新訳ブームに高級志向の新レーベル──『新潮モダン・クラシックス』創刊

新潮社のサイト

2000年代から続いている海外古典作品の新訳ブームは文庫本や児童書が中心でしたが、新潮社が3月28日に創刊した『新潮モダン・クラシックス』は文庫・新書サイズでなくハードカバーが採用されており、高級志向を打ち出している点が大きな特徴です。

創刊タイトルはヒュー・ロフティング(1886-1947)の『ドリトル先生航海記』と、一般に『クマのプーさん』の題名で知られているA・A・ミルン(1882-1956)の『ウィニー・ザ・プー』の2点。『ドリトル先生航海記』は生物学者の福岡伸一さん、『ウィニー・ザ・プー』はエッセイストの阿川佐和子さんがそれぞれ翻訳に起用されています。どちらも原作は児童書ですが、今回の新訳では使用されている漢字など小学生にはやや難しく感じられる部分もあり、むしろ小学生の頃にこれらの作品を夢中になって読んだ大人がメインの読者層として想定されているようです。

『ドリトル先生航海記』は新潮社の雑誌『考える人』2010年秋号の巻頭特集がきっかけで今回の新訳が刊行されました。原作者本人が描いた挿絵やイギリスの初版本であるジョナサン・ケイプ版の装丁を踏襲している点を始め、日本で半世紀以上にわたりスタンダードを確立して来た井伏鱒二(1898-1993)訳の岩波書店版のアンチテーゼではなく井伏訳で広く受け入れられて来た部分を受け継ぎながらも福岡氏の独自性を出すスタイルとなっています。

『ウィニー・ザ・プー』は原作初版および石井桃子(1907-2008)訳の岩波書店版で使用されているE・H・シェパード(1879-1976)の挿絵でなく、新規に描き起こされたイラストが使用されています。実は新潮社が『Winnie-the-Pooh』の日本語訳を刊行するのは今回が初めてでなく、1941年(昭和16年)に『小熊のプー公』のタイトルで新潮文庫から松本恵子(1891-1976)訳が刊行されており、今回の新訳は実に73年ぶりとなります。

今後の刊行予定はジュール・ヴェルヌ(1828-1905)の『十五少年漂流記』、マルセル・プルースト(1871-1922)の『失われた時を求めて』の2点が発表されています。また、創刊タイトルの2点にはいずれも続編があり、今後のシリーズ化も期待されるところです。

画像:新潮社公式サイト内『新潮モダン・クラシックス』刊行タイトル一覧

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