派遣法改正は技術者の就業不安を招く

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派遣法改正は技術者の就業不安を招く

現在の派遣法では、派遣期間の上限は3年

今期の国会で重要審議事項に挙げられていた派遣法の改正。またも期限切れにもつれ込み、6月に次いで今回も廃案となりそうです。

今回の派遣法案改正のポイントは、派遣期間。現在の派遣法では、派遣期間の上限を3年として、特定26業種以外での同一の職種での派遣が認められていません。特定26業種とは、情報処理システム開発・機械設計・機器操作、通訳・翻訳・速記、秘書などで、派遣期間の上限を定めることなく派遣が継続できます。

業種の解釈を巡って混乱も。一律に3年を上限とした改正案が浮上

これらの特定26業種は、派遣法が施行された1986年に派遣が認可された業種です。派遣業者は、これら労働者を派遣会社が正社員として常用雇用することで派遣就労が認可されました。1999年の派遣法改定では、派遣可能な業種が拡大され、また、派遣期間に応じて派遣会社が雇用期間を定める、いわゆる一般派遣が認められたことで、オフィスや製造現場でも「派遣」就労の形態が一気に広がりました。

しかし、業種の解釈を巡って混乱が生じるように。例えばOA機器操作は「特定業種」に分類されていますが、派遣法制定の20年を経て、特殊な業種ではなくなっています。そのために特定業種の縛りを外し、一律に3年を上限とした改正案が浮上したのです。

期間の上限撤廃や特定派遣の廃止は技術者の就業を脅かす

これまで、就業期間の制限なく同一職場での勤務ができたエンジニアは、3年を上限として継続勤務ができなくなります。このことは、派遣就業という形態であっても長期安定して就業してきた技術者の就業が脅かされることにつながります。

また、ITエンジニアの就労する職場環境は、一次請けから二次、三次、四次請けとプロジェクトに応じて複数の業者間でエンジニアに招集を掛けて仕事をすることも多く、中小零細のITソフト開発企業では受託と派遣での就業が混在しているケースもあります。小規模の業者は一般派遣の事業認可を受ける企業規模を持たず、これまでの特定派遣の事業者が一般派遣の認可に一本化された場合、廃業や転業に追い込まれる中小零細派遣企業も出ることが予想され、そこで働く技術者の雇用にも影響が出ることが懸念されます。

技術者が、長期安定して仕事に集中して働ける環境整備は自身の技術向上につながり、ひいては、日本のものづくりの水準を押し上げるものとなります。正社員や派遣社員に関わらず同一労働同一賃金の原則を貫くことは、技術者間の健全な競争意識を醸成し技術向上に向けることができると考えますが、今回の派遣法改正案では、この点の議論がなされたのか、見送りのなった今更に今後の議論に注目したいと思います。

(斉藤 博志/人材派遣会社 代表)

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