子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その2)

子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その2)

今回は鹿野 司さんのブログ『くねくね科学探検日記』からご寄稿いただきました。

子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その2)

子宮頸がんワクチン固有の問題というより、予防接種全体に関して、多くの人の中には漠然と、事実とは違ったイメージが潜在している。そのせいで、何か少しでも危なげな情報を耳にすると、それくらいならやめておこうという忌避につながっちゃいがちだと思う。

その誤解の一つは、副反応というものについて、ほとんどの人がどういうものかわかっていないことがある。しかも、その問題を伝えるメディアも、かなり詳しい人でも重要な事実を言っていないんだよね。

副反応という言葉は、多くの人がなんとなくイメージする副作用という言葉と、だいたい同じ意味なんだけど、ワクチンに関してのみ使われる。

副作用ってのは、ある薬を使った時、その薬の薬効が引き起こす副次的な効果のことなんだけど、ワクチンの場合は作用は免疫を強化するだけで、他の薬品のような副作用ってのはないのね。

でも、ワクチンを打った後、アレルギー反応とか、狙いとは全く違う、薬効成分とは別の要因による反応は起きることはあるので、それを副反応という言葉で表現している。まあしかし、こういうのは専門家のこだわりみたいなもので、一般ユーザーはあんまり違いを気にしても意味ないけどね。

それで、この副反応でもっとも重要なポイントは、ワクチンと副反応の間には、因果関係が証明されていないってことなんだよね。

つまり、因果関係がなくても、予防接種をして、次に起きたナニゴトか悪そうなことは報告される。こういうのは、一般人にはなんでそうなってるのって、想像もしない感じの不思議なことじゃないかな。

子宮頸がんワクチンは、比較的新しいワクチンで、これまでの調査で、864万回接種のうち、重篤な副反応、つまり入院治療が必要な副反応があった例が357件報告されている。これはつまり、全体の0.004%だ。

他のワクチンと比較すると、100万接種あたり子宮頸がんワクチンは41.3件で、日本脳炎の25.7件や不活化ポリオ5.3件、インフルエンザ2.3件よりは多い。

でも、これはこういう数字で見るから違いがあるみたいに感じるだけで、0.0041%と0.0025%と0.005%と0.002%の差にすぎない。インフルエンザのなんと18倍ということもできるし、その差はわずか0.0039%多いだけともいえる。

メディアでの解説とかを見ると、副反応は全て報告されているわけではないので、これは氷山の一角だ的な紹介をすることがほとんどだと思う。でも、それは微妙におかしな事なんだよね。

副反応の報告は、因果関係を前提としないので、どう考えても関係ないだろうってなものもそれなりに含まれている。極端なことをいえば、ワクチンを接種した後に躓いて転倒して頭を打って死亡したような事例でも、そのワクチンの副反応による死亡例になるんだよね。

それは、ひょっとするとふらつきが注射に伴って起きることもあるかも知れないからという、かなり安全側に立った方針だからそうなるわけ。因果関係が証明されなくても報告されるってのは、そういう意図で行われているわけだ。

ワクチン接種に対する副反応の報告は、確かに全数が報告されているわけではないだろう。でも、常識で考えてあまり関係がなさそうなものも含まれている。もちろん、この二つを相殺はできないんだけど、氷山の一角という言い方だとやっぱり恐い方にミスリードしているし、いずれにせよ0.004%前後の極めて希な現象についてのわずかな大小の話なんだよね。

さらにいうと、副反応の大半は、注射を打った後に、そこがしばらくはれたりするってもので、常識的に考えて、まあそれくらいたまにはあるんでないのって感じのものだ。

でも、それを「副反応」って聞き慣れない言葉を使って、総数だけ示されると、なんだかとても恐ろしいことが起きているような風に、錯覚させられてしまうんじゃないかと思う。

さらにもう一つ、子宮頸がんワクチンについては、ワクチンそのものというより接種の仕方が、他の予防接種とは違っているってのがある。

子宮頸がんワクチンは、皮膚に対してほぼ垂直に針を刺す筋肉注射で接種される。ところが、他の予防接種は、日本では皮膚に対してかなり斜めに針を刺す皮下注射で行われることが多いみたい。

海外では、筋肉注射に抵抗はないみたいだけど、(それどころか、一度に両手両足とか何種類もワクチンを接種する国もある。日本は一度に一本が原則みたいで色々な種類を打つとものすごく長い時間が必要になる)日本ではかつての「予防接種禍」で注射を打った場所によっては筋萎縮とかの障害が起きたという記憶が医師の間に結構のこっていて、お医者さんが用心深く予防接種ではなるべく皮下注射にしようって思っているらしい。

今では、筋肉萎縮や神経を傷つける畏れのない場所ってのもわかっていて、そこに打てば問題は起きないんだけどね。

ただ、筋肉注射はやっぱり痛いものなので、注射後ごくまれにショックで気を失っちゃう人もいるみたい。これも副反応の一つで、これが報告されているから、子宮頸がんワクチンの接種後は、お医者さんは接種を受けた人をすぐに返さずにしばらく様子をみるってことになっている。

今回の子宮頸がんワクチンの接種を積極的にお奨めしない根拠となった複合性局所疼痛症候群(CRPS)ってのは、ワクチンというより、針を刺すという行為に伴って起きやすい物みたいで、この症候群のことは予防接種を主に受け持つ小児科では珍しくてあまり知られていなかったけど、整形外科系や神経内科系ではわりと知られたものだったみたい。

そういう意味では、この副反応は、ワクチンの成分とは関係なくて、注射のしかたと関係している可能性もあるわけね。

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「子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その1)」 2013年08月16日 『ガジェット通信』
https://getnews.jp/archives/399597

執筆: この記事は鹿野 司さんのブログ『くねくね科学探検日記』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年08月16日時点のものです。

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