じん(自然の敵P)1万4千字ロングインタビュー・音楽を使って物語を伝えたい(3)

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じん(自然の敵P)1万4千字ロングインタビュー・音楽を使って物語を伝えたい(3)

今回は『NETOKARU』からご寄稿いただきました。
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じん(自然の敵P)1万4千字ロングインタビュー・音楽を使って物語を伝えたい(3)

100パーセントにしない作り方

―最近のニコ動の曲はけっこうBPMの速い曲が多いですよね。そういうのは意識しますか?

じん: たしかに曲を速くするというのは僕もわかる部分はあります。ただそれはなんていうか、BPM180くらいの曲が流れ続けているライブハウスでBPM160の曲をやったら「遅い」って思われるかもしれないじゃないですか。だからBPMを速くしたいというよりは、その場に合ったBPMというのがあるかもしれないとは思います。ただまあ、その一方で僕はそんなの全然気にすることないとも思ってますね。BPMが遅い曲をみんなやっていないなら、あえて遅い曲を作って、そこにみんなが好きになってくれそうな要素を詰め込んだらどうなるんだろう、とか思いますね。同じような話だと、ニコニコ動画でロックっぽい曲がすごく流行り始めたことがあったんですけど、そこで僕は「如月アテンション」っていうアイドルポップみたいな曲を投稿したんです。そしたらわりと好意的に聴いてもらえたんですよね。だから必ずしも速いからいいというわけじゃない、○×クイズでみんな○へ行ってるのに自分だけ×に立って正解したみたいな、そういう感覚じゃないかなと思います。

―じんさんの場合はストーリーを4分半だったら4分半に収めるために、言葉の数を増やさなきゃいけないから必然的に曲が速くなることがあるかもと思ったんですけど、いかがですか?

じん: たしかに、小説みたいに言葉を詰めこむのはまあ無理ですよね。だからこそもう完全に引き算ですね。「ここはいらない」「ここ入らない」っていう形で削っていって、それでもやっぱり幅が足りなくなる。でも、だからといって7分とかの曲にしてしまうと、むしろストーリーが曲を邪魔してるっていうものになってしまうんですよ。さっき「4分半」って言ったのは、音楽とストーリーが一番ちょうどよく収まる長さだと思うんですよ。1番、2番、ラスサビっていうのは起承転結に近いものがあるんですけど、それを収めるための長さとして。

―その中に、ある程度の引き算をしながら物語を収めていくわけですね。

じん: そうなんですよ。それに100パーセントのストーリーを語るのが不可能だとしても、たとえば70パーセントだったらいけるというのが、連作で作る上で一番の魅力になることだと思うんですよ。つまり描けなかった30パーセントが、別の70パーセントの曲の中に含まれている形にできるんですよね。さらにその曲で描けなかった部分は別の70パーセントの曲に内包されている。そうやって数珠つなぎにした時に、1つ1つが補い合ってちゃんと100パーセントに見えるのはいいことだなと思うんですよ。「この30パーセントはどうなってるの?」って興味を持って聴いてもらえるし、「次の曲が楽しみだ」って思えるし、わからなかった部分が解決したらスッキリしてもらえるし。

―それをあえて最終的に100パーセントにしないような作り方には興味がありますか? リスナーに真相を想像させるような。

じん: 全く何が起きたかわからないのはダメだと思うんですよ。だけど結末が何パターンか想像できるようなものはいいと思います。たとえば「このあと主人公が死ぬのか死なないのか」みたいな余韻を残す終わり方はすごく好きです。要するに結末はわからないけど、曖昧なわけではない。実はさっき星新一さんが好きだって言った理由も本当にそこで、物語の終わらせ方なんですよ。星新一さんの作品で、地面に空いた穴に物を投げ込む話があるんですけど、ご存じですか?(※星新一のショートショート『おーい でてこーい』)。

―「地球の反対側に届いてるかもしれないくらい深い穴」みたいな話でしたっけ。

じん: ある村にデカい穴が現れて、何だかわからないからとりあえず村人がフッと石を投げ込むんですけど、反射音がない。かなり深いんだなということで、もっといろいろなものを投げ込んで反射音を調べようとしても音がしない。少し潜ってみようとしてもどこまでも先がある。そのあといろんな人がやってきて、廃棄物を投げたり、死体を投げ込んだり、犯罪者が証拠隠滅のために来たりするんです。で、その話のラストがすごく好きなんですけども、それから何年も過ぎてから、最後の最後である日、空からコツンって小石が落ちてくるっていう終わり方なんです。それを見ただけでもう何があったか分かるわけじゃないですか。だけど物語的にはすべてが書いてあるわけではない。そういう、表現していない部分がちゃんと想像してもらえるように作るのが目標ですね。だから「カゲロウデイズ」とかも、個人的には「あっ、なるほどね」とか思ってもらえるように作ったつもりです。

じん(自然の敵P)1万4千字ロングインタビュー・音楽を使って物語を伝えたい(3)

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人間の声らしい感情はいらない

―ボーカロイドとしてIAを使ったオムニバス「IA/02-COLOR-」に参加されてますけど、じんさんは初期からIAを使っていましたよね。IAにはどんな魅力があると思いますか?

じん: まあ僕は調教が上手い人間ではないので、あくまで下手くその視点からになるんですけども、V2エディタとV3エディタの違いがやっぱり一番大きいと思います。言葉をつなげたときに、他のVOCALOIDだとかなりすごい匠の技をやらないとそれっぽくならないものでも、IAの方がちゃんと歌ってくれる(笑)。あとはまあ、自分の曲調にIAが合いやすいっていうのもあるんですけど。自分の作るどんな曲調でも、そつなく合う印象があります。他のVOCALOIDを使おうかなって思うこともあるんですけど、「ああ、なんか出したいギターの音と合わないなー」みたいになってしまう。だからよく「じんさんは1st PLACEの差し金でIAしか使えないんだ」みたいに勘ぐられることがあるんですけど、実はそうじゃないんだけどなあと思ってます(笑)。

―(爆笑)。

じん: 逆に言えばもう、IAよりめちゃくちゃいいボーカロイドがいたらコロッとそっちを使い始めるから(笑)。むしろ1st PLACE側は「ほかのボカロ使わないの?」ってかなり言ってくれますね。チャレンジはするんですけどね。持っているVOCALOIDを順に試してみたり。だけどどうもピンと来なくて、作ってるうちに「IAを混ぜよう」みたいなことになってきて、「いや、混ぜるぐらいだったら1つでよくない?」ということになって。

―あるいは、IAよりも新しいものが出て「これを使ってください」とか言われても、IAの方が使いやすかったらIAを使うわけですね(笑)。

じん: そうですね。「IAと相性がいい」みたいに言ってくれる方がけっこう多いんですけど、僕もわりとそう思うところはあります。まあでもIAの宣伝みたいになっちゃったら嫌なんで悪いところも言うと、IAだと簡単にパワーが出ないんですよ。「ハッ」って声を張った時にバーンとパワーが出ない。

―ああ、たしかにそんな感じですね。柔らかいニュアンスが出せるがゆえに、デフォルトだとアタックの強い音になりにくい。

じん: そうなんです。ロックっぽい「元気バツグン!」みたいな、一瞬がなかなか僕は出せないんですよ。まあもちろん、うまい人はIAでも出せちゃうんですけれども、そういうのどうやってるんでしょうね。そういう本、どこかの会社で出してくれないかな(笑)。

―ウェブで、調教のやり方とか書いている人がいるじゃないですか。ああいうのを読んだりはしますか?

じん: たまーに読んだりするんですけど、ジャンル限定だったりとか、あとは書いてる人の癖だったりするので、その人の曲っぽくなっちゃうんですよね。それはなんか悔しいんで、自分なりのやり方を見つけたいなと思うんですよね。まあ調教はいつも下手くそ下手くそと馬鹿にされてますけど(笑)。

―でも、それが味になる部分もあるんじゃないですか?

じん: そうかもしれないですね。そういう意味だと、さっき言ったようなストーリーと音楽の融合みたいなことをやる上で、実は僕は切り捨てているのは「人間の声」なんですよ。つまり人間らしく歌うと変な感情が入ってくるんです。僕の歌詞は文章の内容をメロディに載せて叩き込むものなので、感情表現とかはいらないんです。たとえばこれが朗読だったら、声によって演技するわけじゃないですか。

―あ、なるほど。朗読は役者として演じるものに近いわけですね。

じん: そうです。だけどカゲロウプロジェクトの場合は、ただ歌詞をBGMみたいにしてメロディと一緒に流すからこそ届くものだと思うんですよ。つまり、お話を伝えるための「乗り物」が違うんですよね。朗読の場合は人間による演技力がお話の乗り物になるけど、カゲロウプロジェクトの場合はメロディなんですよね。

<取材・構成:さやわか>

執筆: この記事は『NETOKARU』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月21日時点のものです。

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