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三月書房が選ぶ今月の一冊:たまに上等すぎてわからんけど不作はナシ!『ののちゃん全集9』

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「書店・ブックカフェが選ぶ今月の一冊」京都編(裏テーマ「本屋へ行こう」)もようやく2ラウンド目。いったんふりだしに戻ることにして、再び『三月書房』さんにやってきました。店主の宍戸立夫さんは、私のことを憶えてくれてはるやろか……小さな不安を指先で押しつぶして、さりげなくお店に入ってゆきますよ。

「こんにちは。また今月も本の紹介をお願いしたいんですけど」
「ああ、いいですよ」

あ、憶えてくれたはる(喜)! 宍戸さんはするりと番台を出て意中の棚へ向かいます。あわてて着いて行くと、「あそこのサイトは、なかなかごちゃごちゃしていて探しにくいなあ」とひとこと。『ガジェット通信』をご覧になってのご感想です。「す、すみません! でも、見てくださってありがとうございます……」。

おっと、そんなことを言ってるうちに、もう宍戸さんの手は本棚に伸びています。今回は、どんな本を選んでくれるのでしょうか?

『三月書房』が今月選ぶ一冊『ののちゃん全集9』

書名:『ののちゃん全集9』
著者名:いしいひさいち
出版社:徳間書店

「最近やったら、これが一番面白いなあ」。

宍戸さんに手渡されたのは、朝日新聞朝刊での連載も23年目(!)の国民的人気マンガ『ののちゃん全集9』。今回は2年ぶりの単行本化で、2012年の元旦から2013年の大晦日までに掲載された711本を収録しています。宍戸さんも『ののちゃん』ファンのひとり。「朝日新聞をとらなくなって、『ののちゃん』と水曜夕刊のグレゴリ青山先生の連載が読めないのが残念」と言うくらいですから、この新刊が出たときの喜びもまたひとしおだったにちがいありません。

「『サザエさん』は、半分しか単行本になっていませんけど、その半分のなかにも不作はあります。でも『ののちゃん』は打率が高い。まず、不作はないねえ。たまに上等すぎてわからんことがあるけど」。

そ、そんなに『ののちゃん』って面白いんですか? あわててページを開いていくつか拾い読みをしてみました。でも、残念ながら『ののちゃん』は私にはちょっと「上等すぎる」ようで……。毎朝、新聞でひとコマずつ読むようにして『ののちゃん』に触れて、その笑いのツボをじわじわ開発されたいと思います!

三月書房の謎2「仏教書とマンガを分けている“あの本”」


なにかとトラップが多い(と言われている)『三月書房』の棚の謎を、取材のたびにちょこちょこ解き明かそうというプチ企画。今回は「仏教書とマンガを分けている“あの本”」について宍戸さんに尋ねてみることにしました。

前回の記事でも触れたように、『三月書房』の棚にはところどころで意外なものの組み合わせが見られます。たとえば、マンガの棚の隣はなんと仏教書。他の書店では見かけないこの並び方は、さながら異種格闘技戦の趣ではないでしょうか。しかも、仏教書とマンガの棚は明確には分たれておらず、ゆるやかに融合するかのごとくなのです。

いや、もうちょっと詳しく棚を観察してみましょう。仏教書『鈴木大拙(松ヶ岡文庫編/河出書房新社)』と、マンガ『西原理恵子の人生画力対決(西原理恵子著/小学館)』の間には、「仏教と西洋の出会い(フレデリック・ルノワール著/トランスビュー)という本が挟まっているではありませんか。もしかして、この本は異なるジャンルの「出会い」を演出するために差し込まれているのではないでしょうか!?

「あのー、仏教書とマンガの棚の境目に『仏教と西洋の出会い』を置いたのはわざとでしょうか?」。

質問してみると、宍戸さんは「それは考えたこともないけど」といとも軽く受け流しましたが、その表情にかすかな微笑みが浮かんだのを私は見逃しませんでした(気のせいかもしれませんけど!)。
※ちなみに2014年6月15日現在、仏教書とマンガの棚の構成はすでに変化しております。

「マンガの量も減ってきたよねえ。昔は発行部数が少ない、レアなマンガはうちの通販でもよう売れてたけど、今はネットでなんでも買えるようになったからねえ」。

とか言いながら「これはもらった?」と差し出されたのは、『編集工房ノア』が発行する出版目録的冊子『海鳴り26 』(四六版サイズ、中綴じ116ページ) です。

『三月書房』で村上春樹の20倍(!)売れる本とは?


「これね、ものすごい人気があるんです。これをおまけに付けるって言うと、それだけで通販が急に売れるなあ。山田稔さんとか人気あるから。今回の『ある<アンダソン馬鹿>のこと』もおもしろい」。

『編集工房ノア』は、1975年創業の大阪の小さな出版社。主に関西の作家や詩人の文芸作品を出版しており、山田稔のほか、故・川崎彰彦、天野忠などの作品を世に送り出してきました。『海鳴り』は、『編集工房ノア』が出版する作家たちの最新原稿を読める唯一無二のメディアなのです。

山田稔さんの本は、生きてる文学者では一番ようけ(注:「たくさん」の意)売れるね。新刊出たら50冊くらいは売れるけど、小説でそんなに売れるのってないからねえ。村上春樹でも1〜2冊やから。去年、一昨年も山田さんの新刊は出ていないけど、今年は出るし」。

なんと、『三月書房』では村上春樹の本の20倍も山田稔の本が売れるのです。大型書店の売れ筋ランキングがすべてではないのだなぁとしみじみ思います。たしかに、『編集工房ノア』の本を買うなら、『Amazon』ではなく『三月書房』で買いたい……そう思うのは、おそらく私だけではないはずです。

たしかに、『Amazon』で買っても『三月書房』で買っても本の内容は同じです。なのですが、モノを買うという経験、そして読書をするという経験の質は明らかに違っています。「どこで、誰から何を買うのか」ということは、「社会とどう関わるのか」という話と隣り合わせです。そして、日々の小さな経験の積み重ねが人ひとりの生き方や人生を作っていくものではないかと思うのです。

三月書房について


店名:三月書房
住所:京都市中京区寺町通二条上ル西側
営業時間:平日11:00am~7:00pm/日祝休日12:00pm~6:00pm(火曜休)
ウェブサイト:http://web.kyoto-inet.or.jp/people/sangatu/
950年に開店。約10坪の店内に約1万冊の本がみっしりと並ぶ。デザイン・アート系、サブカル、漫画、文学から歴史、古典、思想・哲学、社会科学、医学や心理学などまで幅広いジャンルの本が、滑らかにつながり合うように作られた棚は、見ているだけで心地がよい。

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記者:

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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