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恵文社一乗寺店が選ぶ今月の一冊:“わたし”のなかで起きた殺人事件を追うミステリー『シンデレラの罠』

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『ガジェット通信』のシリーズ連載「書店・ブックカフェが選ぶ一冊 京都編」で今回取り上げるのは、京都の個性派書店として有名な恵文社一乗寺店。「書店に来る人が好きなモノやコト」を上手にプロデュースしており、全国の文系男子&女子をグイグイ引き寄せている。

恵文社一乗寺店は「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」だ。書店を中心におしゃれな雑貨などを扱う『生活館』とギャラリー「アンフェール」を併設している。2013年秋からはイベントスペース「COTTAGE」をオープンし、毎日のようにさまざまなイベントが催されるようにもなった。

たとえば、ライフスタイルに関する本を見て、自分の生活を豊かにしてくれる雑貨に手を伸ばす。本を読むときに聴いてみたいCDを買う。お店が紹介したいアーティストの作品を展示する……恵文社一乗寺店は、「本を買う」という行為にひもづくアイテムや体験を併せて提供する“総合文化施設”のようなお店なのである。

恵文社一乗寺店 店長・堀部篤史さんが「今面白いと思う」本

書名:シンデレラの罠
著者名:セバスチアン・ジャプリゾ(平岡敦・訳)
出版社:創元推理文庫

恵文社一乗寺店の店長・堀部篤史さんはちょっと村上春樹に似ている。そして、いかなるときでもていねいな態度を崩さず、文章を読み上げるかのごとくきちんとした言葉を話す人だ。ちなみに「プライベートで会うと一気にくだけた素顔を見せるが、お店ではその姿の片鱗も見せない」ともっぱらの評判である。

それはさておき、今回堀部さんが選んでくれたのはフランスのミステリー小説『シンデレラの罠』。「ほんとに最近、僕が個人的に好きで読んで面白かった本」として紹介してくれた。

わたしはこの事件の探偵でもあり、証人でもあり、被害者であり、犯人なのです。

えっ、探偵も証人も被害者も犯人も「わたし」? 赤い帯には謎めいたキャッチが躍る。目次を開くと「わたしは殺してしまうでしょう」「わたしは殺しました」「私は殺したかもしれません」「私は殺すでしょう」などなど、これまた語学の教科書の例文みたいな文章が並んでいるではないか。

「“わたし”ということの迷宮、みたいなね。ちょうど実存主義が流行った時代ですから、そういった影響も見られるかもしれません。これは2012年に出た新訳の文庫版ですね」。堀部さんによると、著者のジャプリゾは映画の脚本をたくさん書いていたことでも知られている人なのだそうだ。

「僕は、いわゆる謎解きをする王道の推理小説ではない異色なミステリーに惹かれるんですね。ジャプリゾは「わたしとは何か」を追求することがそのままミステリーの構造になっているような作品をよく書く作家で。『シンデレラの罠』では、女の子同士にありがちなお互いへのあこがれと嫉妬も描かれているので、少女小説としても読むことができます。女性にもおすすめしたいですね」。

取材後、さっそく『シンデレラの罠』を購入して読んでみた。たしかにいろんな方向から面白がれる要素がある佳作である。ちょうど新大阪・東京間の新幹線の片道で一気読みできるくらいの読みやすさなので、「出張の多いビジネスマン」にもおすすめしたいと思う。

一番選択肢が広くて、編集しがいのある本棚は?


恵文社一乗寺店といえば、「本棚が文脈に沿って編集されている」ことでもよく知られている。ガケ書房の店主・山下さんは「堀部さんは本を紹介する良いDJだ」と評していたが、そんな堀部さんの“本棚編集”についても少しお話いただいた。

「出版状況は世の中を反映していますから、それをまとめるのが僕の役割ですね。たとえば最近だと、町づくりや都市計画に関連して、柔らかい本も硬い本も面白いものがたくさん出ていますので、そういったコーナーを作りました。一番選択肢が広く編集しがいがあるのは食べ物がテーマの棚。レシピ、絵本や写真集、ミニコミ・自費出版もあれば随筆もあって非常に幅が広いので、それらすべてをまとめてひとつの文脈を作るのはなかなかやりがいがあります」。

『生活館』のなかにある食べ物の本棚には、たしかに「食べ物」をテーマにした本がジャンルを超えて並べてある。本のタイトルを目で追いかけていると、まるで雑誌の特集ページを眺めているような気分になる。

ふと、恵文社一乗寺店という書店は、本のトレンドを伝える雑誌みたいなお店なのかもしれないと思う。

恵文社一乗寺店について


店名:恵文社一乗寺店
住所:京都市左京区一乗寺払殿町10
電話:075-711-5919
営業時間:10:00 – 22:00(年末年始を除く)
ウェブサイト:http://www.keibunsha-books.com/
書籍の持つさまざまな側面を紹介すると同時に、本に似合う雑貨や読書の楽しみが増すアイテムを取り揃えている。生活にまつわる書籍とそれにリンクする雑貨を扱う「生活館」、地元の学生やアーティストへのレンタルも行うギャラリー「アンフェール」、イベントスペース「COTTAGE」を併設する。

編集部より)『ガジェット通信』のシリーズ連載「書店・ブックカフェが選ぶ今月の一冊」の京都編です。京都編の裏テーマは「本屋に行こう」。店主さんのおすすめ本やお店の日常を京都在住のライターがほぼ飛び込みで取材を行い「本のある場所に通うたのしみ」をライブでお届けします。

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記者:

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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