『脱出ゲーム』は5歳から思い描いていた夢の場所だった 【会ってみた No.1】

access_time create folderエンタメ ガジェ通
脱出インタビュー

京都で出会った2人が、それぞれの道を経て東京でイベントを成功させた

『脱出ゲーム』。その舞台は閉ざされた空間からスタートする。限られた空間の中に潜むヒントを探し出し、次々と浮かび上がる謎を解き、空間からの脱出を図るという内容だ。インターネット上にはその『Flash版』とも呼べる3Dアドベンチャーゲームが存在し、世界中で人気を呼んだためその存在をご存知の方も多いだろう。そんな『脱出ゲーム』を仮想ではなく現実のものとして東京・世田谷に出現させた2人。シリーズ・ロングインタビューの第1回目はそんな彼等の元を訪れた(今回の脱出ゲームに関するレポートはこちら)。

『廃校脱出シリーズ2 ~図工室からの脱出~』
主催 : recommuni
企画製作 : SCRAP

2人の名前は飯田仁一郎(写真・左)と加藤隆生(写真・右)。京都大学西部講堂にて開催されるロックフェス『ボロフェスタ』の立ち上げをきっかけに出会った2人。その後、飯田はスリーピースバンド『Limited Express(has gone?)』のメンバーとして世界ツアーに出発、帰国後は東京で音楽配信に携わることに。加藤は京都でフリーペーパー『SCRAP』を発行し、その中で様々なイベントを立ち上げていった。次に2人の人生が交わったのは、“音楽”ではなく“ゲーム”を通してだった。
 

■『少年探偵団』に対するあこがれ

加藤
「小さい頃は冒険が疑似体験できるゲームが好きだった。だから原点はやっぱりドラクエ(ドラゴンクエスト)ですかね。自分が勇者になって、謎を解いて、レベルを上げて最後のボスを倒すという。そういうのが好きなんですね、やっぱり。江戸川乱歩の探偵小説なんかも読んでいたんですけど、とにかく物語の中に入りたかった。そういった物語ではよく“屋根裏部屋”って出てくるじゃないですか。なんで自分の家になかったのか不思議だった。だってマンションやアパートからじゃ物語が始まらないんですよ! だから親にもよく聞きましたね。宝の地図はないかって(笑)」

― そんな加藤が『脱出ゲーム』を作り上げる原点は、どこにあったのだろうか。

加藤
「そういう少年が活躍する物語を見ていて、なんで俺は活躍できないだろうと思ってた。そして自分の周りでは事件も冒険も起きないまま34歳になり、あれっと思いましたよ(笑)。このままじゃ名探偵になれないと思って。それならせめて怪盗側に回ってやろうと思ってできたのがこのゲームなんです。まずは京都で始めたんですけど、それがお客さんの入りが予想以上によくて。そこで大阪に持っていったら、そこでもあたってしまった。確か900~1000人程入ったと思います」

加藤は“京都”という街が持つ独特の空気を説明する。

加藤
「でも言えるのは“京都”という場所だったのが良かったということ。東京だったとしたら、まずは1万人集まるかどうかとか、大きい規模での成功を目指して頓挫していたかもしれない。僕らはまず、100人集めよう、というところから始めた。そしてそれを東京に持って行くことができた」

とても居心地のいい街だが、そんな街への思いは複雑だという。

飯田
「お金をかけなくても楽しめる街ではあるんですけどね。正直、音楽に関しては東京より遅れてるなぁと感じる面もあります。でもこのイベントに関しては、東京より早かったかなと。あの街にはそういう土壌があるんだと思います」

― 先の大阪イベント、飯田はどのような目線で見ていたのだろうか。

飯田
「加藤君が平安女学院(高槻キャンパス)でやった『脱出ゲーム』がよくってね。ゲームなのに体を使ってる感じがして良かったんだけど、もっと衝撃を受けたのが、こう、人間模様みたいなものが如実に現れるんですよ。この『脱出ゲーム』とういのは。バンドメンバー3人で行ったんですけど、参加するだけで他2人の個性が浮き彫りになって見えるんですね」

手応えを感じた飯田は、東京での準備を進めていった。

加藤
「飯田君から準備が整ったという連絡があったので、よし、それならコンテンツを持ち込むぞと。そこからは早かったですね」

脱出インタビュー

■“ゲーム”から『脱出ゲーム』へ

― 2人にとってのゲームの原体験とはどんなものだったのだろうか。

飯田
「僕がゲームを始めたのは、まぁ普通に小学校の頃からですね。ファミコンから。それでゲームボーイやってスーパーファミコンに移って、そこで止まりましたかね。でもこの人はようやるんですよ。それこそもう朝から晩まで」

加藤
「飯田君はそんなにゲームせんもんね」

飯田
「ある1日なんて20時間ぐらいやってたかな。僕が出かける時に彼がゲームをやっていてね。そんで帰ってきたらまだやってたんですよ。これはしゃーないなと思ってね、そっから僕も少しだけゲームしました」

加藤
「それはもう、本を読んでもゲームをやっても、物語の中には入れないわけですよ。疑似体験はできるけど当事者ではない。そういう嫉妬というか(笑)、歯がゆさもあって没頭しちゃうんですよね」

しかし加藤は、5歳ぐらいから『脱出ゲーム』を夢見ていたという。

加藤
「小学校3年生の時は『ドラえもん』が来ると思ってたんですよ。だからさ、タイムマシンが出てくる机の一番上の引き出し、あるじゃないですか。もうあそこだけめっちゃ綺麗に磨いてましたよ。『ドラえもん』が来れば、登場人物になれる。本当に、物語の登場人物になりたかったんです」

静かにそう語った加藤。小さい頃から見続けた夢を実現した今、その思いを熱く語る。

加藤
「ほかにないものを作る、という強い思いがあったんで、とにかく細部までこだわっています。今回のゲームに関して言えば、どんなバラバラな22人が集まったとしても、きちんと役割分担がされるんです。作業を分担しなければ時間内に謎が解けないようになっているし、そのバランスが上手くとれたとき、物語は急速に進んでいく」

今回、東京で開催したゲームは理想的だったという。

加藤
「心がけたのは、なるべく難しい問題を入れないようにしたところ。頭を使うものは1問しかない。計算問題です。知識や経験はほとんど必要なくて、ひらめきが重要なんですよ。そのバランスには気をつけた」

そして自身の“ゲーム”感を明かす。

加藤
「脱出ゲームはスタート地点の感情がゼロだとしたら、最初は小さなストレスを与えてマイナスにもっていくんです。そして段々と謎が解けていくうちに、それがゼロに戻る。その感覚がカタルシスになるわけですよ。テニスとかピクニックとかはもう、最初から楽しいじゃないですか。でもゲームは逆であるべきだと思うんですよね」

脱出インタビュー

■「色んな人に相談に乗ってもらいたい!」

― 参加人数を増やしたり、開催地を拡大したりしないのかとたずねると、少し困惑した表情を浮かべて語り出した。

加藤
「やりたいことはたくさんあるんですよ。ぼちぼち、イベントの参加人数が延べで5000~6000人になるところなんです。ここまでは熱意だけでやってきました。でも規模を拡大するためにはですね、もう“大人”の力がいる(笑)。なのでこれはもうぜひ! 色んな“大人”に相談に乗っていただきたい!!」

自分達はビジネスマンではないから、とハニカミながら続ける。

加藤
「マスを意識したことはないんだけど、200人来たらいいなと思ったら300人来たり、毎回予想を超える人数のお客さんが来てくれた。だからひょっとして、きちっと宣伝すればもっと大きいイベントにできるのかな、という。ただ熱意だけで来れるところまで来てしまった気がするので、今のところやり方が見えてこない」

飯田
「まぁ人数のバランスというのもあってですね。あんまりにも大人数にすると醍醐味が薄れるてしまうかもしれない。だけど少ない人数だと、必然的に回転数が落ちる。興行として成立させるのは難しいけれども、今のところはお客さんに楽しんでいただく、というのが僕らの100%なんですね」

これまでも様々な人達に相談することによって、ゲームをマッシュアップさせてきたという。

加藤
「基本的なプロットができたら、色んな人に何十回と説明するんです。『ドラゴンとか出てこないと駄目なんじゃない』と言われれば、よし、出そう! と思う。『体を使うものも欲しいよね』と言われれば、盛り込みましょう! となる。そしてまた説明を繰り返して練り上げるんです」

1時間の中にバランス良く配置された“謎”だが、「ボツになるネタは何十倍もある」と静かに笑う。

「作り方はまぁ、とにかくアイデアを出す(笑)。今回のゲームで言うなら、『投影された映像に折り紙を重ねると、映像の中の人形が折り紙の上を歩いたりする』というアイデアがベースになった。そこに何を足していくのかというのが僕のやり方。そして“図工室”というコンセプトに沿ったものをクレッシェンドになるよう並べる。段々盛り上がるようにね」

■東京編3部作、完結に向けて

― そもそも、2人にとっての“遊び”というものの価値とはどのようなものなのだろうか。

加藤
「面白い遊びがないなんて話しをよく聞くんですけどね。カラヲケ、ボーリング、ダーツ色々ありますけど、きっと飽きてる人も多いと思うんですよ。他に何かがあったら、みんな飛びつきたいはずなんですよね」

飯田
「今回は500~600人が集まってくれたんですけど、大人の遊びだなと言ってくれる人が多かった。それがね、素晴らしいと思いましたよね」

1時間2500円(当日は3000円)という価格を安く感じさせたのは、経験したことのない面白さだった、と感想を伝える。

飯田
「最近、売れなくなってきているアルバムCDは1枚で3000円ぐらい。最高のエンターテインメントと言われる映画だって、2時間で1800円ですよね。でも『空間で遊ぶ』っていうのは、そもそもそれぐらい出しても惜しくない価値があると思うんですよね」

加藤
「でもできればこの2500円で踏みとどまりたいんですよねぇ。そしてたくさんの人たちに遊んでほしい。規模は大きくしたいですけど、100人を集めようと思って始めた頃のまま、1万人が楽しめるイベントになったら一番いいと思ってます」

2回目となった東京公演、この先の展開を飯田は明らかにした。

飯田
「東京編はなぜか暗黙の了解で3部作というのがあって(笑)。なので完結編を11月あたりにやろうかと思ってます。ぜひ、楽しみにしていただきたい。間違いなく今回を超える“新しい体験”を、みなさんにお届けします」
 

046

「脱出ゲームは5歳から思い描いていた夢の場所だった」そう言いながら笑顔を見せた加藤。次のイベントについては「ドラクエ世代の人間には夢の空間ですよ。自分で言っちゃいましたけど」と語った。そして舞台は東京から、また京都へと戻る(この記事の詳細はこちら)。

『ひきこもり勇者と4つの扉』 [Link]
2009.6.27(SAT)・28(SUN)
各日12:00~18:00 (16:30最終受付)
ばしょ 京都国際マンガミュージアム [Link]
一般:1500円/中高生:1300円/小学生:1100円(ミュージアム入場料含む)
 

――――――――――
編集後記

インタビューの最後に、「お互いに“ここは相手に勝てない”と思うところはありますか?」とたずねた。飯田は「やっぱり『脱出ゲーム』ですよ。これは本当に面白いんですよ。まぁ音楽イベントになると立場が逆転するんですけどね」と笑った。加藤も「音楽イベントの制作では確かに勝てないですね。あとはまぁお互い、なんでもまぁまぁ自分のほうができるなと思ってます」と笑う。この2人のお互いに対する信頼が今回の『脱出ゲーム』を生み出したのだとしたら、10年後にはまた何か別の、まったく違った形のエンターテインメントを世間に対し突き付けているのかもしれない。
――――――――――
 

■関連記事はこちら
教室から「脱出」せよ! リアル脱出ゲームに参加してきた
廃校の図工室から“脱出”してきた

  1. HOME
  2. エンタメ
  3. 『脱出ゲーム』は5歳から思い描いていた夢の場所だった 【会ってみた No.1】
access_time create folderエンタメ ガジェ通
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。