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人はどうして「健康にいい!」に振り回されるのか?

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 私たちの身の回りには常に健康にまつわる情報があふれている。
 「○○は健康にいい」とか、「××は体に害だ」とか、「△△は健康に悪い」など、「本当なのか?」と疑う時間もないくらい次々と健康にまつわるコンテンツが繰り出され、踊らされている。
 健康欲は際限もなく膨らみ、程度を知らない。しかし、世界一の長寿国を達成した今、これ以上何を望むというのか?

 武蔵国分寺公園クリニックの院長である名郷直樹氏が執筆した『「健康第一」は間違っている』(筑摩書房/刊)は、そんな問いかけからはじまり、「健康」「長生き」ということを議論の俎上に乗せ、膨大なデータを噛み砕き医療のあり方を問い直していく一冊だ。
 今回、新刊JPは本書について名郷氏にインタビューを行い、本書に込めた意図をお話してもらった。その前編だ。
(新刊JP編集部)

■人はどうして「健康にいい!」に振り回されるのか?

――まず『「健康第一」は間違っている』というタイトルについて伺いたいと思います。とてもセンセーショナルな書籍名だと思うのですが、一方で非常に誤解を招きやすいところもあると思うのですね。このタイトルにした意図から教えていただけますか?

名郷さん(以下敬称略):誤解されるという点でいえば、実は驚いていまして、「健康第一にすると健康になれない」というメッセージを受け取ってしまわれることがあるんです。これは私にとっては意外なことでした。
そして、おっしゃる通り、手にとって読んでもらうためにタイトルをセンセーショナルなものにしようという意図はありました。実はこの本、冒頭の部分にすごく悩みまして、書いてはやめて、書いてはやめて…ということを繰り返して、結論の「健康第一をやめませんか?」を頭に持ってきてようやく原稿が進んだのですが、それまでのタイトルは全く別のものだったんです。

――とても一般の方を意識して書かれたという印象を受けました。

名郷:そうですね、この本のメッセージは実はこれから高齢者になる人や高齢者の方々に向けたものです。若いうちであれば、健康はすごく重要です。健康を損なうと働くことが難しくなることがありますし、ご家庭もあるでしょう。ただ、リタイアして「よく生きた!」と思っているような方々は、なおも健康を追求するよりも、それを手放した方がいいのではないですか? と問いかけたいという想いがありました。

――本書の序盤で、肺がんになった2人の80代の男性の、治療を受けた後と拒んだ後の人生の例が書かれていましたが、考えるところがありました。治療を受けた人はがんがなくなったけれど、治療で肺炎を併発して亡くなってしまった。一方で治療を受けなかった人は、腫瘍は大きくなっているものの特に体に変調が出ていないというものでした。

名郷:治療を受けないほうが長生きしたというケースですよね。でも実はあの例は、最後にひっくり返したくて、冒頭で出したんです。
最後の方に、気管切開を拒んで亡くなってしまった方の例をあげたのですが、手術を拒否したから長生きできるというわけではありません。ならば、健康を追い求めるのではなく、もう健康という欲を手放してもいいのではないですか? そうした方が楽しく生きることができませんか? ということを伝えたかったんです。
元気であること、健康であることは間違いなく良いこと。ただ、年齢的にどこかであきらめないといけないポイントが出てくるのは確かです。「ずっと健康でいたい」と言ったまま、健康を失う不安や恐怖に怯えて、いざ病気になったときに「あんなに健康に良いことしていたのに」と後悔して亡くなる人もいます。
境目がはっきりしていれば、そこで切り替えればいいのでしょうけど、その境目はないですからね。やはりどこかで健康をあきらめないといけないと思うんですね。

――そのお話から2つ、お聞きしたいことがありまして、一つ目は人間の健康欲の深さについてです。本書でも書かれていますが、健康欲に際限はありません。だからこそ、メディアはこぞって健康ネタを取り上げるのでしょうし、それにつられて健康食品や体のいいものを求めて旅をしてしまう。朝のニュース番組で紹介した健康食品が飛ぶように売れるということもありました。こうした状況について名郷さんはどのようにお考えですか?

名郷:そうなんですよね、健康欲には底がありません。自分が今、健康であるとか、将来もずっと健康でいられると実感するのは、おそらく基本的には不可能なので、どこまでも欲を刺激できるんです。
それを利用して儲けようと考えている人たちがいるのも事実で、ちょっとでも「体にいいですよ」という文句を振りまけば、そこに向かって人は動いてしまう。でも健康欲はまだ満たされない…その繰り返しにはまっています。そういう意味では健康って中毒性があるものですね。

――それが行き過ぎた結果、「ある食材にこんな効能があった!」とねつ造してしまうテレビ番組が出てくるケースもありました。

名郷:そもそもとして、社会全体の医療分野に対するリテラシーが低いという点はありますね。情報をきちんと読みこめていない。また、これはビジネスの話になると思いますが、物を売ることが健康よりも必ず優先される。健康を目指すといいつつ、実は優先されているのは「物を売る」ということなんです。

――ビジネス的な背景があるということは、「そうであること」を知っておくことが大事だと思いますが、健康にまつわる情報を読み解くリテラシー能力については、専門領域である以上、一般の方々が容易に入り込めるものではないと思います。だから、“それらしい人”がテレビに出てきて、“それらしいこと”を語っていると思うしかありません。

名郷:その“それらしい人”が、そもそもリテラシーを持ち合わせていなかったらどうでしょうか。例えば高血圧の場合、本書で書いているような臨床データを元にして議論をできる専門医は実は少ないんです。日本の医療は基礎研究が主流ですから。

――メディアの話でもう一つありまして、病気にまつわる広告についてです。本書に掲載されている事例、がん検診や認知症などはよく大きなキャンペーンを打たれますし、メディアにも取り上げられやすいですよね。今年、「アイス・バケツ・チャレンジ」という筋萎縮性側索硬化症の研究を支援するための寄付をする運動が話題になりましたが、あのような広がりがなければその病気を知らない人も多かったと思います。

名郷:まれな病気を広く知らせようとするのと、ありふれた病気とは区別して考える必要があります。それは市場の大きさというものが背景にあると思います。高血圧だと言われている人はたくさんいるし、認知症患者が推計で500万人近くもいるからという構造ですね。
この本にも書きましたが、例えば早期の認知症だと診断されても、その方々に対するサービスはまだまだ整ってはいません。本当であれば、まずは認知症が進んでいる方々のサービスをちゃんと整えて手厚くした上で、次に早期認知症の方々に対してサービスや治療を行って、臨床データを積み重ねていくというのが順番なのに、サービスを提供する仕組みが整っていない状態で見つけるだけ見つけてしまおうとしているのが現在です。だから、現場は疲弊していくのです。

(後編に続く)


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