漫画家・佐藤秀峰の日記「漫画とお金の話(まただけど)。」

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ガジェ漫では、漫画にまつわるエトセトラをお届け致します。

今回は佐藤秀峰氏が日記で語った「漫画とお金の話(まただけど)。」を掲載です。

よ~く考えよう~お金の話は大事だよ~…それでは、どうぞ!

* * * * *

(中略)

こんな記事が出ていました。

福本伸行のアシスタントは時給450円? それでも「待遇がいい」と言われる不思議
http://www.j-cast.com/2012/10/04148959.html?p=all

詳しくは記事を読んでいただくとして、福本伸行さんが講談社のホームページで作画スタッフを募集しているそうで、その雇用条件が一部で話題になっているようです。

条件は以下の通り。

月給13~22万円

1日13時間、週6日勤務

雇用期間 3年

食事、交通費支給

ボーナス年2回(1ヶ月半~2ヶ月)

ネットでは、この募集の告知を見て、「アシスタントは1日12時間以上、週に6日働くことになり、仮に月給が13万円とすれば時給換算で450円程度だ」とし「ブラック企業すぎるのではないか」などと話題になったそうで。
福本さんの職場は会社化していますから、スタッフは労働者として労基法が適用される訳で、それに照らし合わせると…、確かに労基法違反ですね…。

ただ、漫画業界のトップを走る福本さんにして、この条件であることの意味を考えてほしいのです。

福本伸行さんは、えーと…、今「福本伸行さん」と書きましたが、僕の師匠です。
普段は「師匠」とか「福本先生」と呼んでいます。
僕は、師匠に作画スタッフとしては20歳から22歳まで、2年3ヶ月ほどお世話になりました。
そこで学んだことは、漫画家として僕の基礎となっております。
僕が働いていた頃は、1日16~20時間、平均するとやはり週6日程の勤務で月給はもうちょっと安かったかな?
ボーナスもなかったなぁ…。

「カイジ」や「天」や「アカギ」、「銀と金」などを連載していた頃ですね。
3人のスタッフで毎月100ページ以上の原稿を仕上げていました。
先輩スタッフ2人は、僕が加入してから1年ほどで退職し、その後は僕がいわゆるチーフアシスタントを務め、人物の体部分全部と背景画の半分近くを描いていました。
1週間で10時間しか寝かせてもらえなかったこともあるし、45日間連続泊まり込み、70日間連続勤務なんてのもありました。

やはり当時もスタッフ内で「時給換算していくらなんだろう?」という話が出たことがあり、計算してみると、確か200円くらいだった気がします。

でも、「それでいいや」と思っていました。
おいしいものもいっぱい食べさせていただいたし、何よりも深夜に師匠が話す漫画論が熱くて大好きでした。
(いえ、最後は辛くて脱走したのですが…。)

僕にはもう一人師匠がいまして、次にお世話になったのは高橋ツトムさんでした。

22歳から23歳まで1年3ヶ月くらいの期間だったでしょうか。
高橋さんは「漫画家は”先生”じゃねぇ!」というスタンスの方で、「高橋さん」とか「ボス」と呼んでいました。
1日12時間、月15日勤務で、月の前半働いて後半は全部お休みみたいな感じでした。
お給料は、日給に換算すると1万円以上いただいていいました。

当時は月産50~70ページくらいで、僕は毎月その内の35~45枚くらいの背景を描いていて、絵のレベルも高く、ついていくのに必死でしたが、それでも「ここは天国か!?」と思うくらい快適でした。
多分、「地雷震」の13、4巻あたりは僕が背景を半分以上を描いています。

原稿最終日に打ち上げ的な飲み会をするのですが、朝5時までやっているお店でさんざん飲んだ後、朝8時までやっている高円寺の居酒屋さんでさらに飲み、それでも足りないと中野の仕事場に戻って昼まで飲んで…、無茶苦茶でしたが、それも好きでした。

ずっといたかったのですが、24歳で僕は漫画家として独立し、退職しました。

その他に作画スタッフ経験としては、高橋さんの職場でお世話になる前に半年ほど無職の時期がありまして、6,7名の漫画家さんの所に臨時スタッフとして行ったことがあります。
臨時で呼ばれる時は、「スタッフが一人逃げた」とか「このままでは締め切りに間に合わない」という場合が多いので、大体シビアな現場となります。

日給5000円~12000円くらいが相場で、どこも泊まり込みだったり、徹夜で作業を強いられることが多かったです。
「一徹」「二徹」という言葉があり、一晩徹夜は当たり前、二晩徹夜もよくありました。
24時間連続で作業した場合には、2日分の日給を欲しいところですが、1日分しかもらえません。
時給換算すると最低は200円、最高は1000円という所でしょうか。
出来高制の所もありましたね。
仕上げ作業1枚につき1000円とか。

僕は自分が漫画家になった時、「じゃあ、自分はどうしよう?」と考えました。

初連載「海猿」のスタート時、スタッフへの給料は月給制で15万円、1日12時間、週3~4日勤務、食事交通費支給としました。
これまでも何度か日記で書いていますね。

原稿料は1万円でスタッフは3名いたので、人件費が45万円+スタッフの食費、画材代、6畳台所付きの自宅兼事務所の家賃、光熱費などなど、毎月20万円の赤字でした。
スタッフ3人で週刊ペースで原稿を作成することは難しく、かと言って、さらに残業をお願いする訳にもいかず、僕が睡眠時間を削って背景を描くことになる訳ですが、もはや仕事として成立しておらず、「将来への先行投資だ」と割り切るしかありませんでした。

連載がいつまで続くか、単行本化するかどうかもわからず、印税はその時点で当てになりませんから。
原稿料でプラマイ0にするためには、スタッフの給料を8万円にすれば可能な計算ですが、それはちょっとね。
実際、初の単行本である海猿の1巻の印税を何に使ったかというと、それまでの赤字を補填しただけでした。
3巻くらいまで単行本が出て、やっとビジネスとして黒字になりました。

当時、僕は個人事業主で給与支払事務所開設届けを役所に出していなかったので、厳密には僕とスタッフは委託関係にあったわけですが、実際には現場で指揮を執り、細かな指示を与え、スケジュールを管理していました。
僕は委託費を支払うだけで、スタッフに給料を払える立場でさえなかったのです。

税務署から「自宅で仕事をしている場合、家賃は経費に含まれない」と言われたことがありますが、「つーか、プライベートなんか1分もないです!だったら僕はホームレスです!プライベートな空間はどこにもありません!」とキレたら、家賃の一部を経費として認めてもらえました。

法的にグレーな状態で、不眠不休で働いても原稿料では毎月10万円単位の赤字が出るのが、ごく一般的な新人の連載漫画家の姿だと思ってください。

毎度、このような話をすると、「お前は経費をかけ過ぎだ」という話になるのですが、「そりゃあ、人件費を削って違法な労働をスタッフに強いれば、原稿料でも黒字化できるでしょうよ」としか言いようがありません。
一人でコツコツと描くか、キャリアを積んで原稿料をアップしてもらう以外、原稿料で生活できる術はないのです。

経費をかけない描き方というのも実はあります。
ですが、長い目で見れば手抜きの原稿を描く作家に仕事の依頼はこなくなりますから、得策ではないでしょう。
制作費を4分の1に削る方法は過去の日記で書いていますのでご参考まで。

http://mangaonweb.com/creatorDiarypage.do?p=1&cn=1&dn=33940&md=1

こちらは現在の佐藤漫画製作所の給与明細です。サンプルですが、新入社員でだいたいこんな感じ。

http://manga.getnews.jp/files/2012/10/0001.jpg

労働保険に加入し、週の労働時間も平均で40時間を超えないように工夫しています。

年に10ヶ月は週5日(11:00~23:00)の勤務になりますが、2ヶ月は強制的に有給をとってもらい、全体として調整しています。
雇用契約書も作り、3年契約でボーナスは年に4ヶ月分。

一応、誰に見せても恥ずかしくないことをしようとは思っていますが、まぁ、普通というか、一般企業と比較してそれほどいい条件ではないですよね?
これが僕できる精一杯です。

現在の制作費を考慮しない原稿料システムが続く限り、漫画業界は先細っていくと思います。

働けば働くほど貧乏になって、宝くじに当選する確率以下のヒットの可能性に賭けるしかないとなれば、それはもう職業ではありません。
だからと言って、原稿料に相当するお金を支払える企業は出版社以外に今の所ないですし、出版社が崩壊すれば、さらに悪い状況が待っているのかもしれません。

最近は単行本の印税率もどんどん下がっています。

先日、印税が3%という漫画家さんにお会いし衝撃を受けましたが、その後、「私は1%ですよ」という方に会いました。
500円の単行本が出版されて、1%だと印税は1冊あたり5円です。
1万部発行されたとして、印税額は5万円、仮に10万部越えの大ヒットになっても印税額50万円です。
どうりで、最近は単行本が出てもバイトをしている作家さんが増えたと納得しました。

今日も暗い話でしたね…。

拙著「漫画貧乏」ではその辺りのお話を詳しく書いております。ストリーミングで90ページ分ほど無料で読めますので、ぜひご覧くださいませ。

漫画onWeb 佐藤秀峰『漫画貧乏』
http://mangaonweb.com/creatorOCContentsDetail.do?no=33104&cn=1

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