オレは「明治維新がこのクニを駄目にした」って気がしてきましたよ

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オレは「明治維新がこのクニを駄目にした」って気がしてきましたよ

今回はHiro Fujimotoさんのブログ『Nothing Upstairs』からご寄稿いただきました。

オレは「明治維新がこのクニを駄目にした」って気がしてきましたよ

「泰平のしくみ――江戸の行政と社会 [単行本]」 藤田 覚(著) 『amazon』
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4000237993/

黒船来航についての有名な狂歌に「泰平の 眠りを覚ます上喜煎 たった四はいで 夜も眠れず」というのがある。

歌道に暗いヒトのために解説すると、上喜煎というのは煎茶の銘柄。お茶にはカフェインが含まれているから現在のコーヒーと同じように眠気覚ましの効果がある。とは言えその効き目には個人差とか慣れがあって、現にオレなど日に5杯はコーヒーを飲むが夜眠れなくて困ったことはない。つか昼飯にトースト食ってコーヒー飲んで直後に昼寝さえする。当時のヒトが飲んでた煎茶のカフェイン含有量がどれほどだったかわからんが、4杯飲んだくらいで眠れなくなるほどではなかったのだろう。この歌はまずそういう「常識」がベースにあるわけね。

あとは駄洒落だ。上喜煎と蒸気船の音が同じこと、お茶も船も一はい、二はいと数える(正確に言うと黒船は「軍艦」なので一隻、二隻なんだけど、そんなこと江戸の狂歌作家には関係ない)ことをつかまえて、黒船が四はいやってきたくらいでガタガタブルブル夜も眠れねぇぜ、と……。オレが学校でこの歌を習った時は「夜も眠れないほどびびってる幕閣連中を揶揄してる」みたいなニュアンスだったと記憶してるが、違うだろうな。この歌の主語は江戸っ子たる自分たちだろ。なにしろ「江戸っ子は 五月の鯉の 吹き流し 口先ばかり はらわたはなし」なのである。これが諧謔というものですよ。

いや何を言いたいかというと黒船怖いではなくて、江戸時代約270年間、狂歌作家が「泰平の眠り」と歌うほど日本の社会は「泰平」であったのだちうこと。これは(これこそ)日本人として誇っていいことだと思うけど、世界のどこのクニと地域にも、およそニンゲンが住んでいる限り200年余に渡って外国との戦争も、内戦もないというコトを経験したところはないのである。なんつか我らが江戸幕府は平和と社会の安定の最長不倒期間をこの世に現出したギネス級の政府だったんであるよ。

で、そんなことが可能だったのはなぜか、というのがこの本のテーマなのである。いや驚きますよあなた。もちろん個別の制度や政策、紛争解決の方法論などについてここで細かく語ることはできないのだが、江戸の行政というのは今日のオレたちが時代劇なんかで見てるのとは全然違ったのである。

例えばありがちな事例として豪商人が例えば絹織物とかの独占仕入れを画策、そうしてくれれば年いくらいくらの上納金を納めますと代官所に申し出るぢゃん。すると代官所は絹の売り手であるかいこ農家とかの意見をちゃんと聞くのである。でそらあきまへん、と返事されると「却下」なの。この手の訴願はとても多いが相当公共の役にたたないと却下されてる。講談などに出てくる豪商人と結託して行政をねじまげ私利私欲を貪る代官というのは、どうも明治からこっちの地方官吏のイメージが投影されたものらしい。

もいっこ。水野忠邦が行った天保の改革、幕府の財政を建て直すという名目で庶民にも倹約・節約を強いたあれだ。あんときって今の日本の状況とかなり似てて、国庫の金が少ないから庶民に贅沢やめさせてその分の金を召し上げようという、消費税引き上げとほぼ発想が同じ政策なのね。これに真っ向から反対したのが我らが遠山の金さん、南町奉行・遠山金四郎景元。そんなことをしたら市中になお金が回らなくなって経済が立ち行かなくなる、わずかな贅沢は明日の活力だと水野に抗うのだ。彼がどんだけ庶民の側に立った立派な行政官であったかという話はメウロコ。

あそこのクニはけしからんと外国に喧嘩を売ったり、金髪でTVに出て無責任な放言ぶちあげてれば人気が出るてな時代ではない。もちろん提灯持ってくれるマスコミもない。そんな時代に江戸っ子に絶大な人気を誇った。背中の彫り物は真偽不明ながら、後に講談の主人公になるのは故無きことではないんである。こう言うと怒り出す人も多かろうと思うが、オレは「明治維新がこのクニを駄目にした」って気がしてきましたよ。

執筆: この記事はHiro Fujimotoさんのブログ『Nothing Upstairs』からご寄稿いただきました。

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