオイルが採れることから名づいたそう。

工房では伝統工芸の手刺繍 ricamo di mano(リカモディマーノ)の数々も奇麗に保存されていて、馬や鶏といったサルディーニャを象徴する柄が施されていた。
島の内陸部に位置するオリエナは、のんびりとした雰囲気でホスピタリティあふれる町。コルテス アペルタスというお祭りを広めたのもオリエナだそうだ。これは昔の暮らしを再現していたり、村々の特産物や工芸品を作る工程を披露していたり、伝統衣装を着けてダンスを踊ったり郷土料理やお菓子を振る舞ったり。 アルビーノ・ルチアさんの工房はまさにコルテス アペルタスを凝縮したような場所であった。「サルディーニャは長寿の島」といわれるゆえんをここに発見した。

■この記事を執筆したパンライター
パンライターのりこ
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