義務教育費の軽減よりも優先すべき教育課題

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義務教育費の軽減よりも優先すべき教育課題

35人学級でいじめや不登校は改善されない

財務省は2015年度予算編成で、公立小学校1年生での40人学級の復活を文部科学省に求める方針を固めたと報じられています。これにより、教職員を約4000人減らすことが可能で、義務教育費の国庫負担を約86億円軽減できるそうです。

1学級あたりの上限人数は、1980年に45人から40人に変更されましたが、OECD加盟国の平均学級人数は小学校21.6人に対して日本が28人、中学校23.7人に対して日本33人(2010年)と、依然として高い水準でした。そのため、2011年から全面的に35人に引き下げられる予定でしたが、財政難から教員の大幅増が難しく、現状では小学1・2年生のみで35人学級が実現しています。

35人学級を導入する際、文部科学省は校内暴力やいじめ、不登校などの生活指導によってきめ細かく対応できることをメリットの一つとして上げていました。それに対し、財務省は導入前5年間の平均で、いじめが10.6%、不登校が4.7%だったのに対し、導入後の2年間はいじめが11.2%、不登校が4.5%と、目立った改善が見られないとして35人学級の打ち切りを求めるそうです。

財務省の教育予算削減案とは逆に大幅増額を求める声も

その一方、日本のGDPに占める教育機関への公的支出の割合は3.6% (2010年)で、OECD加盟国の平均5.4%から1.8ポイントも低く、加盟30カ国中4年連続で最下位でした。このため、財務省の教育予算削減案とは逆に大幅増額を求める声もあります。

また、教育現場では1970年代に大量採用された教員の定年退職を控えて若手の採用が増えている一方、30~40歳代の割合が少なく、ベテラン教員の経験をどう継承していくのかが課題となっています。こうした状況の中、財政難とはいえ4,000人の教員削減が現実的かどうか疑問も残ります。

鍵は教員の高度専門化と非教員人材・資源の積極的な活用にある

では、教員数を増やさずに教育の質を維持するには、どうすれば良いのでしょうか。鍵は教員の高度専門化と非教員人材・資源の積極的な活用にあります。まず、小学校も含め教員の担当業務を専門教科の指導に絞り込むことです。その上で、教科書に載っている要点・基礎事項の解説は積極的に映像授業を導入して生徒の自主的な学習に委ね、教師の役割を単なる「講義官」から演習やプロジェクトなど高度な活動の「指導員」に変えることです。

保護者対応は校長や教頭などの管理職に、いじめや校内暴力などの生活指導はカウンセラーなど専門家に任せ、報告書の作成や行事の準備などは民間企業のようにアシスタントを雇って対処すべきです。また、日本固有の問題として指摘されているクラブ活動の顧問制度ですが、これも地域のボランティアや保護者などの非教員人材が活用できるはずです。

歪んだ現状を変える必要がある

日本では、一人で全てを解決するスーパーマンのような教員を求めがちですが、日本の教員は国際的な比較で見ても働きすぎであることが明白です。教員が専門教科に専念できる体制を整えることができれば、今より高度で充実した指導が期待できます。

もちろん、豊富な経験や指導技術は必須で、数週間の教育実習だけで大学卒業後すぐに教壇に立つことが適切かどうかという点も議論が必要です。何にせよ、全国の公立学校教員採用者のうち、民間企業など社会人経験者の割合が6%にも満たない歪んだ現状を変える必要はあると思います。

(小松 健司/個別指導塾塾長)

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