映画レビュー:少年少女を救う裏稼業……男を襲う悲惨な光景とは?『ビューティフル・デイ』
あのあまりにも衝撃的で、まがまがしくも美しいサスペンス映画『少年は残酷な弓を射る』の日本公開から6年。今、世界で最も注目されている映画監督の一人リン・ラムジー監督の最新作であり、カンヌ国際映画祭で主演男優賞と脚本賞を獲得した『ビューティフル・デイ』が公開されました。
ジョー(ホアキン・フェニックス)は、行方不明になった子どもたちを捜し出し、ときには人殺しもいとわず奪還するという汚れ仕事を請け負う元軍人。ある日現職の上院議員から、売春組織に囚われた幼い娘を助け出してほしいと依頼が入ります。いつものとおり冷静に判断し、ぬかりなく準備を整え、愛用のハンマーを携えて救出に成功しますが、依頼主の元に少女を届けようとしたジョーの前に、思いがけない出来事が待ちうけていたのです。
警察やFBIなどの公式機関が手を出せない非合法なやりかたで、着実に仕事をこなすジョー。実は彼は戦場で起きた数々の悲劇のために大きなトラウマを背負っていました。除隊後に元上官の勧めでFBIに入り、誘拐、拉致監禁された少年少女の救出に誰よりも成果を挙げていましたが、ある日向かった事件現場で、一生頭からぬぐいされないようなショッキングな光景を目にしてしまい、それ以来心が崩れ始め、FBIを辞めて今の仕事に専念していたのです。周囲と全く関わりを持たず、年老いた母と二人で暮らし、闇の世界で淡々と仕事をする間も、その悲惨な光景が繰り返し彼を襲います。
前作と同様に過剰な説明は一切なく、衝撃的な映像が突然スクリーンを覆います。その一方、はっとするほど詩的で美しい場面が現れたり、意外な場面で予想外のユーモアが見え隠れしたりという、まさにこの監督にしか出来ないであろう、とてもユニークな作品です。初めて彼女の作品に接した方は、いままで経験したことのない驚きの連続でスクリーンから目が離せないでしょう。前作で監督のファンになった方なら、決してその期待を裏切ることはありません。”21世紀のタクシー・ドライバー”とも呼ばれるこの作品で主役を演じたホアキン・フェニックスは、凄まじいと同時に非常に繊細でもろい人物像を、恐ろしいほどの迫力で演じきっており、ファンならずとも必見です。
なお公開にあわせて、TVシリーズ『ボアード・トゥ・デス』の製作総指揮でもあるジョナサン・エイムズが書いた原作ハードボイルド『ビューティフル・デイ』(唐木田みゆき訳/ハヤカワ文庫NV)が刊行されています。ストーリーと設定はほぼ原作どおりですが、真相の衝撃度は小説の方がより高いかもしれません。映画では結末が大きく改変されており、この脚色が大変見事で、一度観たら忘れられないラストシーンとなっています。ぜひ原作と映画の両方でお楽しみ下さい。
映画『ビューティフル・デイ』公式サイト
http://beautifulday-movie.com/
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【執筆者プロフィール】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、月刊誌「本の雑誌」、「映画秘宝」等で執筆しています。
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