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借金のカタに取れるもの、あるいは出せるもの

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借金のカタに取れるもの、あるいは出せるもの

今回はrikuzenさんのブログ『当たり判定ゼロ』からご寄稿いただきました。

借金のカタに取れるもの、あるいは出せるもの

先般、こんなニュースがありました。

「シャープ、パイオニア株など主力2行に提供=融資担保として」 2012年9月3日 【時事ドットコム】
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201209/2012090300756

振り返ってみれば、我々のそばには借金のカタに取られているものばかりです。
たとえば家を買う時は借金をしますから、銀行に抵当権を設定されます。つまり、いざ借金を返せなくなった場合、家を売却して得たお金は優先的に銀行に返済されます。住宅街を散歩してて目にする家は、実際のところ半分銀行のものばかりです。
街に出れば商業ビルがあります。ビルを建設するには多額のお金を必要とするため、企業は銀行から資金を調達します。その場合、銀行は貸し倒れを防止するため、商業ビルには抵当権が設定されます。商業ビルの賃貸業がうまくいかず、企業が倒産してしまった場合、銀行は商業ビルの売却資金を返済に宛てます。
郊外に出れば工場があります。製造業を営む企業は、建物や機械を買うため、あるいは運転資金を調達するために銀行からお金を借ります。この場合も、工場はお金を借りるための担保に供されます。
これら借金のカタを差し出さずとも多額の資金を調達できる企業というのは、よほど財務内容に優れた優良企業だけです。短期の運転資金なんかだと無担保で結構借りられたりもしますが、長期となるとまずムリです。

我が国は担保金融と揶揄されるほど担保の裏付けのある資金ばかりで経済が回っていますが、大雑把に書くと企業への貸出利率というのは「インフレ率+銀行の調達利率+銀行の事務費用+利益+リスクプレミアム」で計算されますので、担保を設定するということは回収確率が上がるためリスクプレミアムが下がります。すなわち企業も低利で資金調達できることになるため、出せる担保があるならば出したほうが得なのです。破産した時に、ほかの債権者に持っていかれるか銀行に持っていかれるかくらいの違いしかありませんし。逆に無担保で借りようとすると、リスクプレミアムが乗りますので、結構えげつない金利になったりしますので、やっぱり担保があるなら出したほうがお得です。ほら、メロスだって容赦なくセリヌンティウスを差し出してたじゃないですか!あれと一緒ですよ。

しっかしどいつもこいつも担保担保担保!この世の中、影の所有者が存在する物件ばかりなのです。影の所有者!適当に書いてみたけど、無駄にカッコいい表現に悪寒が止まりません。鼻水も止まりません。これは完全に風邪引いてますね。
ともあれ、これまでは上述のように不動産担保が企業金融市場でも一般的でした。しかし、バブル崩壊以降、不動産の値段が下落する一方ということもあって、最近はABL(Asset-based lending・動産担保融資)と言って、たとえば商品在庫を担保にしたり、車を担保にしたり、極端なところだと牛や馬を担保にして融資するような例も出てきました。

長くなりましたが、まぁ要するに担保ってこんな例がありますよという話です。

土地

今も変わらぬ担保の王様にて基本。んじゃその価値はどうやって算出されてるのという話になるのですが、国税庁が発表している路線価や、固定資産税の課税評価額から算出されるケースが多いです。
国税庁のページから路線価が見れますので*1、家をお持ちの方は「自宅の前の道路の値段×自宅の土地面積」で自宅の土地の値段でも調べてみてください。

*1:『財産評価基準書 路線価図・評価倍率表』サイト
http://www.rosenka.nta.go.jp/

ところで基本的に土地の価格が上昇する時は景気が上向きになるのですが、いわゆる「資産効果」というやつで、土地が担保としての価値を増大させることで、借主から見ると金融機関からの借入可能枠が増加するわけです。
すなわち、景気が良くなる→土地の価格が上がる→担保価値が上がってたくさんお金を借りられる→お金がたくさん流通する→景気が良くなる→土地の価格が上がるの大勝利ループに突入するわけで、高度経済成長期に貸金業やってた老人からは「あの頃は適当に審査してても、土地さえ担保に取ってれば、そのうち値段が上がったから必ず回収できた」となんとも景気のいい言葉を聞いたこともあります。いつまでも土地神話が続いていれば良かったのにね。

建物

土地が担保に出せるなら、建物も当然担保になります。建物の償却年数は30~50年程度ですが、それぞれ残存価格に一定の掛け目をかけた数字が担保価値となります。土地建物にはややこしいケースがあって、上の建物を他人に貸しているというケースです。我が国では借家人の権利がある程度保護されていますので、貸主が倒産して銀行が所有権を持ってもすぐ処分できなかったりするので換金性が低いことから、土地の担保価値も相応に抑制されることとなります。

株式

上述のシャープのようなケース。株式時価の80%~90%が担保価値となることが多い気がします。手続的には、株式の所有は「証券保管振替機構」いわゆる「ほふり」に電子的に記録されていますので、その質権欄に質権者を登録することになります。

売掛債権・手形

売掛債権担保は経産省が一時期猛プッシュしてましたが、全然流行りませんでしたね。(*´ω`*)
手形は企業金融の基本と言われるようなもので、企業が取引先から持ってきた約束手形を銀行が預かる代わりに、利率を割り引いた金額を企業に払うというスキームです。企業は、約束手形の期限が到来し自社の口座に代金が振り込まれる前に、銀行から資金を手にすることができます。言ってみれば、2ヶ月後に100円を手にする権利を銀行に98円で売るようなものですね。手形取引はだいぶ下火になってきましたので、年々ボリュームも落ちつつありますが。ただ、京都の呉服業界なんかは特殊で、「台風手形」と呼ばれる7ヶ月くらいある約束手形が平気で発行されたりするので、手形割引もよく利用されます。

機械

工場に置いてある機械なんかも担保に活用されることがあります。ただ、機械というのは専門性が高いものも多く、即時の換金性が難しいことから実質的にそれほど価値はありません。マシニングセンターとか言われても、ホントに一部の人しか要らないですし、そんなタイミングよく買ってくれる人がホイホイ現れるかと言われれば難しいところです。土地が担保の王様という理由は、土地は万人にとって価値があって資金化しやすいものだからなのですね。
登記のテクニック的には、工場とセットで担保に取るなら工場抵当法第8条に基づき財団を組成するか、工場抵当法第3条に基づき工場付属のものとして目録を作るかどちらかです。まぁ要するに、工場に「この機械も工場とセットのものとします」と法務局に申請しておいた上で、工場に抵当権を設定するわけです。反対に、工場は担保に取らずに機械を担保に取る場合は「譲渡担保」という方法を取ります。すなわち、銀行に所有権を渡してしまい、企業はそれを使わせてもらう賃料という形で銀行に返済金を払うのです。返済しない場合、所有権は銀行にあるわけですから、銀行は自由に処分することができます。機械は法務局への登記制度がないため、このようにして擬似的に担保をとる技術があるわけですね。でも書いてて思ったんだけど、こんな手続方法知ってても本当に何の役にも立たない気がするので「ドライマンゴーを食べるとお通じが良くなる」みたいな知識を知っている方がよっぽど有意義だと思いました。

在庫

カゴメがトマトを担保にして金を借りたという例*2がありますが、我が国ではほとんど事例はありません。というのも、商品在庫ですから担保にとったところで基本的にしばらくしたら売れてしまうわけです。また、製造する商品が変わることもあります。したがって、「対象となる在庫は継続して同じ商品であり、常に一定量保有しており、それを客観的に証明することができる」ことが担保の要件となります。カゴメは、これからもずっとトマトを使い続けるでしょうし、一定以上の量を常に保管し続けるでしょうし、管理システムもキッチリしているのでしょう。

*2:「カゴメ、トマト担保に借り入れ 資金源を多様化 動産担保融資を活用」 2012年8月30日 『日本経済新聞』
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO45519070Z20C12A8DT0000/

テクニック的には、機械担保の問題と同じく我が国には動産を登記する手段は存在しませんので、「これだけの量のトマトを担保に取り、毎月数量について報告するものとする」旨の契約を締結して、公証人の確定日付をもらう感じですかねぇ。

車両

自動車抵当法という法律がありまして、車も担保に出すことができます。たとえば運送会社なんかは大量にトラックを買う必要がありますから、トラックに抵当権を設定して金を借りたりするケースがあるわけです。ただ、車ですから事故ったりすることもあって、担保がパーになる可能性もあるので、保険金への質権設定を同時にしておくのが一般的です。
手続き的には、抵当権設定契約書を締結して陸運局に申請すればOKですが、この制度、全然知られていなくてほとんど使われていません。

動物

企業金融でさえ、ときには借金のカタに動物が使われることもあります。ただそもそも現代社会では動物なんて処分に困るので、担保になる時点で不思議なシロモノなんですけどね。「金返さねぇならこいつ持って行くぞ!」「そ、それだけはご勘弁を…」「ヒヒーン」みたいなケースがあっても、銀行の店内でパカラッパカラッと馬が走り回るだけで完全に誰得。担保においては、換金性容易性が非常に大きなポイントになってくるのです。土地が担保の王様というのは、土地が万人にとって価値があるものだからです。したがって、動物担保というのは全国でも極小数の事例となっており、少ない例にしても「うちはこういう取り組みもしています!」という政治向けパフォーマンスがむしろ重要な点でしょう。基本的にスケールメリットが重要な金融業界で、こういう特殊な少数事案をやってる場合は、政治性がごにょごにょといった感じです。

ちなみに会計上では、動物は固定資産として分類され、減価償却の対象となります。たとえば乳牛は6年で償却、競走馬は4年と法定償却年数が定められています*3。ちなみに競走馬については、満2歳から償却開始となるので、6歳で償却が完了し残存価値がなくなります。つまるところ「6歳未満で引退する馬は甘え(キリッ by 国税庁」という計算になりますので、国税庁は4歳後半から衰えの始まるダビスタの馬には強い不満を覚えている可能性があります。

*3:「基本通達・法人税法:第4款 生物の償却」 『国税庁』サイト
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_06_04.htm

「金が金を呼ぶ」なんて言葉があります。土地を担保に出せばお金が借りられます。借りたお金で土地を買えば、その土地を担保に出してお金が借りられます。ミもフタもない話だけど、この単純な連鎖をうまく利用すれば堤一族の西武グループのように一気に財をなすことができます。
1億円の最終利益を出す企業が10億円の投資をしようと思えば、10年待つ必要があります。
外部から資金を調達すればこの10年を瞬時に到来させることができるわけで、借金とはつまるところ、利息を払う対価として時間を買うようなものです。

とはいえ、「服を買いに行く服がない」じゃないけど、まず資産がないと借金もできないというあたりで積んでる感の高い世の中でございますので、やはり「ブルジョワジーは死ね」という基本に立ち返るのが正しい貧乏人の姿と言えましょう。

執筆: この記事はrikuzenさんのブログ『当たり判定ゼロ』からご寄稿いただきました。

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