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あらゆる可能性を秘めた若き天才、ラウヴによる“デビュー・プレイリスト”、その真意を読み解く内本順一氏の特別ライナーノーツを公開

あらゆる可能性を秘めた若き天才、ラウヴによる“デビュー・プレイリスト”、その真意を読み解く内本順一氏の特別ライナーノーツを公開
ヒット・ポテンシャルの高い曲をどんどん生み出すソングライター/コンポーザー/プロデューサーとしての才能と、強力なファルセットで歌えるシンガーとしての才能を併せ持っている。しかもまだ23歳で、かなりのイケメン君。今年3月に代官山UNITで2日間行なわれた初来日公演ではステージ狭しと動き回ってダンスしたり、相当なテクのギターの腕前も披露したりと、非常に熱量の高いパフォーマンスを見せていた。今のところ欠点がひとつも見つからない、まさに才能のカタマリのようなラウヴが、2015年の出世曲「The Other」からスタートさせて更新し続けてきたプレイリストをここに完結させた。

 3月の来日時にインタビューした際、「アルバムの予定は?」という筆者の質問に対して、彼はこう話していた。「アルバムについてはまだどうなるかわからないんだ。ただ、曲のストックはめちゃめちゃあってね。たくさんありすぎて困るくらい(笑)。とりあえず今はプレイリストにどんどん曲を足していってる。まあ、アルバムはそのうちって感じかな」

 そう、アルバムじゃなくてプレイリスト。つまりこれまでに完成させた曲をリスト化したもの。ストリーミングの普及によって、この1~2年でアルバムという形態の価値観や重要性が聴き手のみならず送り手たちの間でも大きく変化し、例えばドレイクが2017年の『More Life』をいち早くプレイリストとしてリリースしたり、チャンス・ザ・ラッパーがミックステープを再定義したり。ラップミュージックの世界ではけっこう前から、アルバムという形態とは異なる“(作品の)届かせ方”を試みるアーティストが散見され出していた。20代前半のシンガー・ソングライターであるラウヴもまた、いい曲がいい形で届けば、アルバムという形態にこだわる必要なんてないじゃないか、という現代の若者らしい考え方のようだ。あるいは、気合を入れて(コンセプトや構成もしっかり考えて)いつかアルバムを作るための、まずはこれが準備体操のようなものなのかもしれない。

 プレイリストにはタイトルもついている。「I met you when I was 18.」。ラウヴ自身がこれについて説明しているので、ここで紹介しておこう。

「“I met you when I was 18.”はさまざまな曲を集めたもので、一種の物語でもある。それは僕が18歳のときにニューヨークへ移住して、最初に恋愛した頃のもの。まわりの人々と深く交わるようになって、自分なりのアイデンティティを見出そうとしていた頃の物語。またそれは、2015年に僕が最初の歌“The Other”を発表してからの物語でもある(多少、順番は前後するけど)。だから、そこかしこからその時々の記憶がよみがえる。いま、ここに全ての曲が出揃った。“I met you when I was 18.”は、アルバムという形とは違うけど、それでも僕にとってはひとつの作品なんだ」

 言わば、18歳から23歳に至る6年間の心の旅。もしくは人として、音楽家としての成長の記録。アルバムという形態をとるよりも、それほど曲順に留意することなく単純に並べてリスト化したほうが、そのような自身の成長の記録を、聴く人とも共有しやすいと考えたところもあったのだろう、きっと。

 聴いてわかるように、どの曲もメロディ・オリエンテッド。つまり誰が聴いても「いい曲だな」と思える普遍性の高いメロディ、心の琴線に触れるメロディ、または流れのいいスムースなメロディをラウヴは書く。インタビュー時に影響を受けたミュージシャンを尋ねると、彼はポール・サイモン、ジョン・メイヤー、コールドプレイといった名前を挙げていたが、それはなるほどと頷けるものだ。ポール・サイモンのような正統派シンガー・ソングライターから受け継いだと思しき抒情性が表れた曲があれば、ジョン・メイヤーのようにフロウを重視した曲もあり、コールドプレイのようにドラマチックでスケール感を有した曲もある。しかも、単にメロディが「いい」だけじゃない。「いい」だけではヒットはしない。そのことを彼はわかっている。このプレイリストのほとんどの曲に、彼は耳に残らずにはいられない非常に印象的なフレーズの繰り返しを入れている。印象的な言葉のある部分を伸ばし、それを3~4回繰り返す。聴けばその部分が音として耳にこびりつき、気づけばふとしたときに鼻歌でうたってしまう。そういう仕掛けが非常に巧みだ。

「以前はただ“いい曲”を書くことしか考えてなかったけど、16~18歳の頃にどうやったらヒットソングが書けるようになるのか、その頃に流行っていたいろんなヒットソングを聴きまくって、その構造を徹底的に分析したんだ。ケイティ・ペリーのヒット曲なんかは特に参考になったよ」。これもインタビューの際に言っていたことだが、印象的なフレーズを複数回繰り返して歌うあたりも、その時期に学習したことのひとつなのだろう。

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