痛みを伴う物価上昇、それでも政府がインフレを目指すワケ

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インフレの反対「デフレ」が生み出す負のスパイラル

痛みを伴う物価上昇、それでも政府がインフレを目指すワケ

アベノミクスは、インフレと円安を経済の基本政策に置いています。最近は、給料が増えていないにもかかわらず、円安による輸入原材料の高騰でモノの値段が上がり、生活が圧迫されている感もあります。では、なぜアベノミクスが、痛みを伴ってまでインフレを目指すのかを考えてみます。

まず、そもそもインフレの反対の「デフレ」が、どうして経済に悪影響なのかを考えてみましょう。デフレというのは、モノやサービスの値段が下がっていく現象です。値段が下がるため、モノが買いやすくなって生活に良さそうですが、デフレの時はモノの値段だけではなく賃金も下がります。というのは、賃金を下げたり人員整理を行うことで、会社はモノの値段を下げることができるからです。賃金が減ると、人は消費を抑えます。そうすると、モノの値段が安くなってもモノは売れなくなり、売るためにさらに人件費を削減して値下げするという負のスパイラルに陥るのです。

また、人件費が安い外国でモノをつくるようになると、日本国内では仕事がなくなってしまいます。仕事がないと収入がありませんから、安くても買う人がいなくなり、ますますモノが売れなくなります。今年より来年、来年より再来年の方がモノの値段が下がるなら、ドルやユーロを持っているよりも円を持っているほうが有利となります。そこで円買いが増えます。円高になると、輸出産業は振るわなくなって、ますます景気が悪くなります。日本はバブル崩壊後、ずっと、この負のスパイラルをたどってきたのです。

日本経済が復活するためには、デフレからの脱却が是が非でも必要

アベノミクスは、このような負のスパイラルを断ち切ることを目標としています。平成25年1月22日、日銀は2%のインフレ目標を定めました。いわゆるインフレターゲット政策です。方法としては、日銀が大量に通貨を発行し、日本国債を大量に購入して市中に通貨を大量供給すれば、円の価値は下落するので物価は上昇します。円の価値が下落すると円安となるため、日本企業の主力である輸出が拡大します。将来的に物価が上昇するのであれば、今のうちに購入しようという動機づけにもなるでしょう。結果的に、企業収益が改善して経済成長につながり、賃金が上昇したり雇用が拡大して消費が増え、設備投資が増加するという流れです。

さて、今のところ円安にもかかわらず、輸出は増えていません。これは、国内の製造業で工場の海外移転が進んでおり、円安による輸出増しの効果が、かつてほどは無いことによります。また、円安により輸入原材料が高騰し、モノの値段が上がるようになりました。これは、同じインフレーションでも、好景気により需要が供給を超過したために生じるディマンド・プル・インフレーションと異なり、生産コスト上昇によるコスト・プッシュ・インフレーションです。コスト・プッシュ・インフレーションは好景気に支えられていないので、賃金の上昇を伴わず、消費の拡大や企業業績の拡大を期待できません。

このように、現状では「痛み」の方が目立っていますが、かつてのデフレスパイラルのままでは日本経済は沈む一方です。経済発展の余地がないどころか、景気が低迷したまま1000兆円を超える膨大な借金を抱えて、国が破たんすることになります。今後、日本経済が復活するためには、デフレから脱却して、なんとか正のスパイラルの軌道に乗せることが是が非でも必要なわけです。痛みを伴ってでもインフレを目指す理由は、まさにそこにあるのです。

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