官製株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り

access_time create folderエンタメ 映画
官製株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り

今回はヒロ・マスダさんのブログ『ヒロ・マスダ ブログ / Ichigo Ichie films LLC』からご寄稿いただきました。
※この記事は2013年06月22日に書かれたものです。
※すべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/434838をごらんください。

官製株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り

グローバルを知らないグローバルモデルによる自称イノベーションによりニッポンのエンタテイメントを蔑ろにする利権者と天下りを生む(amakudari)ために

もし株式会社を潰しても経営者や100%の親会社が一切損をしない会社があったら?

もし投資ファンドが顧客の金で何ら採算性のない会社を起業し、自らがその会社の経営者となり高額報酬を得ながらその財産を消滅させても、その身分が保証され、その責任、賠償さえ問われず許されるとしたら?

もし皆さんにこの会社の損失を負担してもらいますと言われたら?そして皆さんに拒否する権限がなく、強制的に皆さんと皆さんの子供に借金を負わせていたら?

もしそれを私達の政府が「未来の国富の為」「グローバル人材育成の為」「全ては国家、国民の未来の為」と行なっていたら?

皆さんならどうしますか?

「クールジャパン」「日本の潜在能力」「IP」「グローバル」「リスクマネー」このような言葉がまるで流行語かのように政治家の口をつき、連日メディアを賑わすようになってきたと気づいた人も多いと思います。クールジャパン戦略大臣なるポストも作られ、つい先日も通称株式会社クールジャパン法案が成立し、500億円の官製会社の設立が決まりました

このクールジャパンは今に始まったことではありません。映画の分野では2010年に全く同じ流行語が叫ばれていました。既に日本とアメリカにオフィスを構える政府出資60億円の投入が決まった官製株式会社まで設立され、それが約1年半8ヶ月運営されています。

この官製株式会社は、全く映画製作を知らない親会社の官製ファンドの利権者が設計し、自らが経営者に就任し、さらに設立に関与した官庁の官僚が出向するという正に絵に描いたような利権、天下り構造そのものでした。

肝心の事業も破綻した経営が目に見えている不採算性を抱え、それにもかかわらず経営者が一切損をせず国民は補填する仕組みが確立されています。これまでオープンになっている資料、政府議事録を検証すると、事業開始後、本来掲げていた役割すら果たしていません。

一方、政府会議では約1年間に渡り経済産業省の幹部がでたらめの答弁を繰り返し、それを聞いた政治家、有識者委員が「いいね!」と承認しています。

「海外、ハリウッドといえば国民にはわからないだろう」とばかりに、映画産業が抱える海外展開の問題の本質を歪曲し、自らの利権に投資を沈める口実にする。この国には「クールジャパン」の言葉の裏にある腐敗がすでに存在しています。そうした国の発展に寄与しない事業が検証もされないまま、次のクールジャパン株式会社へ進もうとする日本。

これから検証する株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSは決して映画産業だけに限らない、国民を顧みない日本国家の構造腐敗にあると思います。国家がこの腐敗を放置するならば、最後は国民の監視に委ねられると思います。

少々長いですが下記の検証をお読み頂き、世論の力でこうした無駄をなくすきっかけにご協力頂ければ幸いです。

All Nippon Entertainment Doesn’t Work(s)

クールジャパン!これまで日本が保有する素晴らしいコンテンツが失敗してきたグローバル展開の大きな壁、それを乗り越えハリウッドで大儲けするイノベーション!そして莫大な利益を国内に還流させ次世代の国富を築く!

2011年10月、ほぼ公的資金で設立された官製ファンド株式会社産業革新機構*1が100%の60億円出資を発表し、グローバル展開を目指す映画企画開発への投資目的に設立されたのが株式会社All Nippon Entertainment Works*2である。

*1:「株主概要」 『株式会社産業革新機構』
http://www.incj.co.jp/about/shareholders.html

*2:「事業内容」 『株式会社All Nippon Entertainment Works』
http://www.an-ew.com/ja/aboutus/business-innovation/

東京とロサンゼルスにオフィスを設け、ハリウッドのコア中のコアのというアメリカ人CEOを招聘し、CEOのネットワーク、ノウハウ、日本の立場に立った交渉ができるという過去類をみない革新的グローバルモデルで日本のエンタテイメントに明るい未来を創りだす。

全てはニッポンのイノベーションのために…

我が国の政府と国家戦略の頭脳は冗談が過ぎる。

おそらく日本以外の国でこのような話があがれば、協議されることなく会議室でその企画書を破かれ終わるほどの低次元な国家未来設計である。しかし日本ではこれが公的資金60億円を投入する国家のトップ戦略になる。しかもこの60億円は国民への報告義務すら負わない仕組みのもと運用される。

伝えたい物語の脚本を作り、監督やキャスト候補を添付し、映画資金を集め、時にセールスエージェントや配給を確保し、撮影へのグリーンライトを得る。プロデューサーにとって一番の苦労が強いられるビジネスになるかならないかの映画製作プロセスが企画開発である。

しかし『映画国際展開向け企画開発支援します』と『映画国際展開向け企画開発を株式会社を国が設立、経営していきます』はその意味合いが大きく異なる。

経済産業省と株式会社産業革新機構の関係

では一体誰がこの会社を作り、経営しているのか?そして企業損失を実質株主である国民が補填させ、破綻した事業を経営することで公的資金から高額報酬を受け取っているのか?

ここにこの会社の登記履歴(PDF)*3の写しある。この会社の経営者と経済産業省ー産業革新機構ー株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの繋がりを見れば、日本のエンタテイメントを再生させる『ニッポンのグローバルモデル』のからくりの真相が見えてくる。

*3:「履歴事項全部証明書(株式会社All Nippon Entertainment Works)」(PDFデータ)
http://hiromasudanet.files.wordpress.com/2013/06/company_web.pdf

見てわかる通り株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSとは、産業革新機構が設計し、産業革新機構が選んだCEOを据え、産業革新機構が代表取締役になり、産業革新機構から外部取締役を招き、100%産業革新機構の株主総会開き、産業革新機構のみの取締役会を開き、産業革新機構の監査役が会計を監査する会社である。

このような組織構造で正しいガバナンスなど期待する方が間違っているとも言える。

また会社設立や現在の運営状況について経済産業省文化情報産業課課長/クールジャパン戦略室長の伊吹英明氏が政府会議で答弁を行なっている。

ここにその議事録(コンテンツ強化専門調査会第2回*4、第10回*5、平成25年第4回*6)がある。

*4:「コンテンツ強化専門調査会(第2回) 議事録」 2011年12月05日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai2/gijiroku.html

*5:「コンテンツ強化専門調査会(第10回)議事録」 2012年05月15日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai10/gijiroku.html

*6:「コンテンツ強化専門調査会(第4回)議事録」 2013年04月17日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2013/dai4/gijiroku.html

この答弁の内容の検証は後で触れる事にするが、この60億円の会社は、非常に簡単な資料と『クールジャパン』『グローバルモデル』『イノベーション』『リスクマネー投資』魔法のキーワードだけで片付けられてしまっている。もちろんそんな魔法は国民の財産を引き出す事には効果があるが、海外市場と対峙する映画製作には全く通用しない。

ただ、もしかしたら偉そうに事業を論評する私が間違っているのかもしれない。

きっと確固たる根拠が政府で話し合われ、私の知識や経験で知り得ない『イノベーション』が開発され、実際に日本の未来創造の為に素晴らしい経営がなされているのかもしれない。

以下に会社設立の経緯が語られている。

月刊『文化通信ジャーナル』ANEWインタビュー

月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号(PDF全文)*7に株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの長田志織取締役ほかのインタビューが掲載され、この会社を設計した経営者の自らの口でこの会社の事業について語っている。

*7:「月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号」(PDFデータ)
http://hiromasudanet.files.wordpress.com/2013/06/anew_interview1.pdf

『どうやらこういう組織があるといいのではないか』『仮説』

長田:2010年の秋ごろから産業革新機構としての検討を始めておりました。もともとおおきな流れとして、経済産業省で文化振興立国という考えがあり、『2010年産業構造ビジョン』*8というのが発表されているのですけれども、文化面のでも日本は稼いでいけるようになりたいという、大まかに言うとそのような話が出ているわけですが、その中で文化産業として日本が強いものの一つとして、いわゆるソフト・コンテンツ産業をもっと広げていくために、どういったことをするべきかという検討が経済産業省内でもされていたのですね。そういった問題意識を経て、エンタテイメント産業の領域で、とういった投資をすると業界に対しておおきなよい変化を与えて行けるだろうかという、かなり広い目線からの検討作業というのを2010年の秋ごろから始めさせていただきました。産業革新機構の中で数名のチームが立ち上げられて、責任者は私の上にいるのですが、業界識者の方にも広くインタビューさせていただき、日本だけではなく米国側の方々にもお話を聞いたり、米国だけではなくアジアなど海外のご意見もおうかがいし、どうやらこういう組織があるといのではないかという。こういうファンクションが国内にはかけているということが、日本のソフト・コンテンツを海外に出していくにあたっての一種のボトルネックになってしまっているのではないかという仮説をもって、この株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS(ANEW)という会社を設計し、会社を作ろうと発表したのが、2011年の8月です。

*8:「産業構造ビジョン2010骨子」 2010年6月 『経済産業省』
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004660/vision2010gist.pdf

(月刊「文化通信ジャーナル」2013年4月号 p34-p35 文化通信社)

よい変化を生む投資というのであれば、今回の60億円の政府出資と『ハリウッドで大儲けできる話』を発表して、いったいどんな期待や投資効果が生まれただろうか?実際には海外投資はおろか、国内のパートナー企業ですらここに金を出す人間もいない。

この会社を設計した産業革新機構についても下記の発言がある。

-プロジェクトチームの長は誰ですか?

長田:高橋真一と申しまして,産業革新機構のマネージング・ダイレクターです。私の上司でもありますし、ANEWの取締役としても参加しています。

-映画業界の方とも面談されたということですが、どういった人たちに会われたのですか?

長田:それこそ経産省さんにご紹介いただいたり、私どもの知り合いであったり、いろいろな所にお話を聞かせていただきにうかがって、どこそこというのを申し上げるのは難しいですけれども、業界大手の会社さんの方には、大多数とまでは言わないですけれども、お話を聞かせていただいています。当時私ども産業革新機構は業界についてはまったく素人でございましたし、教えていただかないと業界の「いろは」からわからないところがありましたから、本当にたくさんの方にお時間を使っていただき、教えていただきました
(月刊「文化通信ジャーナル」2013年4月号 p39 文化通信社)

驚くべき事に、国際競争に勝って企画を通し、外国投資を取り付け、海外市場の観客と対峙するハリウッド映画作りを目指す国家戦略は映画を全く理解していない「いろは」から学んだ人間が『どうやらこうらしい』『仮説』によってデザインされたものであった。これで日本のエンタテイメントを生まれ変わらせ、次世代の国富を築く『ニッポンのイノベーション』が生まれるという。

典型的な日本の腐敗構造がいくら「グローバルで勝つ」と叫ぼうが、次世代の日本の国富などは絶対に生まれない。

会社においてその起業時のデザインが破綻しているものは、いくら公的資金を費やしても、時間をかけても、ある日突然機能する会社にはならない。ましてや設計した人間が会社の経営者となり、利権者と官僚雇用のポストの確保が第一目的であれば。

結局は公的資金で自分達の楽しい老後を構築程度のビジョン、これがクールジャパンに潜む我が国の国の未来を創造する国家戦略の姿である。

ちなみにこの会社の事業について世界的ヒット作品を手がけたアメリカ人プロデューサー、日本に来日していたインド人プロデューサーと話をしたことがある。当然理解を示した人はおらず、二人が口を揃えて発したのは「大きな無駄」という言葉であった。

クールジャパン腐敗は革新ならぬ確信犯
経営破綻が前提の経営デザインで残るのは国民の借金のみ

初めてこの会社について知った時、社名のセンスのなさと同時に飛び込んで来た印象は、映画製作への無理解、継続的経営ビジョン、採算ビジョン、事業目的、情報収拾能力、日本のエンタテイメント産業への役割、国民への責任、その全てが破綻していることであった。

『グローバル展開を目指すコンテンツ開発の橋渡し』に国が株式会社を設立し、利権者が経営にあたる。この発想の時点で既にグローバルモデルではない。国際マーケット向け映画をこのような形で開発する人間も、これに付き合うまともな海外プロデューサーもいない。対等なビジネス関係ではなく、あるとすれば日本国家の財産を差し出すことで付き合ってもらえる関係くらいである。

なぜなら企画開発の口利きの『橋渡し』の人間に対し、その人間の経営する会社の経費を賄う利益シェアなど映画には存在しない。映画製作のあらゆる仕組みを探しても破綻しない理由が見当たらないほど破綻が前提の事業であることはまともな人間なら容易に判断できる。これが実行に移すことができる唯一の理由は、国民の財産がこの会社を負担、保証しているからである。

さらに日本政府がこの会社の『イノベーション』の根拠は、たった『ハリウッドの中心人物のアメリカ人CEO招聘』というだけである。これまでリアルなビジネスとして外国付き合えない日本の映画産業が、国民の財産を包んで外国人と話をする、一緒にビジネスをすることを叶えるため、公的資金で雇い入れる口利きコンサルタント。ANEWで行なわれている『イノベーション』とは具体性のない低次元のおとぎ話にすぎない。

たとえこのCEOが本当にハリウッドの中心人物でも、伝えたい物語があるから映画を作るという動機ではなく、ただ『日本の素晴らしいIPを売りたい』という最低の映画を作る理由だけをもって、今のハリウッドで映画を継続的にプロデュースすることはできない。また仮にこのCEOにその能力が備わっているのであれば、彼の生涯の唯一の映画プロデューサークレジットである2004年『アビエイター』以降、日本以外の多くの国やプロダクションからそのような要望が届いているはずである。

これはANEWのCEOに限らず、この世にはそんなことを叶えてくれる映画の神様は存在しない。これができるのは莫大な自己製作資金を有する、もしくはアクセスできる映画スタジオ、もしくは大富豪くらいである。

株式会社All Nippon Entertainment Worksは設計の段階で、日本のエンタテイメントが直面しているこの分野の問題の本質を歪曲し、虚構の国家課題と未来を掲げ、国内の映画産業など関係ない天下り、利権者が自らのポストを確保する為に公的資金をロンダリング会社といっても過言ではない。これは日本エンタテイメントの再生の復興費を横領するような話と同じで、映画産業の未来だけでなく、莫大な無駄を負担させられる国民をも愚弄するものである。

新ハリウッド時代

今映画産業は大きな変革期を迎えている。私が20世紀フォックス系の米国人幹部から「今どこのスタジオも映画の採算は厳しいんだ」と聞いたのは今から3年前である。また同じ年、日本小説原作、世界的監督、著名プロデューサー、アカデミー賞のノミネート俳優が添付されて映画企画開発への参加や、昨年パリでABC放送で主演コメディがヒットしている新進のハリウッドスターが添付された日米仏共同製作の企画開発会議を行なった。その時もその厳しい世界状勢を肌で体験した。

ハリウッドはハリウッドの利益の為に存在している。新ハリウッド時代の今、メジャースタジオに限っていえば製作数は10年前の半数、これから更に減少が見込まれる。近年ハリウッド大作ですら採算が厳しく、スタジオは自社開発による映画IPの確保と配給手数料収益でリスクを避け自己利益の最大化させ、生き残りの道を探している。

また製作においての国際競争は激化し、すでにハリウッドを取り込み実績を残している多くの国が日本の前を走っている。

そんな変動の時代、時を同じくして2010年経済産業省と産業革新機構が協議を議論を重ね辿り着いた『ニッポンのグローバルモデルによるイノベーション』のANEWであった。そしてこの会社が大臣政務官などの政治家、経済産業省、産業革新機構、国家戦略コンサルタント、国内外の映画産業を熟知した識者達を通過し、「国家、国民、日本の未来の為」と60億円が拠出された。

プロデュースされていない良質の脚本が何百と眠る世界で『日本の素晴らしいコンテンツ!』というだけで、独立資金調達の目処なしに、ハリウッドで継続的に日本IP映画をプロデュースし続け、かつそれをヒットに導き、日本のエンタテイメントが生まれかわる程の莫大利益を獲得できるエコシステムをハリウッドで構築する国家戦略。

『ニッポンのイノベーション』と語り、本当のグローバル標準の映画企画開発においてプロデューサー1人が担うプロセスを、国をあげた株式会社で『橋渡し』、東京の一等地とロサンゼルスにオフィスを構え、アメリカ人CEOと現地スタッフ、この会社を設計した官製ファンドの産業革新機構の役員と監査役らの高額報酬、官庁からの出向職員、その他スタッフを雇用するコーポレート体制を組み、それを継続的に経営するだけの利益を上げ、尚かつ日本のIP企業にも莫大な利益を生み、結果日本の次世代の国富を築く国家戦略。

どうみても『ニッポンのイノベーション』は正気の沙汰ではない。これが民間なら自由に潰れて下さいで済む。しかしこれは日本の映画産業未来に関わること、ましてや国民の財産で運営されている会社、そう自由にされては困る。

第1回共同開発企画『ガイキング』にみる事業状況

設立から約1年後の平成24年12月19日に初の共同開発企画『ガイキング』*9が発表になった。

*9:「東映アニメとANEW、『ターミネーター』プロデューサーのゲイル・アン・ハードと、東映アニメ初のオリジナルロボットアニメ『ガイキング』を、ハリウッド実写映画化」 2012年12月19日 『株式会社All Nippon Entertainment Works』
http://www.an-ew.com/ja/files/2013/03/ANEW_PR_20121219_JP.pdf

経済産業省情報関連産業課課長の伊吹氏は政府会議において収益計画をこう答弁している。

3年で成功例を

多分、今まで日本にはなかったビジネスの形を新しくやるということなので、普段ビジネスをされている方から見ると本当にそんなことできるのかなということを多分思われる方も結構いらっしゃると思うのですけれども、LAに行っていろいろな人に聞いた感じでは、IPをちゃんと持つということと、クライマンさんの人脈があるということで、リスクと著作権を持ってビジネスをするという形になるので、今までメジャーがやっていた機能を日本のコンテンツについてある意味で肩代わりするというか、ジュニアメジャーみたいな、企画についてのジュニアメジャーみたいな形のビジネスになりますので、十分可能性はあるのではないかというのが向こうの専門家の人とか、エンタメのロイヤーさんに聞いた印象でした。
日本のコンテンツをここに預けないとそもそもここは仕事をできないところなので、日本のコンテンツ企業さんとどうやってうまく関係を築いていって、ちゃんと儲かるんだなということを理解していただけるかが非常に大事なことなので、最初の3年の間にちゃんと成功するという事例を、それこそ別所さんがおっしゃるようにサクセスストーリーをちゃんと示すということが非常に大事だと思いますので、皆さん是非温かい目で見守って、かつ一緒にお仕事をしていただければと思います。

「コンテンツ強化専門調査会(第10回)議事録」 2012年5月15日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai10/gijiroku.html

ANEWのパフォーマンスについてどうチェックするのかということですけれども、これは株式会社で産業革新機構が100%出資をしている会社です。普通の株式会社ですので、当然株主として産業革新機構がパフォーマンスをチェックする。今までいたCOOにしても、彼らは仕事をするサイドなので、それをチェックするのは株主たる産業革新機構の役目で、彼らもこの会社に対して役員を出して、日常的にかなりチェックをしているというのが今の状態です。

企画開発ですので、映画をよく知っている方に申し上げるのもあれですけれども、実際に興行収入につながるのは、もうちょっと2年とかそれぐらい後の話だと思いますので、それまでこの会社がつぶれないように皆さんでぜひ、いいことがあったときは一緒に宣伝をしていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

「コンテンツ強化専門調査会(第4回)議事録」 2013年04月17日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2013/dai4/gijiroku.html

この通り伊吹氏は今年4月を含む1年を通し、一貫し3年の収益化を説明している。

また平成25年5月24日に行なわれた第183回国会経済産業委員会第14号*10において、経済産業大臣官房審議官中山亨氏が次の通りに答弁している。

*10:「第183回国会経済産業委員会第14号 平成25年5月24日(金曜日) 」 『衆議院』
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009818320130524014.htm

ただいま御指摘のありましたオールニッポン・エンタテインメントワークスでございますけれども、御指摘のとおり、一一年八月十五日に、国内の企業、個人が保有するストーリーやキャラクターなどのコンテンツを、ハリウッドを経由して、当初から海外展開を視野に入れた大規模な企画開発を行うということで、その事業の革新性が認められて、産業革新機構からの出資案件として認められてございます。

実際に事業を開始したのは一一年の十二月でございまして、それから一年、現状でございますが、昨年十二月に、第一号案件といたしまして、東映アニメーションが保有しておりますオリジナルアニメーションであります「ガイキング」、これはもともとは一九七六年にフジテレビで放映されたロボットアニメだそうでございますけれども、これをハリウッドの会社と共同して実写版の映画にするということでお話がまとまりまして、現時点で、企画開発また撮影の準備中というところに来ているところでございます。

つまり『ガイキング』とは、撮影準備中のところまできていて、あと2年で収益を上げるという作品であると経済産業省幹部が国会、および官邸の委員会で断言してきた作品となる。

一方、株式会社ANEWの取締役長田氏とビジネスディベロップメントマネージャー鈴木氏が『ガイキング』の進捗を次のように語っている。

脚本家を選ぼうという段階

-脚本家は決まっているのですか?

長田:これもケース・バイ・ケースではあるのですが、まず大きな進め方としては、基本的に映画というものは上映まで至らないと意味がないところがありますので、上映に至る可能性が高いとう仕立てをどうしていくかというのが大事だと思っています。現段階ではそれが日本人であるかとか米国人であるとかそういうことではなしに、実績があって、この脚本家だと上映まで行く確立が高いであるとか、あるいは書いた脚本そのものがいいという評価であるとか、そういった基準によって選定させるべきだと思います。プロセスとしては今、脚本家を選ぼうというプロセスにあって、まだ決まっている段階ではなく、複数の候補をいくつか想定して、その中で検討させていただいていますが、これは3社協議で進めております。

-アメリカでの配給はまだ決まっていないのですか?

鈴木:そうですね、ハリウッドのシステムですと、それもケース・バイ・ケースなのですけれども、比較的脚本がいいものができあがった段階で、そこから先どういう形で製作していくのか、配給していくのかという話しになっていくケースが多いので、このケースでもその基準です。
(月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号 p37 文化通信社)

映画プロデューサーには映画を作るという入り口だけでなく、当然製作資金を回収する出口が必要になる。今から2年で莫大なヒットを見込む規模のハリウッド映画であれば、今の時点で出口を確保していなければ成立していない。

個人的には、今から脚本すらない『ガイキング』のIPを保持し、正しい形で作ろうとすれば、脚本に1年、ファイナンスに1-2年、撮影1年、配給1年とざっと見積もっても4年から5年は収益を上げることができないと思う。しかもこれは最短の見積もりで現実的には80億-100億のロボット大作を1、2年でファイナンスするのも極めて困難な話だと思う。

伊吹氏の言葉を拝借するが『映画をよく知るもの』であれば、1年間の答弁し続けた3年の収益は最初から存在していないことは一目瞭然である。また『ガイキング』映画製作定義上、全くもって「撮影準備中」ある企画ではない。しかし国民に報告され続けた事実は、映画製作、事業実態を把握していない官僚達の誤った嘘の答弁だったということになる。

さらにこの答弁を受ける政府会議委員からは「ANEWについては、第1号が非常にすばらしい方向性で進んでいるということで、大変期待が持てると思うのですが」という発言がなされる。

ちなみにこれらを審議する国会、政府会議、官僚機構運営にも莫大な税金がかかっている。

「ガイキング」にみる経営および役割の検証

日本ではまるで事業成果のように『ガイキングにハリウッド著名プロデューサーがつきました』とのプレスリリースが発表されているが、この案件に対しANEWは本来約束していた役割を一切果たしていない。これからその理由をこれから述べたいと思う。

プロダクションのコントロール

通常海外映画では映画プロデューサーは映画スタジオに雇われるか、もしくはインディペンデント(独立)した企画開発をするかになる。国富に叶う映画のIPを掌握するということは、当然ここをハリウッドシステムから独立した形で製作するインディペンデント映画製作になるだろう。したがって『ガイキング』においてはクリエイティブの決定をアメリカ任せではなく、自分でやる創造の結果、それが自らIP(著作)でなければならない。

株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの前代表取締役COOの黒川祐介氏が政府会議でこの会社の役割を下記の通りに説明している。

おっしゃるとおり、一般的には日本の作品の権利をあちら側に、アメリカのプロデューサーにお渡ししている形になっておりますので、そうするとそのスピードのコントロールも含めてアメリカの方々、普通に考えられても買った方々というのはしようがないかとは思いますが、そちら側にコントロールされている。ここも私たちの方で当然コントロールしますし、今回、産業革新機構さんからキャパシティ、ケイパビリティとしていただいておりますのは、最悪、自分たちで全てを100%リードすることができるような投資あるいはコントロール力ですね。勿論私たちとしてはなるべく実現させるためにパートナーとしてのアメリカの制作会社さんを必要とはしております。ただし、最終的にはそれがいなくても自分たちでもつくるということで、ここのスピードアップ、コントロール力も図れるかと存じております。

「コンテンツ強化専門調査会(第10回)議事録」 2012年05月15日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai10/gijiroku.html

黒川氏が言う通り日本が映画のIPを確保するにはこの『自分達で創作、開発する』これがキーワードになる。

では『ガイキング』において誰がコントロールしているのか?

今回のアメリカ人プロデューサーのゲイル・アン・ハード氏がアメリカの映画情報サイト『Collider.com』*11のインタビューで『ガイキング』について以下の通りに説明している。

*11:「Gale Anne Hurd Talks THE WALKING DEAD, the Show’s Creative Process and Deleted Scenes, Plus Updates on GAIKING and HORIZON」 『Collider.com』
http://collider.com/the-walking-dead-season-4-gale-anne-hurd-interview/

-ガイキングの今のステータスについてお話頂けますか?

ハード:はい、今は契約を終え、脚本家を決めるところです。

-過去にあった作品のような映画にするつもりですか?この映画の構想をお聞かせください?

ハード:まだ時期尚早で、実際に私が脚本家と会ってこのガイキングのマテリアルをみて、話し合うまでは決めたくはありません。ただ過去の作品と似たようなものにしたくないとは思います。ご存知のとおり『ガイキング』はキャラクター設定が重要な要素になる物語なので。

-ステータスというのは現状のステータスというよりはこれからの計画なのですが、例えば具体的な計画(タイムフレーム)など決まっていますでしょうか?

ハード:ありません。具体的なタイムフレームで製作を計画するより、正しい脚本家を起用する事が重要になります。

(Collider.com )

また2013年の6月26日に行なわれたサタンアワード式典に出席したハード氏*12は下記のようにも述べている。

*12:「2013 Saturn Awards: Gale Anne Hurd Talks THE WALKING DEAD, Plus Interviews with Amy Acker, William Friedkin and BREAKING BAD’s Jonthan Banks」 『Collider.com』
http://collider.com/2013-saturn-awards-gale-anne-hurd-talks-the-walking-dead-plus-interviews-with-amy-acker-william-friedkin-and-breaking-bads-jonthan-banks/

02:32~ -現在動いている企画はありますか?

ハード:ひとつにアニメ原作のガイキングがあります。現在作業を進めていますので近々発表できると思います」

-日本の会社と共同製作ですよね?

ハード:東映です

-それは今ままでハードさんには見られない新しいビジネスだと思いますが、それは急成長するアジア市場に向けて始めたことですか?それともクリエイティブな面から共同製作をしたのですか?

ハード:この企画はクリエイティブな面からですが、将来は外国との共同製作は増えると思います。多くの中国との共同製作も増えると思いますし、今回は日本との共同製作になります。

-この企画は日本からアプローチされたものですか?それともあなたから企画したものですか?

ハード:我々から企画したものです

-撮影はいつになりますか?

ハード:今脚本家を見つけたところです。

-脚本家は誰ですか?

ハード:まだ契約に至っていないので教えられません
(Collider.com)

さらにANEWの長田取締役も次のように話している

長田:弊社の仕事の進め方としては、日本側の企業さんとお話させていただいたものを社内で検討し、実際にこれは可能性があるのではないかというものについて、アメリカ側のプロデューサー、弊社がお付き合いをさせていただいている、複数のプロデューサーさんといろいろな形でお話をさせていただき、その中で関心がある、ぜひ進めていきたいという話になってきたものを進めていくという形です。ですから、弊社内の事業で進むスピードが決まるというよりは、多分に外部とのお話の過程で進むスピードが決まっているということかなと思っています。そういったプロセスを経て進めて来ています。
(月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号 p35-p36 文化通信社)

2者の話を照合すれば明らかなように『ガイキング』とはプロデューサーのゲイル・アン・ハード氏がその創作を組み立てるいわば彼女の企画である。ANEWの実態は黒川氏が発言の「アメリカプロデューサーにお渡ししている形」と全く同じで、この会社の企画開発能力とプロダクションのコントロールは皆無である。

政府会議で提示、協議されてきたANEWの目的と役割とは大きく矛盾している経営が行なわれている。

『グローバルスタンダード』≠『ニッポンの官僚スタンダード』

また長田取締役はこうも述べている。

-ANEWさんの具体的な作業は?

長田:そうですね、3社共同なので3社ともなのですが、弊社という意味では弊社の社長もそうですし、ロサンゼルスオフィスにいるスタッフもそうですし、こちらにおります鈴木も「ガイキング」の担当であはあるのですが、一緒になってやっております。弊社の売りという点では、LAのオフィスにいる人間と、東京のオフィスにいる人間が本当に一緒になって、一つの事で一緒に作業しながらやっていますので、チームとして一緒に動いている感じでね。ですからサンディとアメリカのスタッフと東京のスタッフ、みんながチーム・アップして一緒にやっているという感じです。
(月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号 p37 文化通信社)

企画開発のプロセスに必要なものはその映画への責任と、クリエイティブビジョンを有したプロデューサーの決断である。脚本家を選ぼうかというプロセスに、日米のオフィスのスタッフが一丸となり日々協議すること工程などなど存在していない。

もちろん、ゲイル・アン・ハード氏の過去のプロデュース作品にみるように、彼女のクリエイティブビジョンへの信頼は確かだと思う。しかし、物語のクリエイティブの部分の意思決定を実質放棄し「脚本のお金だします」だけの形の日本参加では、おそらく必然的に資金調達も担うであろうハード氏に多くのIP帰属することが予想される。さらに仮にハリウッドスタジオがついたなら、スタジオのコントロールは避けられない。

ANEWには少なくとも今わかっているだけでも代表取締役CEO、代表取締役COO、取締役、監査役、CEO&COO補佐、ビジネスディベロップメントマネージャーなる肩書きが存在し、映画企画開発するという『ニッポンの官僚スタンダード』になっている。こんなものが必要とされる映画作り、決して日本はおろか世界中どこへいってもイノベーションとはならない。
ではANEWの役割とは一体何なのか?

株式会社交渉のプロ サンディ・クライマン

ANEWに設立当時に掲げた目的、実態に伴っていないのはプロダクションコントロールだけの話ではない。前代表取締役黒川氏がCEOクライマン氏が起用について以下のような答弁をしている。

今回、日本のIP、日本の強さと世界のエンターテイメントという掛け算を日本側に立ってリードしたいと考えてくださっている方々で、私が見付けたわけではなく、産業革新機構さんに見付けていただいた方ですけれども、ハリウッドのコア中のコアでありながら、日本のために働く。ハリウッドの中でもブラックボックスがあったり、ハリウッドの中で変なディールがあることは承知しているけれども、自分は絶対そういうディールはしないと言い切って、今回代表についてくださった方です。その人と一緒に、先ほど申し上げました対等の交渉力、あるいは日本が全てリードするような収益を稼いでいくという形を実現していければと存じております。

「コンテンツ強化専門調査会(第10回)議事録」 2012年05月15日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai10/gijiroku.html

通常日本の為に働く担保は「言い切る」ことではなく、契約に収める事である。

さらに今回の『ガイキング』における役割については経済産業省情報関連産業課課長伊吹氏が以下のようにも答弁している。

始まったばかりなので、課題が何かということなのですけれども、恐らく従来の一番の課題は、1,500億のマーケットに対して、お金も含めてリスクをとってチャレンジしてこなかったのが一番の課題で、それを乗り越えるためにこういう組織をつくりましょうということで、これをつくったわけです。その際に、恐らくハリウッドとちゃんと組んでやれるかというのが大きな課題で、そのためにCEOはサンディ・クライマンというハリウッドの人をトップに据えているわけです。私は別に彼らを擁護する立場にはないのですが、そういう人脈があったので、今回もゲイルさんというプロデューサーがちゃんとついたということだと思います。

「コンテンツ強化専門調査会(第4回)議事録」 2013年04月17日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2013/dai4/gijiroku.html

サンディ・クライマン氏の人脈によりハード氏がついた、これは大きく事実とことなる。映画情報サイトIMDb*13によれば、ガイキングは2010年に2012年の公開を目指し権利が取得され、その後開発が進んでいなかったと記載されている。

*13:「Gaiking」 『IMDb』
http://www.imdb.com/title/tt1629451/

さらに文化通信ジャーナルのインタビューでもハード氏参加の経緯が語られている。

-アメリカの会社を決めたのは、ANEWが決めたのですか?

長田:これは東映アニメーションがもともとゲイル・アン・ハードさんと話をされていて、そこに弊社が加わらせていただくことにより発表させていただき、すすめさせていただくことができたと思っています。

-ガイキングにおけるANEWの役割はどいうことですか?

長田:…弊社の全体の社長というのはサンディ・クライマンというアメリカ人CEOですけれども、サンディは非常にハリウッドでの業務経験が長く、30年以上やっているのですが、交渉のプロであることと、今回ANEWという組織に参加することによって、IPを持っている日本企業、実際の著作権を持っている会社さんの側に立って交渉することができます。そういった交渉力などが相まって、案件を無事に進めさせていただくことができたのではないかと思っています。
(月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号 p36 文化通信社)

『ガイキング』においてクライマン氏の人脈は全く関係していない。また日本側が映画のクリエイティブ部分の意思決定下し、資金調達できる新しいビジネスモデルの形でもない。それを平然とこの会社の企画、経営者が言ってのける。日本側に立った交渉ができるアメリカ人を見つけたことが果たしてニッポンのイノベーションなのだろうか?

『ガイキング』にみるANEWの役割は、事前から交渉していたハリウッドプロデューサーへの口利き交渉人、もしこれが日本の国家課題であるならば、その解決策法の答えは東映アニメーションが弁護士を雇えばいいだけの話である。そのコストも高くても時給数百ドルである。経常利益30数億円を出している会社がこれができないとは個人的には思わない。

もちろん今回の契約合意には、日本の公的資金によるリスクの肩代わりが大きく影響したとは思うが。しかしそれだけならわざわざ国家が会社を作り経営する必要もない。

例えば、メジャー契約をしたい野球選手は、契約のために日米にスポーツマネージメント会社は設立するか?ましてや国が契約交渉の株式会社を作り、全く野球を知らない高額報酬の役員が経営にあたる非生産的な事業など絶対に考えられないはずである。

ちなみに株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSのロサンゼルスオフィスの住所は、クライマン氏の個人会社のEntertainment Media Ventureの所在地*14と同じ住所になっている。さらには、ANEWのヴァイス・プレジデントを含むアメリカスタッフの2人は、クライマン氏の個人会社のスタッフでもある。実質彼の会社の全てを日本公的資金で丸抱えしていようなものである。個人的には映画企画開発の口利きにどのような日常業務があるかは想像できない。

*14:「Contact」 『Entertainment Media Ventures』
http://emventures.com/contact

官製株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2013/10/emv.jpg

ちなみに平成25年6月15日にANEW宛に下記の質問を電子メールにて送った。

海外オフィスがサンディ・クライマン氏の個人会社と同じ住所であるということはどういうことか?また役員がクライマン氏のアシスタントである点はどういうことか?

6月18日に届いた回答は次の通りである。

弊社は、会社法に基づいて設立された通常の株式会社でありますため、お問い合わせ頂きました各質問にお答え致しかねますこと、何卒ご了承ください。
弊社の事業内容等につきましては、広く皆様にご理解いただくべく、ホームページにおいて適宜情報発信しておりますので、何卒ご理解、ご賛同を賜れますと幸いです。 -ANEW広報

疑問はこれだけに終わらない。このCEOとの契約はどうなっているか?例えば、彼の会社を丸抱えしていることで経営が行き詰まりCEOを退任させることになったら、会社ごと作り直さなければならない。この辺りを産業革新機構はどのような感覚で考え、設計したのか?極めて不透明である。

更に覚えていかないといけないのは、日本が経営責任を追求する場合、このCEO、法人、会計は日本の法管轄外にいて、アメリカの法で争う事になる。

国内産業のグローバル水準でオペレーション能力および人材育成

経営者が一切損をせず、運営資金も60億まで公的資金で保証された官製会社、これだけでも馬鹿げた話だが、ANEWの役割を果たしていないのはこれでけではない。次世代の我が国のエンタテイメント産業の根幹にも関わる功罪を残す事になる。

ANEW設立の意義について次のように書かれている。

国内コンテンツ業界の人材育成し、グローバル市場における事業化ノウハウを蓄積。また、関連する各種ビジネスを日本勢が獲得することにより、国内産業のグローバル水準でのオペレーション能力を育成、日本の人材及びコンテンツ業界がグローバルビジネスの一角を占めることをめざし、全体のエコシステムを進化させる

官製株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2013/10/anew.jpg

さらに政府会議では前代表取締役黒川氏がこうも答弁している。

あるいは今後こういったプロデューサー、世界映画をつくるプロデューサーという方々をここで育てていければと存じておりますので、ANEWの社内だけではなくて、コラボレーションパートナーの皆様も御一緒に、いい形で調整、共同作業をさせていただきながら、是非ここからコンテンツが出るだけではなくて、人材も含めて世界コンテンツをつくられるプロデューサーの方々が旅立っていかれる、あるいはここをスプリングボードとしていただけるように頑張らせていただければと存じております。
当然ボラティリティというか、変動も多いので、余り短期的に収益を求めるという形をしておりません。むしろ短期的には、私たちの最初のミッションは日本のコンテンツが世界に羽ばたくためのグリーンライトを得ること、ここで言う、青信号みたいなものを得ることが数年以内に起こることがミッションとなっております。  ただし、おっしゃるとおり、私たちとしては事業会社ですので、最終的には、例えば10年あるいは15年といった長いレベルで普通の企画会社、世界の一般的な企画会社が投資したときに求める収益と同じ収益を求めていきたいと思っております。その副次効果としての日本映画、日本のIPホルダーさんへの収益ですとか、日本の人材の育成が副次効果としてあるということでございます。

「コンテンツ強化専門調査会(第10回)議事録」 2012年05月15日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai10/gijiroku.html

日本式グローバルイノベーション=日本の公的資金を包んでアメリカ人に付き合ってもらう関係

『ハリウッドの方に全部お任せします』が国家戦略の実態で、一体どんな人材が育成されるのであろうか?日本の公的資金を差し出しているだけで、クリエイティブ面の決定に関わらない参加ならば、これはアメリカ人のアメリカ人によるアメリカ映画である。「CEOの人脈と交渉力によりアメリカ人有名プロデューサーと話ができました」とプレスリリースで発表するような低次元のプロダクションからは、次世代の日本人に蓄えられるプロダクション経験など獲得することはできない。

また仮に『ガイキング』が製作に至っても一体何人の日本人が雇用されるのだろうか?

ハリウッド映画大作の意思決定はコスト重視に比重がおかれている。各国の優遇制度を利用しなくては作れない状況で、アメリカ映画だからといってアメリカ国内で製作される保証はない。おそらく日本は製作開始が決まっても数十億円の対等な資本関係は組めない。となれば「僕が開発したんで日本で作りましょう」「僕が開発したんで関連グッズは日本のメーカーで」という意見は通らない。

また映画は総合芸術というように、その国の映画産業の振興にはあらゆる人材の総合力が必要となる。対等な資本関係が組めない日本において、プロデューサー一人がが育てば世の中が変わると言う話ではない。しかも『弊社のサンディが』を10年、15年続けようがその独立して資金を調達できるプロデューサーすら育ることはない。

公的資金でただ乗り、フリーライダー

この株式会社の一番の魅力はただ乗りできるという点、日米にオフィスを持つ会社がそのただのサービスが提供できる理由は、その費用を国民負担によって補填できるからである。

ではこれに参加する日本企業はどうだろうか?現在まで20社のパートナー企業が集まり、100にも及ぶ企画が集まっているとされる。

経産省伊吹課長:去年できた当初は、御指摘のようにANEWって何とか、この人たちと仕事を一緒にやって大丈夫かとなった部分がいろいろなところにあったと思うのですが、去年1年かけて、ほぼ主立ったコンテンツホルダーが集まる団体がそれぞれ、例えば映連さんとか、ソ協さんとか、そういうところにここのトップのクライマンと日本側のスタッフが赴いて、我々はこういうことができます、ぜひ一緒にやりませんかということで周知をずっとしてきまして、おかげさまでそういうのもあって、日本側から一緒にやりたいという話は3桁の数で来ていますので、そこら辺の周知は1年たって随分できたのかなと思っています。

「コンテンツ強化専門調査会(第4回)議事録」 2013年04月17日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2013/dai4/gijiroku.html

それは自発的にこの物語を伝えたいという動機がない場合、開発能力のないANEWに『日本の素晴らしいコンテンツ』が何百、何千の企画を預けようが全く意味がない。『日本のIP売りたいから』『公的資金が出るから』そんな都合で海外の映画製作者は映画を作らないし、海外市場、観客も相手にするわけがない。

あなたの事業のサービスにお金を払えますか?

鈴木:ただ、他の企画に関しては、いろいろなパターンがありまして、「どれを持って行っていいかわからないので、カタログを見ていただいて、そちらで選んで下さい」とおっしゃる方もいらっしゃいますし、「進めているプロジェクトがあるので、ぜひ一緒にやりましょう」というパターンもありますし、逆にアメリカのプロデューサーから「今こういう作品がほしいんです」というお話をさせていただくこともあります
(月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号 p37 文化通信社)

本当に儲かる話なら日本だけでなく、国籍を問わない金が集まるはずである。これは映画に限らず、ビジネス全般に言える事である。今回集まったパートナー企業の中で「お金を出して一緒にやる」という企業は何社いるだろうか?1社もいない。それどころかANEWのサービスに対して対価を払って話をする人間はいるだろうか?価値のないサービスでも一緒にやりましょうという理由は、映画が頓挫しても費用負担を逃れたい無責任な理由ではないだろうか?

また同じ質問をこの経営者達にも問いたい。『これあなたのお金でやりますか?』『アメリカ合衆国の税金でやりますか?』『ハリウッドで大儲け』できる実態があるものなら何ら問題ないはずである。株式会社ANEWは経営者達までが日本の公的資金をむさぼるフリーライダーなのである。

さらに厳しい事を言うようだか「どれを持っていっていいかわからないので選んでハリウッドに売り込んでください」これだけ情報が溢れた現代の世界で、最低限自分でできることをやらない企業の怠慢を国民の公的資金で支援する必要さえない。映画を作りたい側の無責任な需要が、この馬鹿げた事業が発生させる原因であることを自覚しないといけない。

日本の財産はただではない。現世代が負担できない場合、次世代の国民が負担することになる。大げさな話、無駄な公的資金がなければよって救える命があるかもしれない。

ただより高いものはない

ANEWは株式会社の為当然営利活動としているので、当然映画IPのシェアを要求しなければならない。ハリウッドプロデューサーと交渉してもらうという他愛もない事に対し、本来の渡す必要のないシェアを渡す必要はない。この程度のサービスなら弁護士やエグゼクティブプロデューサーなど個別に雇ったほうがはるかにメリットがある。

映画施策における様々な『ニッポンのグローバルモデル』

国際的に一切機能しない『ニッポンのグローバル』はほぼ全ての日本の映画国際施策において行なわれてきた。そのどれもがグローバルを知らない官僚、利権者が「どうやらこうらいしい」という理由で国家戦略をデザインしてきたからである。

例えば映画ロケ誘致を増やし、観光などインバウンドを獲得して豊かな未来を作る。この国で閣議決定までなされ、ロケ誘致を内閣総理大臣が宣言した。

ここで出てきたことが「どうやら国のフィルムコミッションがいいらしい」そしてとりあえずジャパンフィルムコミッションという組織や理事ポストを作る。もちろん中身は伴っていない。「さあこれで素晴らし日本に海外映画ロケが殺到するだろう」もちろん映画のロケ決定の意思決定すら理解しない人間がこれをデザインすれば海外顧客となる海外映画プロダクションは獲得はできない。

しかもこの『ニッポンのグローバル』組織が海外に出て行ってPRを行なえば、日本の恥を宣伝するようなことに繋がる。ジャパンフィルムコミッションはロサンザルス、インドなど海外PRに出向き「日本のクルーには残業代がいらない」「エキストラは無料です」と自国民と産業雇用を陥れる海外宣伝を行なった。世の中には「クルーの残業がかからない」が誘因となりロケ地を選ぶまともな映画はない。

また昨年、都内の高級ホテルで模様されたユニジャパン主催の『日本のインセンティブの未来を考える国際セミナー』、東京国際映画祭に併設されたTIFFCOMのイベントで、ジャパンフィルムコミッションの副理事長や海外から招聘されたがパネラーを務めた。しかしその内容は「海外ではこういうのがあるらしいよ」とネット情報以下の極めて低次元なものであった。

以前ジャパンフィルムコミッションの設立を知る国土交通省官僚と話をしたことがあるが「目的、役割が定まっていないまま設立された生みの苦しみがある」と語った。結果今回のANEWと同じ「どうやらこうらしい」の国家戦略がこの分野での国の遅れを招いている。

ロケ誘致の問題については以前このブログ*15でも言及した。

*15:「私論「海外映画ロケ誘致計画書」」 2012年06月01日 『ヒロ・マスダ ブログ / Ichigo Ichie films LLC』
http://hiromasudanet.wordpress.com/2012/06/01/article01/

次に『国際共同製作を増やし海外市場を開拓しよう』と文化庁が国際共同製作支援助成金を始めた。海外映画製作を理解しておらず、短的にいうとこの制度で共同製作を正しい形で行なう事はできない。実際に施行から3年間の作品をみても(平成23年*16、平成24年*17、平成25年*18)応募できる作品すらごく少数、しかも受給作品もまるで助成金の為に国際共同の体裁を整えたような『ほぼ日本企画』ばかりである。

*16:「平成23年度「国際共同製作映画支援事業」の採択について(PDFデータ)」 2011年09月30日 『文化庁』
http://www.bunka.go.jp/ima/press_release/pdf/eigashien_jigyo_110930_ver02.pdf

*17:「平成24年度「国際共同製作映画支援事業」の採択について(PDFデータ)」 2012年07月27日 『文化庁』
http://www.bunka.go.jp/ima/press_release/pdf/eiga_saitaku_120727.pdf

*18:「平成25年度「国際共同製作映画支援事業」の採択について(PDFデータ)」 2013年05月24日 『文化庁』
http://www.bunka.go.jp/ima/press_release/pdf/eiga_saitaku_130524_ver2.pdf

この問題については平成25年4月25日に開催された『クールジャパン推進会議ポップカルチャーに関する分科会』*19においても河瀬直美氏が発言している。

*19:「ポップカルチャーに関する分科会(第2回)出席者(PDFデータ)」 2013年04月25日
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cool_japan/bunka/dai2/gijiroku.pdf

この問題は平成23年6月17日に文化庁長官宛に陳情を送り、またこのブログ*20にも転載した。

*20:「文化庁長官宛、映画国際共同製作支援への陳情書 平成23年6月17日送付」 2012年06月15日 『ヒロ・マスダ ブログ / Ichigo Ichie films LLC』
http://hiromasudanet.wordpress.com/2012/06/15/clm0617/

更に経済産業省は、中国映画の誘致、共同製作の推進支援事業も実施した。実態は3500万円で広告代理店に丸投げで、こういった国家間の協議しているものを広告代理店に委託する日本に当然信用などない。

ちなみに韓国、インドなどは今年に入り政府間で中国との共同製作協定を締結する動きを見せている。今、日本を除くアジア諸国が共同製作などで世界市場にどんどん進出している。

一方、数々の『ニッポンのグローバル』により、国際的に一切通用しない日本では、日本を舞台にしたハリウッド大作映画でさえ次々海外ロケに流れ、プロデューサーだけでなく、多くの俳優、クルーの雇用、プロダクション経験が失われていることも知る必要がある。

様々な所に存在するグローバルを知らない『ニッポンのグローバル戦略』これは顧客(外国市場、パートナー)のニーズを一切無視して、商売をしようとするのと同じである。それにもかかわらず日本の映画行政はひたすら日本国内で『ニッポンのグローバル』を叫び続けている。

映画グローバル展開の問題解決について

構造改革
問題の解決法を考える時、不幸なことに日本の場合は国内の腐敗構造を解体するところから議論しなければならない。急務とする課題は組織と責任の一元化しグローバルに機能する構造に作り替えなければいけない。例えば字幕支援というだけで二つも三つそれを執行する官庁、行政法人、機構作られ公的資金が使われるうちは日本のグローバル展開などは語れない。しかもそれが名誉職や天下り理事の楽しい老後目的が加われば尚更である。

株式会社ANEWが行なっている程度のことは、ごくわずかな企業努力と知識で解決できるものである。政府が語る『グローバル』『ハリウッド』という言葉に騙されないよう国民が賢くなり、このような利権、天下り事業の無駄に公的資金が沈められることを防ぎ、直接国民、産業振興、映画に還元される支援を構築しなければならない。

人脈
個人的に詳しく知らないサンディ・クライマン氏の人脈自体を否定する訳ではないが、これだけ情報が溢れている世界で繋がれないハリウッド人脈などないと思う。もちろんその前提には対等なビジネス関係を示すことが条件となるが。

ハリウッドコンタクト情報は月額約1500円で手に入る。映画情報サイトIMDb*21というものがあり、そのプロ版を有料購読すれば世界中の殆どの映画人のコンタクトが入手できる。日本の大エンタテイメント企業の話であれば、ハリウッドの大物を含む殆どの人がその話に耳を傾けるはずである。

*21:『IMDb』
http://www.imdb.com/

日米にオフィスを構え、交渉のプロの会社を丸抱えなくとも、メール1通、電話1本で世界と繋がることができる。

産業全体の情報の共有

突然海外から映画化権の問い合わせがあったら?

日本では数十億興行収益を記録した映画化権が100万円売り切りだったとかいう話が聞こえてくる。こうした商習慣で日本の原作を売り渡してしまい、利益を逃しているのであれば、その相場を知れば防ぐ事ができる。もちろん経験のある弁護士を雇いさえすれば、公的資金で会社を丸抱えしなくとも当然クライアントの立場にたった交渉をしてくれる。

さらに、もし日本のエンタテイメント産業が過去のデータを共有があって青写真が描ければ、日本に正しい利益をもたらせる交渉を行なうことができるようなると思う。

権利料の相場や、海外展開した成功、失敗を含む情報、その有益な情報をもとに次世代の我が国の映画製作者が海外市場において自立した映画製作を叶える事ができるはずである。こういった情報を国単位で利用できる環境を作ることは、この国の海外展開戦略を進化させることになると思う。

個人的には文化庁の国際共同製作助成金を受給した作品などは、株主利益程度の成果で終わるのではなく、その情報を公開することを義務とすべきだと感じる。

例えばフジテレビが5000万円を受給した『101回目のプロポーズ』は、どのドラマの権利の契約料、この規模の作品を中国で作った場合、この興行売り上げからこの位のシェアが得られたなど貴重な情報として国に還元すれば、支給された5000万助成に見合う貢献が得られると思う。

情報不足を理由に無駄な事業が作られることを防げるとともに、産業全体のエコシステムが進化するメリットもある。

ここで私の経験もシェアしたいと思う。現在、世界的ベストセラーのアメリカの児童文学の映画化権を取得しようとしているが、著者のエージェントが一番最初に示した条件を共有したいと思う。この情報が全ての相場を示している訳ではないが、あくまでも一つの参考の目安として活用できるのではと思う。

世界的なアメリカ児童文学の例

・ 目的:長編映画
・ 権利:ワールドワイドライツ(世界において独占的映画権)
・ 権利料:200,000ドルオプション:12ヶ月15,000ドル(この金額は最終購入価格から清算)2年目延長15,000ドル、3年目15,000ドル(2、3年目の延長は権利料と清算はできない)
・ オプションとは全額を払わなくても小額の負担で独占的に企画開発ができる権利である。企画が成立しなくても、プロデューサーの損失は最小限で済むメリットがある)
・ コンティンジェンシー報酬:世界興収から得るプロデューサーシェア(IP)のグロスもしくはネット収益の10%
・ マーチャンダイス権:世界市場における全ての関連商品におけるプロデューサーシェアの10%
・ リメイク権:映画がリメイクされるときは本作の権利料と同額を支払う事に同意する
・ 独占続編開発権:プロデューサーは本作品が公開されてから24ヶ月は独占的に続編を製作する権利を有し、著者は第3者との交渉は一切行なわない。

もちろん、プロデューサーの私の立場としては極めて不利な条件であるため、その後交渉し私側に有利な条件を引き出している。

しかしこれが日本のIP権利者の立場なら、こういった条件を一つの参考にしてもいいのではないかと思う。

日本の映画産業の発展を願って

日本が直面している問題の本質を理解せずに、いかなる未来も語ることはできない。しかし、この国ではそういった人間が未来を語り、グローバル国家戦略を執行する。

本来役割を果たせず、経営の採算性もない株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS、この事業を終えた時日本には何も残っていないだろう。次世代の国富も、ノウハウも、人材育成も。映画製作、継続的経営の採算の両面が破綻した天下り事業の果ての未来には、60億円の日本の財産が消滅する悲劇のエンディングしか想像できない。

たとえそのような日本のエンタテイメント産業が悲劇を迎えようがこの会社を設計し、経営している人間には一切困らない。なぜならその未来には彼らはいないからである。

私はこの国の映画産業で働いていきたいと思っている。そしてその未来を自分のことと考えている。また同じく夢と希望をもった次世代の映画製作者が絶望する国であってはならないと思っている。その為にもこういった国家による背信行為のような事業が正しく検証され、正しく産業発展に寄与される国家戦略が生まれる事を願いたい。

執筆: この記事はヒロ・マスダさんのブログ『ヒロ・マスダ ブログ / Ichigo Ichie films LLC』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年10月13日時点のものです。

  1. HOME
  2. エンタメ
  3. 官製株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り
access_time create folderエンタメ 映画

寄稿

ガジェット通信はデジタルガジェット情報・ライフスタイル提案等を提供するウェブ媒体です。シリアスさを排除し、ジョークを交えながら肩の力を抜いて楽しんでいただけるやわらかニュースサイトを目指しています。 こちらのアカウントから記事の寄稿依頼をさせていただいております。

TwitterID: getnews_kiko

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。