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HiFi Cafeが選ぶ一冊:青山の名店が閉店前に出版した私家本『大坊珈琲店』

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『HiFi Cafe(ハイファイカフェ)』は、京都市役所前から北へ徒歩7分ほど、路地奥にある古い町家の珈琲屋さんです。店主の吉川孝志さんは「本を片手に珈琲を飲んでゆっくりくつろいでほしい」と、静かな店内環境を大切にしています。

今回の選書テーマは“これが僕らの喫茶道”。前記事では、喫茶店に通う客としてキダ・タロー先生の快著『コーヒーの味—大阪—』を紹介してもらいました。

『コーヒーの味—大阪—』は、喫茶店のお客さんのあり方が伝わってくる本でした。こちらは、喫茶店の側からの“お店のあり方”が書かれている本なんです

喫茶店(珈琲屋さん)のマスターとして選ぶ“喫茶道”の一冊に選ばれたのはどんな本なのでしょうか?

マスター的喫茶道の一冊:青山の名店が閉店前に遺した本『大坊珈琲店』


「これは店内で閲覧していただくことはできないんですけれども」

カウンター上の棚に手を伸ばすと、吉川さんは上品な装丁の私家本を取り出しました。

書名:大坊珈琲店
著者名:大坊勝次
発行:大坊珈琲店

1975年に開店し、2013年12月23日に38年の歴史に幕を引いた『大坊珈琲店』。この本は、写真家・関戸勇さんによる『大坊珈琲店』の写真記録と、店主・大坊勝次さん自ら執筆した“大坊珈琲店のマニュアル”によって構成されています。別冊には、お店を愛した人たちの寄稿エッセイを収録。上品な観音開きのケースを開くと、『大坊珈琲店』のドアを開けたときの心地よくピンと張りつめた空気が立ち上ってくるようです。

昔、東京に住んでいた頃、吉川さんもまた『大坊珈琲店』に通うお客さんの一人でした。

深煎りでのっしりと濃い『大坊珈琲店』の珈琲——はじめて飲んだとき、吉川さんは「なんと濃い珈琲だろう」と驚いたそうです。でも、ふたたびその珈琲を口にしたとき「これは濃いんじゃなくてよく出ているんだ」と気づきます。それは、吉川さんの舌が珈琲の味のなかにある“甘さ”をとらえた瞬間でもありました。

「慣れないうちは濃さと苦さを混同して舌が取られるのですが、よく出ている珈琲には甘さがあるんです。圧倒的な美味しさ、美味というか、珈琲の持つポテンシャルを教えてくれたのが大坊さんの珈琲です。それは珈琲の概念が変わるくらいの衝撃で。そういう珈琲を僕自身も出したい……と、まあ今に至る険しい道に入っていくわけです」

大坊さんと同じ手回しのロースターで珈琲豆を焙煎し、一杯ずつネルドリップでていねいに珈琲を淹れている吉川さん。珈琲の美味を目指す険しい道の傍らには、『大坊珈琲店』の本がそっと置かれています。

「珈琲って究極のひとりの飲みものやと思うんです」


あらためて、吉川さんに「おいしい珈琲ってなんですか?」と質問してみました。

ほっとさせてくれる飲みものですね。究極の、ひとりの飲みものではないかなと僕自身は思っています。珈琲は、ビールみたいにカンパーイ!ってみんなで飲まないですよね。ひとりでズズッとすすってホッと一息をつくのが珈琲だし、それがおいしければモアベターです」。

吉川さんは、閉店間際の『大坊珈琲店』を訪ねたとき、「これが最後のかたちなのだな」としみじみ思ったそうです。『ハイファイカフェ』は、オープンしてからまだ3年半足らず。それでも、日々の精進のなかで「小さな小さな変化が重なって今がある」と吉川さんは言います。

「味、接客、お店づくり……大坊さんの珈琲も38年間でいろんな変化と成長があったと思います。僕のお店は、5年、10年経ったときにどうなっていくんだろうか。僕自身も老成して最後にいいマスターになれているかな、いい珈琲屋さんになれているといいなあと思います」。

店主としての吉川さんの喫茶道は「お客さんがひとりでくつろげる空間に、自分が追求する美味しい珈琲をさりげなく提供したい」ということに尽きるようです。

人との待ち合わせ、街あるきのひとやすみ、読書、おいしい珈琲。「なぜその喫茶店に足を運んでしまうのか?」という理由の向こう側には、「なぜその喫茶店をいとなんでいるのか?」という店主の思いがあります。一杯の珈琲はその思いがクロスオーバーする場所なのかもしれません。

たまにはひとりで喫茶店で、珈琲を片手に本を読んでみませんか?

『HiFi Cafe』について


店名:HiFi Cafe(ハイファイカフェ)
住所:京都市中京区新烏丸通り夷川上る藤木町41-2
営業時間:12時〜19時(ほぼ無休)
電話:075-201-6231
ウェブサイト:http://hificafe.exblog.jp
ハンドロースターで自家焙煎した豆をネルドリップで出してくれる珈琲専門店。濃く甘い深煎りの味わいを楽しんでほしい。珈琲はもちろん、ランチのギネスキーマカレーや珈琲に合うお菓子(かぼちゃケーキ、黒糖カステラ、カスタードプリン)など、すべてにおいて“ていねいな味”がする。

※2014年7月中旬、誠文堂新光社から改訂版『大坊珈琲店』を発売予定だそうです。くわしくは、さる山さんのブログをご覧ください。http://guillemets.net/blog/archives/1540 [リンク]

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記者:

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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