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クリープハイプ、全国ホールツアー完走 中野サンプラザ公演の熱いライブレポートが到着

クリープハイプ、全国ホールツアー完走 中野サンプラザ公演の熱いライブレポートが到着

 クリープハイプが3年ぶりの全国ホールツアー【今からすごく話をしよう、懐かしい曲も歌うから】を開催し、2月25日、北海道・札幌市教育文化会館にてファイナルを迎えた。

クリープハイプ ライブ写真(全5枚)

 本ツアーは、1月12日の東京・かつしかシンフォニーヒルズ・モーツァルトホールを皮切りに、全国10都市11会館をまわってきた。本記事では2月9日の東京・中野サンプラザホールにて行われた公演をレポートするとともに、ツアー全体を振り返る。

 今回のツアータイトル【今からすごく話をしよう、懐かしい曲も歌うから】は、アルバム『世界観』収録の「バンド」という曲の歌詞をもじったもの。クリープハイプは、かつて何度もメンバー変更を繰り返した時期があり、尾崎世界観(Vo.Gt.)のソロユニットとして活動したこともあった。そうした紆余曲折を経て現在のメンバーを正式に迎え入れたのが2009年11月16日。その夜のことを曲にしたのが「バンド」で、この曲の「今から少し話をしよう 言葉はいつも頼りないけど」という歌い出しをもじったものが今回のツアータイトルになっている。「バンド」はクリープハイプ最高傑作との評価も多いが、その歌詞から明らかなように、本人たちにとって特別な曲でもあり、最近のライブではほとんど演奏しておらず、レア曲になりつつあった。それがタイトルに冠せられたツアーならば、ファンとしては当然「もし1曲目が「バンド」だったら……」と期待を膨らませる。そうした期待に当然のように応えるのが、現在のクリープハイプだ。

 小川幸慈(Gt.)、小泉拓(Dr.)、長谷川カオナシ(Ba.)が現れ、少し遅れて尾崎世界観が登場。暗闇の中、うっすらとステージに幽かな光があたる。エレキギターを抱えた尾崎が独唱し始めたのは「バンド」。中野サンプラザに尾崎の声だけが響き渡る。その瞬間、時が止まったかのようにホールの空気が変わった。フロアからは息を呑む音が聴こえてきそうなほどの静寂、張り詰めた緊張、静かな感動が伝わってくる。この時代に「ロックスター」という言葉を使うことにはためらいと恥じらいを感じるが、もしもまだロックスターというものが存在するのだとしたら、それは歌声や楽器の音色ひとつでその場の空気を一変させることができる人間のことだ。もっと言えば、存在だけで空気を一変させる特別な人間のことだ――この日の尾崎世界観のように。

 ワンフレーズの独唱ののち、尾崎のエレキギター、続いてメンバーの演奏が重なり、一気にホールが光で満たされる。この短い数秒の間に、ソロユニットとしてのクリープハイプから「バンド」になったクリープハイプまでの歴史が凝縮されているわけだ。最後にふたたび独唱となって「今からすごく話をしよう、懐かしい曲も歌うから」と1曲目を締める頃には、声を抑えながら涙を流すファンが多数見受けられた。

 なぜクリープハイプの楽曲を聴いて涙を流すのか? それは、クリープハイプの曲には「これは自分のための歌だ」と感じさせる力があるからだ。では、彼らの曲にはなぜそのような力があるのか。答えはこの日の尾崎の言葉にあった。「一生懸命、会場全体にではなく“ひとり”に向けて歌うので、“ひとり”で受け止めてください」クリープハイプの曲は、顔の見えない大衆に向けた曲ではなく、あくまでも“ひとり”、つまり個人に向けて歌われる曲なのだ。受け手はそれらを個人的なメッセージとして受け取る。だから彼らの曲に心が動かされ、かけがえのない自分のための1曲になる。

 本ツアーでは、“ひとり”に向けて歌っているという姿勢が、歌詞の言い換えにも顕著に現れていた。「愛の標識」では「死ぬまで一生愛されてると思っててもいいですか?」とファンに語りかけ、「イノチミジカシコイセヨオトメ」では「生まれ変わってもクリープハイプになりたい」という言葉まで飛び出した。楽曲のアレンジや演奏も大胆で、長谷川カオナシがリードボーカルを取る「火まつり」ではベースの強いエフェクトが燃え盛る炎をイメージさせ、「鬼」では照明が目まぐるしく変化し、それに呼応するように小泉のドラムは激しさを増し、小川のギターは刺すように鋭かった。そして小林武史がプロデュースした「陽」は、音源とはまったく別の曲に聴こえるほどバンドサウンドにアレンジされていた。

 また、「懐かしい曲も歌うから」という予告通り、「AT アイリッド」「風にふかれて」「転校生」「リグレット」といった懐かしい曲や、爽快なロックナンバーの新曲まで披露。これまでのライブとはひと味もふた味も違うセットリストだ。尾崎本人によると「過去最高に遊んだセットリスト(当日配布されたフライヤーより)」らしいが、遊びを持てるのはファンとの信頼関係があるからだ。

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