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芥川賞作家・柳美里に直撃インタビュー 〜月刊「創」原稿料未払い事件を語る〜

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2014年10月15日、作家・柳美里(ゆう・みり)さんが月刊誌「創」(つくる)の原稿料未払い問題をブログで告発した。芥川賞作家への原稿料が何年も支払われない出版社のブラック企業体質は、大きな話題となった。執筆で多忙な柳さんは、今回の問題についてメディアの取材は1件も受けていない。10月20日、柳さんはガジェット通信取材班のインタビューに初めて応じた。

「原稿料が払われなければ水道が止まってしまう」

この10年間、自己破産を考えてもおかしくないほど、わたしの生活は困窮していました。今も困窮状態から完全に脱したとはいえない状態です。今日(10月20日)文藝春秋から原稿料が振り込まれたので、10月21日に水を停めると「給水停止通知書」で最終通告されていた水道料金を水道局に支払いに行ってきたところです。高校受験目前の息子の塾の授業料も何カ月も滞納し、塾長から「除籍にします」と電話がかかってきました。

大学教授やテレビのコメンテーターなどを務めながら原稿を書いている人もいますが、わたしの場合、(ごく稀に引き受ける講演やテレビ出演を除き)基本的に書くことだけで食べています。原稿料以外の収入源はありません。

「創」のエッセイは、2007年8月号から連載を続けています。当初、篠田博之編集長からは「400字3枚で5万円」という説明を受けました。2007〜08年は定期的に入金があったものの、2009年以降は入金が途絶えがちになり、2011年以降はほとんど支払われていません。

篠田編集長は原稿料未払いについて、わたしに「『創』の状況を理解した上で応援してくれていると都合よく考えてしまっていた」と言い訳してきました。これは、嘘です。わたしはこれまで、篠田編集長に原稿料の催促を何度もしています。全財産が小銭まで目減りし、宝飾品や切手を金券ショップに売りに行った話などは「創」連載に何度も書いているわけですから、わたしがお金に困っていることを篠田編集長が知らないはずはないのです。

「創」は支払調書を発行しませんから、過去に入金があったぶんの内訳がわかりません。現時点で、いったい原稿用紙何枚分の原稿料が支払われており、何枚分の原稿料が未払いなのか。対談集(『沈黙より軽い言葉を発するなかれ』2012年8月30日発刊)の印税は全額支払われているのか。明細と未払い稿料の支払い時期を示すようお願いしているのですが、10月21日現在、篠田編集長から返答はありません。

芥川賞作家の原稿料が400字あたり1,500円!?

担当者から原稿料なり報酬の金額が提示されないとき、わたしは必ず最初に確かめてきました。そこで提示された金額が安いからといって、仕事を断るわけではありません。「演劇ぶっく」という雑誌で映画評を書いていたときの原稿料は、400字1,000円だったと記憶しています。「図書新聞」にエッセイを連載していたときは、400字1,500円でした。つい最近小説を書いた「文學界」や「文藝」は、400字5,000円です。400字5,000円だから仕事を受けるとか、1,000円だから受けないということではありません。

わたしの戯曲が上演される場合は、上演料として70万円が支払われることもありますが、高校の演劇部が校内やコンテストで上演するなど、観客から観劇料を取らない場合は、もちろん無報酬でも上演許可を出しています。

講演会やトークショーは基本的にお断りしていますが、例外的に引き受けることもあります。それは報酬額によって決めるのではなく、依頼主に対する恩義の有無、そして、自分にとって意味があるかどうか、です。報酬が50万円のときもあれば、交通費込みで3万円のときもあります。

わたしはキム・ギドク監督の映画を高く評価しています。キム・ギドク監督の映画の配給会社の担当者から、「予算がないので、大変申し訳ありませんが、ノーギャラでお願いします」と依頼されましたが、作品が素晴らしかったので、一人でも多くの人に観てほしいと思い、推薦文を書きました。わたしの数少ない友人の一人である岡映里さんのデビュー作『境界の町で』の帯文も、作品の内容が素晴らしかったので無償で引き受けました。提示された原稿料がタダだったとしても、著者が納得すれば執筆することもあり得るのです。

篠田編集長の場合、原稿用紙3枚で5万円の原稿料、というのが連載依頼時に提示した条件でした。わたしが原稿料の支払いを督促する中、篠田編集長から「創出版の財政が危機的状況なので、稿料を半額にしてほしい」とか「同人誌だと考えて、無料で書いてほしい」といった相談は一度もありませんでした。それどころか、「底を打った感じなので稿料を上げられそうです」というメールを送ってきたこともあるぐらいです。その後、稿料の単価が上がった形跡はありませんが……。

月刊「創」編集長からファックスで届いた殴り書き

篠田編集長からきちんとした説明があれば、400字3枚5万円でなく、400字2,000円であっても連載を継続していたかもしれません。
なぜ、この期に及んで、篠田編集長は未払い金の明細や支払い時期の説明をしてくれないのか。わたしが自分のブログ内で未払い金のことを書いたのが10月15日。丸1週間過ぎましたが、いまだにきちんとした説明がないのは理解に苦しみます。

なお、篠田編集長は創出版のウェブサイトで「外部に対する連絡先を『創』編集部にしていただいていたことも含めて、(柳美里さんとは)良好な関係と思っていました」と釈明していますが、これは事実に反します。著者の連絡先がわからない場合、その著者が現在仕事をしている出版社に問い合わせ、担当編集者に著者への連絡を取り次いでもらうことは、ごく一般的なことです。わたしの場合、新潮社、講談社、河出書房新社、文藝春秋ですね。「創」編集部に連絡先を一本化していたわけではないのです。ですから、外部からの仕事をわたしに取り次いだことをもってして、「良好な関係」だったとするのは、篠田編集長の思いこみに過ぎません。

新刊のプロモーションやサイン会のときなどを除き、わたしは基本的に編集者とは会いません。連絡はメールやファクスのやりとりのみです。篠田編集長と直接会ったのは、対談集を出版した直後(2012年)が最後ではないでしょうか。

原稿を送っても届いたという連絡がないため、「原稿がお手元に届いたら、確認のFAXをください」と篠田編集長にわたしは何度もお願いしています。すると、「届きました。シノダ」という殴り書きがFAXで送られてくるのです。わたしは、著者から届いた原稿に対する感想を書いて送るというのは、編集者として最も大事な仕事の一つだと思うのですが、篠田編集長が原稿への感想を書いてきたことは、ただの一度もありません。篠田さんは、何を根拠に「良好な関係」と考えているのでしょうか?

「作家は霞を食べて生きているわけではない」

「創」の篠田編集長とわたしが知り合ったきっかけは、(新右翼を名乗る人間の脅迫による)サイン会中止事件です(97年)。篠田編集長から依頼を受け、わたしは「創」に原稿を寄稿しました(97年8月号)。

その後、わたしの著書『石に泳ぐ魚』の裁判をめぐって記者会見を開くたびに(99年6月=一審判決、2001年2月=二審判決、2002年9月=最高裁判決)、篠田編集長は毎回出席しては挙手して質問しました。「熱心な人だな」と強く印象に残っています。『石に泳ぐ魚』裁判について「創」に長い原稿を書いたこともありましたし(99年9月号)、映画監督・原一男さんと対談したこともありました(2004年11月号)。

他誌からは、しゃべったことをそのまま文字起こしした、一から書き直さなければならない対談原稿が送られてくることがあります。「創」の場合、土台の原稿がしっかりしていましたし、対談の肝をつかんでいました。「センスがある編集部だな」と思いました。つまり、「創」にはいろいろな意味で良い印象をもっていたわけです。ですから、連載エッセイの依頼があったときも二つ返事で引き受けました。

今回の未払い騒動を受けて、「創」連載陣の一人である香山リカさんがツイッターで「発言の場が縮小してるリベラル派の私には貴重なメディア」とツイートしました。
https://twitter.com/rkayama/status/523277431155589120
わたしは香山さんが言うように、リベラル派、左派の雑誌が少ない中で「創」が貴重だと考えているわけではありません。私は自分を左派だとも右派だとも規定していません。左派からも右派からも激しく攻撃された過去があります。産経新聞社の言論誌「正論」のインタビューに応じたこともあるし、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」のインタビューに応じたこともあります。原稿依頼は、媒体やその媒体を持つ会社の主義主張ではなく、依頼してくる編集者を信頼できれば、受けます。
香山さんは「宮崎勤本、黒子のバスケ脅迫犯本などここじゃなければできなかった仕事も多数」と「創」を評価していますが、これは、わたしも同感です。ワイドショーや週刊誌は、殺人を犯した人間を「鬼畜」「魔女」「殺人鬼」「モンスター」などとレッテルを貼り、自分たちとは地続きではない異常者として断罪や糾弾するばかりで、その犯行を「理解」することを放棄してしまいます。そして、加害者のみならずその家族を袋叩きにして、失業や自殺にまで追い込むことも度々起こります。

そんな中、篠田編集長は、連続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤、奈良小1女児殺害事件の小林薫、和歌山カレー毒物事件の林眞須美、土浦無差別殺傷事件の金川真大といった死刑囚に手紙を書いて接見しに行き、極刑によって彼らの「罪」が「心の闇」の中に置き去りにされる前に、手記を書かせたり、手紙のやりとりをして、全文を掲載してきました。それがどんなに利己的で支離滅裂な内容であっても、彼らの手記は、彼らの「心の闇」の一端を覗かせてくれます。加害者への「理解」に力点をおいた「創」の編集方針に、わたしが敬意を払ってきたのは事実です。

だからといって、「労働の対価」である原稿料を、著者に支払わないでいい、という話にはならない。作家は霞(かすみ)を食べて生きているわけではないのです。仕事を依頼するときに報酬を提示せず、ましてや原稿料を支払わないなどという風潮が当たり前になってしまったら、作家やライターの生活は破綻します。「創」以外のメディアも含めて、そういういい加減なことはもうやめようよ、とわたしは言いたいのです。

原稿料未払い問題に関する柳美里さんのブログ

・『創』休載の理由(10月15日19時06分)
・今日 14:04に、『創』篠田博之編集長に送ったメール(16日19時44分)
・今日 19:40に、『創』篠田博之編集長に送ったメール(16日19時47分)
・原稿執筆の時間が、奪われている!(16日19時54分)
・今日、わたしが『創』の篠田編集長に送ったメール(21日16時53分)
・『創』稿料未払金問題で、ネット上に流れている誤報(21日17時00分)
・稿料未払い問題に関心が集まる理由(21日19時36分)
・悪い人(21日23時15分)
・「創」未払金の概算(22日00時38分)
・篠田さん、原稿料を支払ってください!(22日00時51分)

月刊「創」篠田博之編集長の弁明

・作家・柳美里さんとのことについて説明します。(2014年10月17日00時40分)

カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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