続 統合失調症が多い理由 医療費分析の問題

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続 統合失調症が多い理由 医療費分析の問題


今回は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

続 統合失調症が多い理由 医療費分析の問題

一橋大学国際・公共政策大学院の井伊雅子先生が分析された中国地方の人口3万1千人、高齢化率35%のある市の国保(被保険者7862人)の医療費をみると、

外来医療費の上位は

■ 患者数(人) | 合計外来医療費(円)

高血圧症: 2,832 | 186,611,804
慢性腎不全: 114 | 108,637,579
糖尿病: 2,704 | 103,360,656
脂質異常症: 3,482 | 84,860,333
ゴーシェ病: 2 | 58,790,200
胃潰瘍/慢性胃炎: 2,592 | 39,685,233
統合失調症: 279 | 32,841,039
関節リウマチ: 228 | 27,418,750
ファブリー病: 2 | 24,661,710
骨粗鬆症: 774 | 21,675,398
前立腺癌: 415 | 19,113,030
うつ病: 362 | 18,752,295
変形性膝関節症: 700 | 18,208,182
多発性骨髄腫: 22 | 16,457,004
アレルギー性鼻炎: 1,235 | 16,154,971
気管支喘息: 697 | 15,826,290
腰痛症: 1,448 | 14,177,158

一人あたりの医療費上位は

■ 患者数(人) | 一人あたり医療費(円)

ゴーシェ病: 2 | 34.994.190
ファブリ一病: 2 | 12.330.855
転移性腎腫蕩: 1 | 2.387.370
続発性ヘモクロマトーシス: 1 | 2.018.220
急性リンパ性白血病: 2 | 1.933.730
肺腺癌: 3 | 1.696.635
HIV感染症: 2 | 1.243.632
クローン病: 3 | 1.159.690
成長ホルモン分泌不全性低身長: 2 | 1.064.995
横行結腸癌: 4 | 1.059.254

外来患者数の上位

■ 患者数(人) | 医療費合計(円) | 一人あたり(円)

胃潰瘍/胃炎: 3,701 | 48,043,584 | 12,981
脂質異常症: 3,482 | 84,860,333 | 24,371
高血圧症: 2,832 | 186,611,804 | 65,894
上気道/気管支炎: 2,749 | 15,115,614 | 5,499
糖尿病: 2,704 | 103,360,656 | 38,225
肝機能障害: 1,875 | 3,914,461 | 2,088
腰痛症: 1,448 | 14,177,158 | 9,791
アレルギー性鼻炎: 1,235 | 16,154,971 | 13,081
湿疹: 1,173 | 8,748,598 | 7,458
不眠症: 1,141 | 11,564,266 | 10,135
腎機能低下: 1,115 | 2,471,033 | 2,216
便秘症: 925 | 6,481,497 | 7,007
貧血: 815 | 2,794,277 | 3,429
骨粗鬆症: 774 | 21,675,398 | 28,004
結膜炎: 765 | 2,042,016 | 2,669

一人あたり医療費が高額になるのは、すべて難病で、患者数は数人だが一人あたり医療費が三千万円を超える場合もある。こういう場合にこそ「保険」の役割が必要になる。

外来患者数で見ると、胃潰瘍/胃炎が第一位だが、これは胃薬を出すときに、この病名でないと出せないということで、数が増える。

認知症に出す薬が統合失調症でなければ保険適用されないのと同じように、保険のために必要になる病名が上位に来ている。

こうした必要に迫られての現場の対応が、レセプトの正確な分析を妨げている。

さらにレセプトの分析には大きな問題が立ちはだかる。

私の地元の平塚市の2012年度の国民健康保険の医療費上位は:

 1 その他の損傷及びその他の外因の影響
 2 その他の悪性新生物
 3 統合失調症
 4 腎不全
 5 高血圧性疾患
 6 糖尿病
 7 歯肉炎及び歯周疾患
 8 その他の循環器系の疾患
 9 その他の心疾患
 10 脳梗塞

となる。

神奈川県のほとんどの自治体は、国保の医療費の分析を神奈川県国民健康保険団体連合会に委託している。しかし、この団体は、疾病の大分類までしか整理していないため(だから「その他の...」が多くなる)、疾病と医療費の関係が詳細までわからない。

上の病名と比較してほしい。大分類での整理では、難病などはひとまとめに「その他の..」になってしまう。一人あたりの医療費が大きい病気の分析などは不可能だ。

一方、健保組合の中には、細かなデータをとって分析しているところがある。

たとえばある被保険者7万人の健康保険組合では、検診結果と医療費の関係を20年間追い続け、BMIが25以上の者は10年後にそうでない者と比べ、約2倍の医療費がかかり、それに「血圧やや高め」が加わると、医療費が4倍になるということをはじき出している。

歯周疾患がある者とない者では20%も医療費(歯科だけでなく医科もあわせての医療費)が違ってくることもわかり、歯科検診をしっかりやっている事業所は15年間で医療費全体が横ばいだったのに比べ、歯科検診をやらない事業所では医療費は全体が24%伸びたことも明確になった。

さらにレセプトと患者の領収書を突合して点検したところ、わずか1%のレセプトチェックで年間100万円の還付があった。

これからは、こうしたデータに基づいた医療費の管理が必要なはずだ。

厚労省は、国保の財政基盤が揺らいでいるので市町村から都道府県に国保を移管して安定を図るとしようとしている。

だが、現在のように県の国民健康保険団体連合会がきちんとしたレセプトの分析をしていなければ、都道府県に移管しても医療費の管理はできない。厚労省のプランでは、ただ、大企業の健保と大都市の国保の加入者に余計に負担してもらおうというだけだ。

これでは医療改革にならない。

執筆: この記事は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年05月01日時点のものです。

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