ブラック企業で働いていたら日本年金機構から差し押さえ予告が来た


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新年度もはじまり、仕事も忙しくなった。
僕は、朝イチの仕事として、郵便物の発送や仕分けを行うようにしてるんだけど、
ある朝、届いた手紙を確認していたら、日本年金機構からの手紙が混じっていた。

何気なく開封してみたら、驚いた。
トップの画像が、その文面である。

要は、国民年金保険料を滞納しているので、
耳をそろえて、滞納している保険料を支払うか、
払えないなら、4月1日から4月9日の間までに
年金事務所の国民年金課に出頭して説明しろというもの。

フリーライターは、個人自営業なので、
お勤めの方と違って、給料から年金保険料が天引きされない。

したがって、自分で保険料を納付しなければならないのだが、
年金保険料は、毎月納付しているので、このような文面を送り付けられる心当たりがない。

あれこれ思案するうちに、思い出した。
去年、ブラック企業に潜入して社員として働いていたのだが
会社から支払われるはずの
厚生年金が未納のままになっているのだろう。

ブラック企業で働いていたら労働基準監督署のガサ入れにあった
以前の顛末をご存じない方は、まずは、この記事を読んでいただきたい。

私は昨年、ブラック企業の労働実態を取材するために、
社員として、ECビジネスを行っているブラック企業に
潜入した。
通常、法令で定められた労働条件を満たしていれば、
会社は雇う人を、
雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険へ
加入させなければならない。

以前の記事を見ていただければわかるが、
労働基準監督署から、労災保険料の支払い督促が
来るくらいなので、
当然、私を、厚生年金に加入なぞさせていないだろう。

そのため、国民年金保険料の支払いに
未払い期間が生じ、年金事務所から督促が来たに違いない。

しかし、この文面はひどすぎる。

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法律になじみがない人なら、「特別催告状」というタイトルの文章が来れば、
精神的な威圧感を感じるのは間違いない。

しかも書面には、太字で、
上記期日までに保険料の納付または免除等の申請がない場合は、納付意志がないものとみなして、法に定める滞納処分を開始します。滞納処分が開始されると、国民年金保険料に延滞金が科せられるほか、あなただけでなく連帯納付義務者であるあなたの配偶者や世帯主の給料や財産を差し押さえることになりますのでご注意ください。

と記載してある。

この文面を見れば、大多数の人は、威圧感を感じるだろう。
国民年金保険料を納付できなくなった人の中には、
うつ病などで、安静が必要な人もいるはずだ。
こんな威圧感のある文書が送られてきたら、病状が悪化しかねないのではないだろうか。

公金の納付を、意図的に拒むけしからん連中もいるだろうが、
この時勢である。払いたくても払えない人は多いはずだ。

そんな状態の時に、こんな文書が届いたら、心穏やかでいられるはずがない。

また、不服申し立てを受け付ける日時だが、平日の9時から4時までと書いてある。
たとえ電話で不服申し立てが受理されるとしても、平日のそんな時間に
申し立てができる人ばかりではないはずだ。

異議申し立ては認めないから、納付しろという意図しか
感じられないのは私だけだろうか。

こういった場合、電話で事情を説明しても、らちがあかないことが多いので、
直接、異議申し立てに向かうことにした。

特別催告状を送ってきたのは、神奈川県横浜市南区にある
横浜南年金事務所である。
横浜市営地下鉄の蒔田駅から近いと
書かれていたが、少しわかりづらい場所で、道に迷ってしまった。

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なんとなく入りづらい雰囲気……

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とはいえ、うだううだ言ってても仕方無いので、いきましょうか。

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特別催告状を送ってきたのは、国民年金課なので、2階へ

2階へあがると、一般の方が多かったので、撮影はできなかったが、
郵便局や金融機関のカウンターと同じような雰囲気。
私も他の方にならって番号札を取り、対応の順番を待つ。

松沢「こんにちは、今日は、お送りいただいた特別催告状について質問にあがりました」
職員「ああ、これですね」
松沢「いわゆる、国民年金保険料の未納があるという趣旨のようなんですが、
この未納の時期は、おつとめしていまして、労働基準法等の法令からすれば
健康保険と厚生年金に加入させる義務があるはずなので、私としては
お支払いを命じられても納得がいかないのですが」

職員「はあ……」
松沢「入社時の誓約書と、先方が会社都合で出した代表社印が押された解雇通告書があります。
これからお分かりいただけるように、雇用関係にあったのは
明白ですよね? したがってご請求いただいている国民年金保険料の
支払義務はないはずなのですが」

職員「あ……えーと、まずですね。この特別催告状なんですが、松沢さんみたいに
納付が遅れて数か月しか経過されてない方も、2年以上滞納されてる方も
同じ文章を送らさせていただくことになってます。

差し押さえとか書いてあって、松沢さんにとってはきつい文面に
なってしまったかもしれませんが、いきなり差し押さえをしたりすることは、
ありませんから安心してください。

ただ、記録上は自営業として国民年金をお支払いただいてる形になってますから、
経済状態が悪い状態であっても、今回お願いした国民健康料のお支払を、
そのまま免責にするというわけにはいかないんですね」

松沢「私の説明が分かりにくかったですか?
私は、この督促を支払う義務がないと主張しています。
この特別催告状というのは公文書ですよね?」

職員「はい、公文書ですね」

松沢「私は、この公文書の指示にしたがって来所し、本来厚生年金に加入されるべきだった時期に
会社側が加入を怠たったため、このような事態に至ったことを説明にあがってるのですが」

職員「それがですね、国民年金課は、保険料のお支払いについて承る課でして、
厚生年金に加入すべき方を加入させてなかった方については、如何ともしがたいのですが。」

松沢「私はその会社の在職中に、就労の実態にかんがみれば
健康保険と厚生年金の加入義務があるはずなので、対応してほしいとお電話してるんですよ。
どの職員の方かは失念しましたが、お話を承ってくださると回答をいただいたので、

本日は、特別催告状の趣旨と、会社側の過失による
厚生年金未加入の対応について確認したく、うかがったのですが」

職員「え?……あの、そうですか。それならですね、えーと、大変恐縮なんですが、
向いの厚生年金摘要調査課で詳細をうかがわせていただく形に
していただいてよろしいでしょうか。」

担当してくれた、国民年金課の担当者は、50代くらいの男性だったが、
さすがに弁の立つ方で、こちらの主張を通させないような
言い回しが見られた。
個人的には、人のよさそうな人物に見えるが、
法令上そうなっているのか、年金機構上の対応が、そういう方針なのか。
待たされることになったので、メモを整理しながら、次の担当官が対応してくれるのを待った。

まっとうなイメージの会社から徴収される厚生年金保険料が未納扱いになってるかも?

職員「お待たせしました。お話を伺わせていただきます」

復唱する形になったが、厚生年金適用課の担当者に、
もぐりこんだブラック企業が、健康保険と厚生年金に加入させてないことを
証拠資料を交えて説明した。

職員「これは、ハローワークで応募したの?」
松沢「いえ、民間の転職サイトです。」
職員「ふーん、で、社保完備とか書いてあった?」
松沢「それは失念しましたが、他の職員の方は、保険証をお持ちでしたよ」

入社までのいきさつを説明した後、
入社時にサインさせられた守秘義務についての書類を提示した。

職員「うーん、これには、労働契約内容は書いてないですよね」

松沢「当たり前ですよ。面接の場で就業規定がないと明言してましたから。
そもそも、労働契約書を締結していなくても、一定時間以上の勤務時間を
超えている実態があったら、健康保険と年金に加入させる義務が
会社側にはありますよね。

会社側が違法行為をするくらいだから、
労働契約書なんか締結するわけないじゃないですか。

それに、もし、雇用関係にないんだったら、
この誓約書の中に、なぜ「就業時間」とか「守秘義務」って言葉が出てくるんですか?
しかも、会社の社判が押された、会社都合の解雇通告書がありますよ。
これからすれば、雇用していたのは明白ですよね?」

職員「なるほど、ところで、この文面からすると、この会社の所在地は、
横浜市●区ですか?」
松沢「そうなりますね。」

「そうしますとね、まず●区になるので、管轄的に対応できにくくなるんですよ。
まず、そのお勤めになられてた会社が厚生年金適用事業所かどうか調べる必要があるんですね。
そのうえで、厚生年金の加入義務があるからさかのぼって手続きをしろと
会社側にうながす形になります。」

なんともお役所的な対応だと思ったが、担当者は次に思わぬことを口にした。

 

会社ぐるみで厚生年金事業所の適用を避けるケースは珍しくない

職員「それとですね、あってはならないことなんですが、ご指摘のように、
働く方の労働条件を満たしていれば、厚生年金の適用事業所の届け出を
しなければいけないんですね。
我々も再三指導しているのですが、加盟しないと、そこで働いている社員さんが
厚生年金に入ることができないんですよ。
そういう理由なので、まず松沢さんがお勤めされていた会社が、厚生年金の
適用事業所かどうかを確かめてから対応されたほうがいいと思います」

松沢「適用事業所の申請を出してなくても、法令には触れますよね?」

職員「法令には触れます。そもそも株式会社で、一定の条件を満たせば厚生年金の適用事業所の申請を
出さなければいけないんですね。ただ、この年金事務所の管轄内だけでも、
相当数の未届企業があるんですよ。」

松沢「それって、強制的に取り締まりすることってできないんですか?」

職員「してるんです。電話をかけたり、手紙を出したりすることからはじめて、
一定の回数を超えると、やっと立ち入り検査が可能になるんです。
ただ、取り締まり対象の企業があまりにも多くて、追いついてない印象があります」

松沢「こうなっちゃうと、労働局に行ったほうがいいですかね?」
職員「これは私の推測なんだけどね、労働局に行っても、年金事務所に行けって言われると思うんですよ。
厚生年金適用事業所かどうかをたしかめないと、厚生年金に入れるのは、事実上難しいんですよ。

だから、年金の問題に限っていえば、労働局は、年金事務所にいけという対応をしかねないですね。
なんとももどかしいんですが、最前線にいる我々も法令に基づいて動かないといけないので、
歯噛みするばかりです。」

労働基準監督署(賃金未払い)、ハローワークの雇用保険摘要課(雇用保険)、労働局(保険など)
それぞれ、働く人の権利を保護する法令はあるが、それを逆手に取ったり、
罰則がないのをいいことに、働く人に負担を強いる会社も多い。

社会保障財源の問題が言われて久しい。

また、保険料を徴収する法令がありながら、
企業が厳しく取り締まられない現状については、
いろんな意見があるだろう。

しかしながら、法治国家において、罰則がないから法令を守らないというのであれば
非正規が全体の30%を占めるといわれる現在の社会で働く若い人が
知らないうちに搾取され、また、不当を訴えるのが難しくなるのではないか。

ブラック企業が糾弾される機運が高まってきた。
だが、年金保険料の適正な徴収に協力しない企業が多いのは
残念ながら指摘されることは少ないような気がする。
今後は、このことにもメスを入れなければ、ならないのではないだろうか。

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※この記事はガジェ通ウェブライターの「松沢直樹」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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