国家戦略特区、何がどう変わる?

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雇用や医療、農業、教育などの分野で規制緩和の狙い

国家戦略特区、何がどう変わる?

地域を限って大胆な規制緩和などを行う「国家戦略特区」を創設するための法案が、現在、会期中の臨時国会において審議されています。この「国家戦略特区法案」は、いわゆるアベノミクスの「第三の矢」と位置付けられる成長戦略の柱の一つとされ、安倍政権としては、今国会で成立すれば来年1月にも全国の数か所を「国家戦略特区」に指定し、経済の成長戦略を加速させたいとしています。

この法案にいう「国家戦略特区」では、企業にとって「不便」な規制を緩め、儲けやすい環境を整えることが狙いです。政府は今年5月に国家戦略特区ワーキンググループを設け、自治体や企業から募った提案を参考に、雇用や医療、農業、教育などの特区を検討した結果、さまざまな規制緩和メニューを法案に盛り込みました。

地方の活性化への施策は目立たない

では、具体的に中身を見ていきます。医療では、「国際医療拠点」をつくるとし、外国人医師が、日本人以外は国籍を問わず患者を診られるようにすることや、病床(ベッド)を現行の基準以上に増やすことを認めます。教育では、公立学校の運営を民間に委ねる「公設民営学校」の設置を解禁します。農業では、企業の農業参入を活発にしようと、商工業との兼業の場合は信用保証制度の利用を認めます。

また、まちづくりの面では、都心のマンション建設に対して容積率を優遇するなど、建築基準法をはじめとする土地利用規制を見直します。そして、フロントの設置など旅館業法上の義務を一部免除して一般の賃貸住宅や古民家を宿泊施設として利用しやすくします。

ただ、大都市を中心に海外からヒトやカネを呼び込もうとする狙いが色濃く出ている一方で、地方の活性化に役立つような施策はあまり目立っていません。例えば、企業の参入を促すとして期待された農業生産法人への出資制限の緩和や、農業関係者が取り仕切る農業委員会の抜本的な見直しは見送られました。

雇用の規制緩和色は後退。今後、「岩盤」を壊せるか?

最後に、雇用では、当初、(1)解雇ルール(解雇の要件・手続きを契約で明確化し、特区内で定める指針に沿う契約による解雇は有効とする)、(2)労働時間法制(一定の年収要件などを満たす労働者が希望する場合は、労働時間の規制を外すことを認める)、(3)有期雇用制度(契約で、有期雇用の労働者側から、5年を超えた際の期限の定めのない雇用への転換の権利を放棄することを認める)の3点を見直しの対象とし、外国企業の誘致やベンチャーの起業が目指されました。

しかし、結局、これらの導入には厚生労働省が反対で、(2)労働時間法制の見直しは、対象項目から除外、(1)解雇ルールの見直しは、過去の労働紛争の裁判例を分析・類型化した「雇用契約の指針」を政府が作り、特区ごとに設ける「雇用労働相談センター」が企業に助言する案へと、大幅に規制緩和色は後退しました。さらに、(3)有期雇用制度は、この法案とは別に、「5年超」を「10年超」に延長するなど全国規模での見直しがされる方向となりました。

この法案が成立すると、安倍首相を議長とする「特区諮問会議」が内閣府に設置され、どの地域を特区にするかや、特区ごとにどの規制を緩めるかを決めることになります。厚生労働大臣、農林水産大臣など関係分野の大臣はこの会議のメンバーから外されますが、本当にトップダウンで「岩盤」といわれる規制を壊す姿勢が本物といえるか、試されるのはこれからです。

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