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スコットランド独立問題の読み方

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今、スコットランドの独立問題が話題だ。9月18日の住民投票を前に、イギリス公共放送BBCを見ると、この話題で持ちきりだ。

投票の調査によれば、独立賛成か残留維持も拮抗していて、予断を許さない。

かつて、1995年にカナダのケベック州でも、独立か否かの住民投票があった。事前の調査では独立に賛成のほうが若干多かったが、最終的な投票では残留維持がわずかに上回った。今回のスコットランドも、エリザベス女王の「懸念」発言やキャメロン首相らの必死の説得工作で、残留維持になるのではないかという希望的な観測もある。

 

そもそもイギリスとはどういう国か。イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという四つの「国」から成り立っている。サッカーのワールドカップ予選では、それぞれが参加し、本大会には、イギリスではなくイングランドが参加している。

このあたりの事情は、実際にイギリスに行ってみるとよくわかる。筆者はかつてワールドカップ期間中にイギリス・ロンドンに滞在していたことがあり、そのときスコットランドにも行ったが、そこで、ワールドカップに参加しているのはイングランドのチームでスコットランドではないことを留意し、軽々しくイギリス(ブリティッシュ)と言わないように、と友人から注意された。

 

今のイギリス国旗には、イギリスの複雑な歴史が刻まれている。イングランドは白地に赤十字、スコットランドは青地に白クロス、アイルランドは白地に赤クロス。これらを合わせて、今のイギリス国旗が出来ている。

筆者がスコットランドの独立問題に注目するのは、地方分権の観点からだ。地方分権を理論的に支える経済学の「分権化定理」では、市場メカニズムが官僚制による資源配分に対して基本的には優れているように、中央集権より地方分権のほうが効率的になっている。ただし、この場合、国防、財政政策や金融政策は国でやることが前提である。

 

こうした観点から、政府の役割は、民で出来ることは民がやり、残りを政府が引き受ける。その上で、地方政府で出来ることは地方政府が行い、残りは中央政府が行う、というニア・イズ・ベターの原則が出てくる。

 だが、実際のイギリスをみると、資本主義経済発祥の地なので「民が出来ることは民でやる」はかなり徹底しているが、政府内の役割分担では、地方政府の出番はほとんどなく、ほとんど中央政府なのだ。

イギリスは地方分権がほとんどなく、世界でも希な中央集権の国だ。イギリス以外のアングロサクソンの国では地方分権が進んでいるが、イギリスだけがまったく違うのには、地方分権の各国比較を勉強していると、ちょっと驚いてしまう。実際、イギリスに行くと、地方議会も地方税もほとんどない。各地方自治体はほとんど中央政府からの補助金で運営されている。地方税がないので課税負担を決める住民代表の議会も不要というわけだ。

 

ただ、ブレア政権になって、地方分権の動きが出て、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドに地方議会を作った。これがスコットランドにもともとある独立機運を高めることになった。

スコットランドの独立を求める声が大きいのは、若い層と比較的貧しい層だ。いわゆる経済的弱者がそのはけ口がなく、独立運動へと駆り立てている。

 

こうした状況は、筆者から見ると、地方分権を強制的に押さえつけてきて、地方経済の運営がうまくいかなかった、そのひずみが独立運動へ転化してきたものとみえる。

 

しかし、地方分権が進んでこなかったので、行政インフラも未整備だ。スコットランドに地方税はほぼなく、中央政府からの補助金に地方財政は9割方依存している。またスコットランドの地方債は、中央政府へのものであると推測できる。このため、もしスコットランドが独立すれば、従来の中央政府からの借入額分、今の中央政府が抱える国債との債務の交換がなされるだろう。となると、そもそも税収基盤がないうえに、債務を負うわけなので、スコットランドにはただちに財政危機が訪れるかもしれない。

 

もちろん、スコットランドが独立すれば、中央政府からの支援は受けられなくなる。その代替財源としては北海油田をスコットランドの支配下にして、その石油代金を当て込んでいるようだ。だが、北海油田も先細りなので、将来のスコットランドの国家運営は容易でない。スコットランド領土内にある核施設の管理も悩ましい問題だ。

 

独立すれば、通貨も自前になる。英ポンドは、イングランド銀行が発行している通貨であるが、実はイングランドとウェールズにおける法定通貨であって、スコットランドの商業銀行であるスコットランド銀行等も、歴史的には通貨を発行できる。このため、スコットランドにも独立したら新通貨を発行できる仕組みはある。だが、実際に金融政策を行うノウハウはない。このため、独立派は、イングランド銀行を共通の中央銀行とした通貨同盟を結ぶ、という虫のいい主張をしている。

 

こうした予想される将来のごたごたを避けるために、スコットランドからの資本逃避があるだろう。それはイギリスからも予想されることだ。このため、政治的な野心は、目の前の経済混乱と裏腹の関係になるだろう。スコットランドの独立は、イギリス国内の保守勢力の相対的な地位アップとなるので、イギリスの右傾化、ひいてはイギリスのEUからの離脱も引き起こしかねない。イギリス経済にとって悪いことばかりだ。

【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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