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始まりはエボラ患者と祈祷師 壮絶なエボラ論文 西川伸一 THE CLUB(Medエッジ)

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今回は『Medエッジ』からご寄稿いただきました。

始まりはエボラ患者と祈祷師 壮絶なエボラ論文 西川伸一 THE CLUB(Medエッジ)

医療と健康の情報サイト「Medエッジ(メドエッジ)」スーパーバイザーを務める西川伸一が世界の動きをウォッチし、潮流として注目したい新しい話題を解説します。西川伸一は京都大学医学部卒。熊本大学教授、京都大学教授、理研発生再生科学総合研究センターグループディレクターを経て、2014年8月より「Medエッジ」スーパーバイザーを務める。京都大学名誉教授。

『Medエッジ(メドエッジ)』
http://j.mp/1lqXsZS

わが国は今デングウイルス感染で大騒ぎだが、一つの地域での感染症流行には必ず始まりがあり、終わりがある。

終わりは様々だが、始まりは必ず外から感染を持ち込んだ1人、あるいは少人数の感染者から始まる。この最初の感染者が特定されていると様々なことが分かる。病原体がどのように広がるのか。その間に病原体自身がどう変化するのか。その変化のスピードはどの程度かなどだ。

特にウイルスの場合、感染経路を特定する疫学と、次世代シークエンサーを用いたウイルスゲノム解析を対応させることが可能で、この様な情報が次の感染や流行を防ぐためには極めて重要だ。このような千載一遇のチャンスが今回のエボラウイルス流行の始まる時点で、シエラレオネに巡ってきた。

起源と感染経路を徹底分析

今日紹介する、シエラレオネのケネマ国立病院、ハーバード大学の共同研究は疫学的に追跡できたシエラレオネのエボラ感染の最も初期段階のウイルスゲノムと、流行後感染者から分離したウイルスゲノムを調べたタイムリーな研究だ。科学誌サイエンス誌オンライン版に掲載された。タイトルは「エボラゲノムを監視することで今年のエボラ流行の起源と感染を説明できる(Genomic surveillance elucidates Ebola virus origin and transmission during the 2014 outbreak)」だ。

論文によると、シエラレオネでの流行の始まりは次のようなものだった。まずケネマ病院は3月にエボラウイルス監視機構をスタートさせており、5月初めまで住民のエボラウイルスは検出できなかったと確認している。

ところが、5月25日にエボラ患者が見つかり第1例と認定する。疫学的に感染経路を追跡すると、ギニアでエボラ患者を扱った祈祷師が感染によって死亡した時、この患者が埋葬に立ち会っていたことが明らかになった。

また、同じ埋葬に立ち会った他の13人も全てエボラウイルスに感染していると分かった。始まりが特定できた千載一遇のチャンスを逃さなかった。患者からウイルスを採取し、ハーバードに送りゲノム解析を行った。これまでに分離されているエボラゲノム、6月、7月に感染した患者から分離したエボラスゲノムなどとも比較したのがこの論文だ。

ゲノム配列から、今回流行中のウイルスは2007-2008年にコンゴで流行したウイルスと共通祖先を持ち、2004年ごろに分かれたウイルスと考えられた。

おそらく人間以外の動物キャリアの中で進化しているようだ。これがコンゴでは2008年に流行した。一方、同じウイルスがギニアでヒトに感染するためには2014年までかかり、既にコンゴで発見されたウイルスとは異なるゲノムに分化していた。

その後ヒトからヒトへと感染が広がりだす。そしてギニアで病気退治の祈祷を行っている時にエボラに感染した祈祷師からシエラレオネに広がったと明らかになった。

2014年、すなわち現在流行しているエボラウイルスは互いによく似ているという。おそらくシエラレオネにはこの単純なルートを通って広がってきたと推定できる。

さらに、祈祷師の埋葬に立ち会って感染した患者のウイルスの解析から、祈祷師はギニアで流行し始めていた2種類のウイルスにかかり、これがシエラレオネ流行のルーツになっていることも明らかになった。

他の患者の解析からも、1種類のウイルスが1人のヒトに感染するのではなく、複数のウイルスが同時に感染し、維持されているとも明らかになった。

これが原因か結果かは分からないが、ヒトからヒトへの流行が始まると、ウイルスの変異速度は増大し、ウイルスを形作るタンパク質の要素となるアミノ酸の変化につながる遺伝子変異も多く起こることも分かった。結果として、ウイルスの性質が次々と変わっていく。

いずれにせよ、感染の始まりが特定されることで、変異の速度などが正確に測定できた。

残念ながら、見つかったアミノ酸レベルの変異の機能的意義についてはまだ分からない。しかし、戦う相手の手強さをしっかり理解できることは大きい。

まだまだ不十分と言われるかもしれないが、医学が十分対応していると言う実感を持つ。

論文の著者までが帰らぬ人に

ただ最後に述べなければならないのはこの論文に名を連ねたケネマ病院の医師らのうち5人は既に帰らぬ人となっていることだ。それぞれの写真と経歴はサイエンスのウェブサイトに掲載されている。

しかし、これほど壮絶な論文はこれまで読んだことがなかった。医師らが危険を顧みず患者を救おうと必死になっているのがひしひしと伝わる論文だった。黙祷。

文献情報

亡くなった5人
「Ebola’s heavy toll on study authors」 2014年08月28日 『AAAS』
http://news.sciencemag.org/health/2014/08/

(この記事・情報は、Medエッジ(メドエッジ)から提供されています。元の記事はこちら

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※元記事URL:http://www.mededge.jp/spcl/1996

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■ Medエッジ(メドエッジ)の記事より

「陸上を歩く魚」の誕生 環境で変化する生き物の不思議 西川伸一 THE CLUB
http://www.mededge.jp/spcl/2426

デング熱ならぬ米国でも「謎のウイルス」勃発、感染拡大が生後6カ月から 米国疾病対策センターが警戒「まれなウイルスなのになぜ」
http://www.mededge.jp/spcl/2363

身近になるか、「節足動物媒介感染症」 Medエッジ編集長、星良孝より
http://www.mededge.jp/spcl/2094

始まりはエボラ患者と祈祷師 壮絶なエボラ論文 西川伸一 THE CLUB
http://www.mededge.jp/spcl/1996

ブラジャーと乳がんは無関係と判明 どんな形でもどれほど長い間でも、原因にはならない
http://www.mededge.jp/a/canc/2595

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