警察庁長官と警視総監が異例の早期辞職、サイバー犯罪捜査マニュアルが原因か?
政府は22日の閣議で片桐裕警察庁長官と樋口建史警視総監より提出されていた辞職願を了承し、後任の警察庁長官と警視総監にそれぞれ米田壮警察庁次長と西村泰彦警備局長を25日付で充てる人事を内定しました。
通例では警察庁長官・警視総監とも2年前後で交代するのが目処とされており、2011年10月に就任した片桐長官と同年8月に就任した樋口警視総監は両名とも任期を半年以上も残した状態での異例の辞職となります。各社の報道では両名が辞職した理由については触れられていませんが、この両名の共通点である生活安全局の出身と言う点から事情が見えて来ます。
1994年の警察法改正で保安部を前身として「市民生活の安全と平穏の確保」を目的に設置された生活安全局は古物商やパチンコの監督業務、わいせつ物規制を始めとする広範囲の事務を取り扱う部署です。サイバー犯罪対策もその業務に含まれていますが、片桐長官が生活安全局長だった時代に同局の情報技術犯罪対策課が作成した「IPアドレスが判明すれば、捜査は半分終わったようなもの」とするマニュアルが致命的な失態につながったのが、4名もの誤認逮捕者を出す失態となり現在もなお未解決のままである一連の遠隔操作ウィルス事件でした。
元より、サイバー犯罪捜査の実働部隊となる情報通信局は技官が中心でノンキャリアが中心の刑事局と同様に将来の長官・警視総監候補となるキャリアが中心の交通局や生活安全局・警備局とは全く異なる文化を持っており、キャリア側からは一段低く見られていることは否めません。問題の捜査マニュアルは片桐長官が生活安全局長の時代に作成され、そのマニュアルを基にサイバー犯罪捜査を指揮していたのが後任の生活安全局長だった樋口警視総監なので、28日に通常国会が開会した後に両名の責任追及が始まるのは必至と見られていました。
誤認逮捕や自白の強要が次々と明るみに出たことに対して、その原因を作った“主犯”と言える片桐長官は昨年10月19日に開かれた全国警察本部長会議で「遠隔操作ウイルスの可能性がつきまとうことを肝に銘じ、サイバー捜査では解析の徹底、供述と解析結果の慎重な吟味をしてほしい」と各都道府県本部長に要請していますが、そもそもの発端はキャリアのプライド優先で情報通信局の技官による専門的な見地からの助言を軽視していたことにあると言わざるを得ません。このような生活安全局の体質が「台所にチョコレートケーキがあった。その横にお前がいた。ケーキが無くなった。お前の口の周りにチョコレートが付いている。誰が食ったのか。俺は食ってない。今のお前は、それと同じだ」(神奈川県警の検証報告書より)と自白を強要し、強引にでも有罪判決を勝ち取れればそれで了とする捜査手法が常態化していた原因になっていたと見られても仕方がないでしょう。
長らく、交通局か警備局の出身者が占めて来た長官ポストを生活安全局長経験者として初めて奪取した片桐長官は同局長の後任者である樋口警視総監と共に生活安全局出身者の“長期政権”を確立したと見られていましたが、皮肉なことに自身が局長だった時代に作成した捜査マニュアルに足元をすくわれて短い天下に終わってしまったと言えそうです。
画像:警察庁/国家公安委員会の看板(中央合同庁舎2号館)
画像ソース:写真素材 足成 http://www.ashinari.com/2008/10/26-009741.php
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。